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ドラゴン見物の顛末

本日も快晴、買い物日和だ。ここ数日は小物製作と買い出し、テントの改良をして過ごしている。乗り合い馬車の出発日はまだ決まっていない。チケット高いし、南回りルートは客の集まりが悪いだろうと聞いていた。こちらもテントを改良する時間が欲しかったので問題ない。早めに国を出たいのに変わりはないが、ひとまず聖王都からは離れられたからね。

 でもどうせなら、キタジンの町の東側にドラゴンが居座れば、追手が来ても阻止できたのにとも思う。ずっと西街道を使えれば、キャンプ飯に頭を悩ませることも無かったし。ドラゴンめぇと思いつつ、せっせと手を動かして串焼き肉を紙で包む。


「ほい、これで30本な。まだいくか?」


「あ、次は別の味付けでお願いします。子どもが食べられる、辛くないのってありますか?」


「だったらコイツはどうだ? ほい嬢ちゃん、味見してみな」


 露店のオヤジさんが、タレをつけた肉片をセイナの口に放り込む。続けてジェイドとオレにも味見用の肉をくれた。味は甘口の麻婆豆腐っぽい。セイナもジェイドも笑顔で食べているので好きな味なのだろう。


「美味しいです。これは20本、お願いできますか」


「ありがとよ。焼くからちょいと待ってな」


 オヤジさんが新たに串肉を焼き始めたので、その間に作業を進めた。皿に積まれた塩ダレ味の串焼き肉を、5本ずつ紙で包む。

 南回りルートでは水を節約しなきゃならないので、調理や洗い物を最小限にしたい。だから調理済みの食品を中心に、買い物をしていたのだが。


 ある程度買い物をしてから気がついた。これ、アイテムボックスに何が入ってるか分からなくなって、腐らせるパターンじゃね?

 実家でもたまに、冷蔵庫の奥から賞味期限切れの食品が発掘されていた。冷蔵庫程度の内容量でも死蔵品ができるのだ、大容量のアイテムボックスに適当に物を突っ込んだらエライことになる!


 オレのアイテムボックスは、まだ時間停止機能付きか判っていない。聖王都で焼き立てを買ったパンピザみたいなのがまだ温かいので、ある程度の保存効果は見込めるのだが。出したら肉が腐ってて凄い臭いに……なんてのは避けたい。

 というわけで、せめて食料品だけは整理整頓することにした。一食分ずつ紙に包んでカゴに入れ、買った日付を書いたタグをつけて。その作業を店先でやらせてもらっているのだ。帰ってからまとめてやると大変なので。

 

「そろそろ次が焼けるぞ」


「あ、はい。お皿のこっち側に置いてもらえますか。すみません、お手数おかけして」


「いやいや、こんくらい手間でもなんでもねーよ。たくさん買ってくれて、きっちり金払ってくれて、良いお客さんだぜ」


 大量買いはともかく、お金を払うのは当然では? なにを当たり前のことをと思っていると、顔に出ていたのか、オヤジさんが苦笑した。なんか見たことがある表情だなー。


「それがよ、勝手に商品取っていって、金払わねーお人がいるんだよ」


 それって泥棒では?


「しかも固いだの不味いだの、店先で言いたい放題なんだわ」


 それって営業妨害では?


「そのくせ別の味付けのを献上しろとか言いやがってよー」


 似たような話を最近聞いた気がするな。金払わねー、お人、って言ってたし。


「だから超激辛の特製ダレをつけて献上してやったぜ!」


「強っ! それ大丈夫なんですか?」


「へーき平気。もうすぐ居なくなるしな。聞いたか? ドラゴン見物の顛末」


 うわー、やっぱり件の男爵家御一行の所業か。この世界の貴族ってそんな感じなの? 聖女召喚の儀にいた人達も、威張ってたよなぁ。


 はた迷惑な男爵家御一行に鬱憤が溜まっていたのだろう。次々と串焼き肉を皿に盛りながら、オヤジさんが語る語る。


「キラッキラした馬車に乗って、意気揚々と出発したんだけどな? 近づき過ぎたのか、嫌われたのか、ドラゴンの鼻息ひとつで吹っ飛ばされたんだってよ。で、飛ばされた先が川ん中の泥溜まりで、綺麗なお衣装がドロドロのビチャビチャ。怒った騎士達が、我が主は勇者の末裔でーとか怒鳴ってたらしいけど、ドラゴンにゃ意味無いよな?」


 ほほう、男爵様は勇者の末裔か。勇者の家系ならもっと上の爵位が相応しかろうに、勇者が権力を嫌ったか、代々やらかして爵位が下がったか。後者のような気がするな。


「でよー、とっとと尻尾巻いて逃げ帰りゃいいのに、散々騒いだもんだから、大人しいロックドラゴンもイラッとしたんだろうぜ。前足でこう、グシャッとな、豪華な馬車を潰されちまったんだとさ。ついでにアイツ等もプチッと、いや、ゴホン」


 子どもの前だと物騒な話を自重してくれたオヤジさん。大丈夫です、セイナは串焼き肉を数えるのに夢中です。真剣な顔で5本ずつを一纏めにしてくれているセイナと、見守るジェイド。ジェイドはスプラッタ耐性がありそうだけど、確かに子どもに聞かせる話じゃないよね。嫌な人達でも死んでしまったら、笑い話にできないし。


「あー、そんなこんなで戻って来た時には酷い有り様だったらしいぜ。これに懲りて、もうこの町にゃ来ねーだろ。町のお偉いさん方もホッとしてんじゃねーか? と、コイツで何本目だ?」


「えっとね、10本とー、7本!」


「じゃああと何本だか、解るか?」


 セイナが両手の指を広げ、1本ずつ折り曲げて数えてゆく。小指だけを曲げるのが難しくて、ちょっとだけ顔を顰めていたが、ジェイドが手伝ってくれて無事に数え終わった。曲がってない指は何本かな、セイちゃん。


「あと3本!」


「正解! ほら、あと3本と、賢い嬢ちゃん達にはオマケだ!」


「わーい、おじちゃんありがとう!」


 喜んで串焼き肉に齧りつくセイナ。遠慮がちに受け取るジェイド。オレにまでオマケを1本くれたので、お礼を言って、代金を多めに支払う。セイナが美味しい美味しいと食べているので、宣伝にもなっているようだ。


 それにしても、この美味い串焼き肉を貶す男爵様の味覚は如何なってんのかね? 庶民の味には何であれケチをつけとけってタイプ? 関わりたくないなぁ。

 だけどそんな相手に限って、関わることになるんですよね……。

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