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色々とキツくて

 雨水で食器を洗っていると、ヘリオスさんに相談された。


「申し訳ないんだが、昼間の移動中に仮眠を取らせてもらえないか? 君らが使っていた敷物を貸してもらえたら、有り難いんだが」


「どうぞどうぞ。夜中の見張り、大変ですもんね」


「いや、見張り自体は楽勝だった。何も出てこなかったしな。ただ……」


 ヘリオスさんが視線を向けたのは、男爵家の騎士達がたむろしているあたり。共に食事をしている集団の中に、女性冒険者達の姿もみえる。同じ物を食べているようなので、こっちは諦めて騎士達にタカることにしたんだろうか。


「何かありました?」


「ああ、直接あった訳じゃないんだが……」


 言葉を濁すヘリオスさん。オレの隣で食器を拭いているセイナに目をやり、口をモゴモゴさせている。オレが気持ちヘリオスさんに近寄ると、声を低くして教えてくれた。


「アイツ等、ろくに見張りもせずに酒飲んで駄弁っててな。それだけなら、まあ、迷惑って程じゃ無いんだが」


 そこから更に声を抑え、苦々しげに囁く。


「騎士達と彼女達でずいぶん仲良くなったみたいで、夜中にイチャイチャと……耳が良いせいで、そーゆーのが全部聞こえて眠れなかったんだ」


「うわー」


 ふんわり説明してくれたけど、それって、そーゆーことですよね……。


「アズと交代で見張るにしても、あれが続くと、ちょっと……色々とキツくて」


「どうぞゆっくり寝てください!」


「ヘリオスのお兄さん、眠いの?」


「寝てないんだって。馬車で寝てもらうから、セイちゃん、静かに出来るよね?」


「うん!」


「ありがとう。図体でかくて邪魔だろうけど、ごめんな」


「いいよ!」


 ヘリオスさんが午前中、アステールさんが午後に仮眠を取ることになり、オレは一旦収納していた敷物を再び取り出した。積んであった食料が使われて減ったので、荷物を奥に寄せて積み直し、奥側半分で寝転がれるようにする。寝床を整え、ついでに蜂蜜入りのホットミルクを淹れて渡すと、ヘリオスさんが大袈裟に感謝してくれた。


「ありがとなー。君らがこっちに乗ってくれて良かったよ。でなきゃ彼女達と一緒になってた」


 それはこっちのセリフです。ささ、横になって、おやすみなさーい。


 さて、2日目の旅である。ヘリオスさんが眠っているので、お喋りは控えて、編み物をすることにした。といってもオレが出来るのはかぎ針編みだけで、当然かぎ針なんて持ち合わせていない。だけど問題ない、両手があれば指編みが出来るのだ!

 いや偉そうに言うほど難しくもないけどね。実際セイナだって出来るし。ただ、キタジンの町で買った毛糸は極太より太くて、セイナの指だと編みにくかった。だからセイナはオレの左手に掛けた毛糸を使って、指編みしている。

 空いている右手では、ジェイドを指導中。ジェイドは地頭が良いようで、やり方はすぐに理解したのだが、どうも不器用らしく。指から毛糸が外れる度に落ち込んでいる。


 この様子だと組紐作りも、飾り結びは難しいかもしれない。名目上ジェイドはオレの弟子って事になってるから、色々教えようと思っていたんだけど。組紐ディスクっぽいものを作って使えば大丈夫かな。それかいっそ、ストリングアートをやらせてみようか。危ないから釘は無しにして、板に切れ目を入れて糸を掛けるだけのやつならいけるかも。


 考えながら、左手の指をワキワキと動かすと、セイナがケタケタ笑う。


「シィーッ、静かにな」

 

「だって、お兄ちゃんが」


「ごめん、でも指が」


 指編みの毛糸がキツくて、指が痛くなってきたから。セイナは自分の指を使っていないので、加減がわかりづらいらしい。指を動かしてキチキチになってきた毛糸に余裕を持たせたのだけど、その動きがセイナのツボに嵌ったようだ。


「セイちゃん、もう少しフワッとして」


「んー、このくらい?」


「そうそう、上手」


 左手の甲側に垂れた編み上がりは、幅が太くなったり細くなったりしているが暖かそう。何本か合体させてマフラーにしようねと話している。冬になる前に防寒着も調達しないと。指編みを量産して繋げれば、ポンチョなら作れるか?


 オレの手仕事スキルはセイナの「お兄ちゃん、あれ作って」を叶えるためのものなので、セイナの興味を引くもの特化である。オレ自身が細かい作業が好きで凝り性なので、嵌まると自分であれこれ調べ、似たような物にも手を出してしまうんだけど、その中に編み物は入ってなかった。かぎ針でコースターを作り終えた時点で、編み物ターンは終了したのだ。だからセーターなんて作れない、手袋はもっと無理。


「お兄ちゃん、疲れたー」


「じゃあ、休憩しようか。ジェイドもおやつにしよう」


 編みかけのマフラーは指からフォークに移す。4つに分かれた先っぽを指に置き換えて、毛糸を引っ掛けておくのだ。

 両手を空けて、おやつの一口ドーナツを皆で食べる。今日から甘い物は、馬車の中で食べることにした。もちろんアステールさんにもおすそ分け。


 甘さ控えめなドーナツをモグモグしながら、ふと思い出す。そういえば、オレのマントを買うのを忘れてたな。


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