表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/61

おじちゃんじゃなくてお兄さん

「俺はヘリオス、こっちはアステール。2人で組んで冒険者やってる。2人ともCランクだ、よろしくな」


 冒険者ギルドカードを見せながら自己紹介してくれたのは、同じ馬車に乗った鎧兜のお兄さん。カシャンと兜の面頬を上げ、晒した顔はなかなかの男前だ。ニカッと笑うと人懐っこい感じで、体はデカイのに威圧感がない。近所の子ども達によじ登られそうな、子ども番組で体操のお兄さんをやってそうな、そんな親しみやすい風貌だ。


 ヘリオスさんが渡してくれたので、冒険者ギルドカードをまじまじと眺める。ランクを示す「C」の文字が大きく記され、その横に名前、下のほうに冒険者ギルドのマークと国名が入っている。確か南のほうの国の名前だったと思う。裏返しても、職業とかレベルなんかは記載されていない。


 冒険者ギルドカードを返して、オレもアイテムボックスから商業ギルドカードを引っ張り出した。こちらのカードも「ユウ」という名前と商業ギルドのマーク、登録地であるこの国の名称しか記載がない。これが王室御用達の一流商人だとか、各国に支店を持つ大商人とかになると、その旨が書き込まれるらしいのだが。生憎そんな予定はない。


「よろしくお願いします。オレはユウ、商業ギルドに登録してますけど、商人というより職人です。小物を作ってて、こっちのジェイドは弟子、こっちは妹の」


「セイちゃんです!」


 セイナが大きな声で自己紹介すると、ヘリオスさんの目尻にシワが寄る。子どもが好きそうで良かった。と思った途端。


「ヘリオスのおじちゃん、そっちの人はなんでお顔隠してるの?」


 セイナが二重に失礼なことを口にした。ちょっとセイちゃん! おじちゃんじゃなくてお兄さんでしょ! 初対面の人の格好に口出しするのもやめなさい!

 オレが小声で注意していると、ヘリオスさんが苦笑した。


「あー、小さい子から見たら20代なんておじさんだよな。でも、出来たらおじさん呼びは止めて欲しいな」


「うん、わかった!」


「あと、アズ──アステールは訳ありでな。顔を見られたくないんだよ。と言っても犯罪者とかじゃないから、そこは安心してくれ。それと、無口っつーか、ほとんど喋らないのも気にしないでくれ」


「わかりました。アステールさんは、騒がしいのが苦手ですか?」


 無言で首を横に振るアステールさん。ローブからガラス瓶を取り出して、蓋を開けてヘリオスさんに差し出す。ヘリオスさんが中身をひとつ摘んで口に放りこんでから、オレ達にもガラス瓶の口を向けた。


「砂糖菓子だ。挨拶代わりだと。嫌いじゃなかったら、受け取ってやってくれ」


 ヘリオスさんにも勧められ、ひとつ摘んで口に入れる。甘さと共に、柑橘系の爽やかな風味が鼻にぬけた。セイナ達も1つずつもらって食べている。


「ありがとー、アステールのおじちゃ……お兄さん? お姉さん?」


「ハハハ、どっちだと思う?」


「えー、わかんないよー」


 セイナがアステールさんの顔を凝視するが、仮面はシンプルというのも烏滸がましいデザインだ。ロボットでもこれより複雑な顔をしてるんじゃないだろうか。正面から見ると、正方形の平面に、2ヶ所だけ丸い穴が開いている。穴には曇りガラスのような半透明のレンズ? が嵌め込まれているが、その奥にあるはずの目は見えない。


「ハハッ、こいつのことはアズちゃんとでも呼んでやってくれ」


 とりあえず、同乗者とは仲良くやっていけそうだ。オレは座席の上で組んでいた胡座を解き、体育座りに座り直した。


 オレ達が乗る3台目の馬車は、簡素な造りのぶん中はゆったりしているはずだった。しかし本来足を置く場所にはギッチリと箱が詰められ、足の置き場がない。それでも和室で胡座に慣れたオレは、別に気にならなかったが。

 ヘリオスさん達も座面に体育座りで、特に体格の良いヘリオスさんは窮屈そうだ。そして屋根の上に括り付けられたバスタブがガタガタと音をたてる度に、天井に目を向けている。


「気になりますか?」


 雑談に花を咲かせながら、チラリと上に目をやったヘリオスさんに聞いてみた。


「ちょっとな。俺は人より耳が良いから。それと、あまりガタガタいってると、外の音が聞き取れなくてな」


「馬車の中でも警戒してるんですね」


「冒険者だからな。それに俺達は、いざって時には戦闘に加わる約束で、チケットを安く買ってるんだ」


「そうでしたか。オレも水樽を運ぶ代わりに、値引きしてもらいました」


 そんな話をしながら、馬車の旅は進んでいった。


 途中、何度か休憩をとり、初日は何事もなく野営地に到着した。不安材料だった男爵家御一行も、平民風情は目に入らないのか、絡んでこなかった。唯一昼食休憩の時に、男爵子息が近寄ってきたけれど。


「なんだ、女の子がいるって聞いたのにガキかよ」


 なんて言い捨てて、あっさり引き返していった。お子様じゃなかったらセイナに何する気だったコノヤロー。二度と近づくんじゃねえコノヤロー。

 面と向かっては反抗できないので、馬車の陰からこっそりと威嚇しておいた。


 それ以外はいたって平和だった。魔物は1匹も現れず、野盗の類も現れず、野生の牛の群れを遠くに見かけただけ。ヘリオスさんも、


「こんなに何も出ねーのは珍しいな」


と言っていた。


 実はオレ達、この世界に来てから出逢った魔物が、スライム式トイレのスライムだけだったりする。これって何かのフラグ? 嵐の前の静けさだったりする?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ