ウサギリンゴ
日が沈んで早々に、オレとセイナ、ジェイドの3人は馬車で休むことになった。女性冒険者達が夜中に嫌がらせ出来ないようにと、ヘリオスさんが勧めてくれたのだ。
「馬車なら鍵も掛かるし、乗り合い馬車を壊したら弁償ものだし、下手なことはしないだろ。テントだと切り裂いたり火をつけたり出来るからな」
怖いことを言って、見張りまで買って出てくれたヘリオスさん。アステールさんと交代で、どちらかが必ず馬車の扉の前に陣取ってくれるという。改造テントを出すのを躊躇っていたオレは、ありがたく助言に従うことにした。テントには『関係者以外立入禁止』『硬化』『耐火』『防水』の各効果を付けていたが、性能テストはまだなので心許ないし、ばっちり有効だったとしても、それはそれで騒動になりそうなので。
「ありがとうございます。これ、良かったら夜食にどうぞ」
警護の一環で夜警もするというヘリオスさん達に、ソルトバタークッキーの袋を渡す。夜の見張りはヘリオスさん達と男爵家の騎士達、女性冒険者達で回すのだとか。騎士はともかく、あの女性冒険者達が真面目に見張りをするのだろうか。
「お、ありがとう! しっかり見張ってるからな。鍵掛けるのを忘れるよ」
「はい。おやすみなさい」
「ヘリオスのお兄さん、アズちゃん、おやすみー」
「おう、おやすみー」
アステールさんも手を上げて応えてくれた。良い人達と同じ馬車で良かった。セイナが2台目の馬車を拒否してくれたお陰である、子どもの勘は侮れない。
馬車に入って内鍵を掛け、扉側からオレ、セイナ、ジェイドの順と寝る場所を決める。座面と荷物を平らにならし、その上に分厚い敷物を重ねて敷いたのでふかふかだ。更に毛布を掛ければ温かく、ゆっくり眠れそうだ。
が、その前に。
窓のカーテンをきっちり閉めて、ポータブルカンテラを灯した。まだお目々パッチリなセイナとおにぎりを作り、外では食べられなかったデザートのリンゴを切り分ける。
食後に焼きリンゴを作る予定だったんだけど、女性冒険者達と揉めたので中止したんだよ。串焼き肉であれだけゴネたんだ、砂糖たっぷりの甘ーい焼きリンゴなんて作ってみろ、懲りずにまた強奪しに来るに決まってる。
「お兄ちゃん、ウサギさんにして」
「りょーかーい」
ウサギリンゴを作ってやると、ジェイドが興味深そうに見ているので、こちらは鯉のぼりに。ウサギリンゴより複雑なので、少々彫りづらい。だけどジェイドが期待に満ちた目で応援してくれるので、完成まで頑張れた。
「すごい……食べるのがもったいないです」
「すぐ食べて。変色するから」
頭としっぽのどちらから食べようか悩んでいるジェイドの横、セイナはウサギの頭をシャクシャクかじる。性格が出るなぁ。
リンゴの皮を食べながら、2匹目のウサギと鯉を作る。ペンギンとか白鳥とかもあったな。ケーキ屋でケーキに飾られていたリンゴのバラを見て、セイナに作ってって強請られたこともあったっけ。ああいった細工って、誰が考案するんだろ。こっちにも有るか? 無いか?
「ジェイド、こういう飾り切りみたいなのって見掛けない?」
「お屋敷でも見たことないです」
「そっかー」
だったらフルーツカービングとか、売り物になるかな。リンゴが安くて大量買いしたから、アイテムボックスに売るほど入ってるんだよね。でも食べ物はなー。食品衛生法なんて存在しないだろうけど、食中毒はあるよなー。
あ、食べ物じゃなければ有りか?
男爵夫人の入浴準備をする侍女さんが、石鹸を持っていたのを思い出した。そしてカービングといえば、ソープカービングがあるじゃないか。
たまにセイナの保育園のお迎えに行っていたオレ。仲良くなったママさん達に誘われて、ソープカービング体験に行ったことがあるのだ。小器用なオレは筋が良いと褒められて、調子に乗って家中の石鹸を彫り尽くし、保育園のバザーにカービング石鹸を出品したりもした。売れ行き好調だったはずだ。
石鹸、パターン設定しても良いんじゃないか? 形もシンプルだし、材料をおにぎりと兼用できる。売り物にも良さげだし、自分達でも使えるし。
さっそく設定し、セイナに手伝ってもらって、おにぎり用に拾っていた石を石鹸に変える。うっかり手洗いの歌を歌って『きれいきれーい』も発動してしまったのはご愛嬌。光量控えめで良かった。
これで『ごっこ遊び』のパターン設定は5つ、MPの半分を消費した。ここからは、もう少し慎重に、何を設定するか考えよう──と、寝る前には思っていたはずなんだけど。
翌朝、セイナが朝食に卵かけご飯が食べたいというので、たまごをパターン設定することに。だってオレも卵かけご飯が食べたかったんだよ。




