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魔法契約

 次に向かったのは乗り合い馬車乗り場。今なら高額な南回りルートのチケットが、即金で買えるのだ。買っとかなきゃ。

 お金があると気が大きくなって、余計な物まで買っちゃいそうだからね。アイテムボックスのおかげで盗難や落とし物は阻止できるけど、無駄遣いの阻止はオレの意思次第だ。セイナに可愛くおねだりされると意志薄弱になるのは既に証明されている。


「どうした、また何か質問か?」


 昨日あれこれ教えてくれた馭者さんが、声を掛けてくれる。昨日の今日でやって来たオレ達に、首を傾げている馭者さん。今日も暇そうだ。


「チケット買いに来ました」


「え? 北回りにすんのか?」


 ま、一晩で南回りルートのチケット代を稼げるとは思わないよね。オレは黙って紹介状を差し出した。受け取った馭者さんが、ゲッと呻いた。


「これ、お偉いさんが持って来るやつじゃねーか。ちょっと待ってろ、いや待っててください」


 慌てふためいて、物理的にも心理的にもオレから距離をとる馭者さん。バタバタと走って待合所を出て行くと、すぐに年配の男性を引っ張ってきた。その後ろからついて来たのは、あれ、さっきぶりですね?


「よお。ちょうどお前さんの話をしてたんだ」


 テントを買った店の店主さんが、ここの上役っぽい人と、何故かオレの話をしていたらしい。今度はなに噂されてんの?


「あー、大丈夫、悪い話じゃねーから。じゃ、会頭さん、おれはこれで」


 店主さんは年配の男性に挨拶して、即退場していった。


「ではユウ様、どうぞこちらへ」


 名前を把握されている……。

 連れて行かれたのは、待合所の隣の事務所のような場所だ。勧められるままソファに腰掛けると、両サイドにお子様達がピタリと張り付く。オレの緊張が伝わったのだろう。

 ひと塊になるオレ達に、会頭さんとやらは目を細めて、穏やかな声で話しだした。


「どうぞ気楽に。本当に、悪い話ではないんです。貴方にお仕事をお願いしたくて」


 提案された話をまとめると、要はチケット代を割り引くから、荷物を運んでもらえませんかということらしい。運ぶ荷は水や食料品。南回りルートが高額なのは、途中にこれらを補給できる町や村がなく、したがって全て運んでいくしかなく、経費が嵩むからだそうだ。


「貴方はかなりの容量のアイテムボックスをお持ちだとか。水だけでも運んでもらえれば助かります。いかがでしょう」


「やります」


 断る理由がない。オレは二つ返事で引き受けた。


 それからまた場所を移動し、運ぶ予定の荷物を下見。水の樽だけで20個以上あったが、乗客と馭者、護衛だけでなく馬の飲み水も含まれているそうだ。ルート上に2つ池があるのだが、あまり綺麗ではないので人間が飲むには向かず、馬の飲み水だけそこで補充予定だと説明された。


「水魔法が使える人は居ないんですか?」


 素朴な疑問を口にすると、会頭さんは首を横に振る。


「うちの者には居りません。西街道沿いには川がありますので、必要だとも思っておりませんでした。冒険者ギルドに水魔法使いの派遣をお願いしましたが、急なことで捕まりませんで」


 荷馬車を連ねて行くしかないかと思っていたところにオレの話が届き、大喜びしたそうだ。


 荷物は全てアイテムボックスに収納できた。会頭さんが唖然としている。オレのアイテムボックス、どんだけ容量があるんだ?


「ユウ様、街道封鎖が解除されるまで、うちで働きませんか?」


 お誘いは丁寧に断って、事務所に戻り、契約書を作成する。魔法契約で、契約書の内容を違えるとペナルティが発生するそうな。ちなみにペナルティは厳しいものから緩いものまでピンキリで、今回は「契約違反は商業ギルドに通報のうえ罰金」というものだった。


 契約書の内容を何度も確認し、サインと血判を捺す。セイナは事務所に戻ってすぐに、お昼寝タイムに突入している。商業ギルドに登録した時のように『痛いのとんでいけー』が発動する心配はない。

 血判を捺すと同時に契約書が光り、2枚にわかれた。1枚を渡され、握手をする。


「ありがとうございます。では、出発日が決まり次第、ご連絡しますので」


「はい。よろしくお願いします」


 南回りルートは定期便ではなく、乗客がある程度集まったら出発する。それまでにドラゴンが居なくなったら出発は中止、チケット代は払い戻される。割り引き価格で購入した券面に、小さく記載されていた。


「セイちゃん起きて。帰るよ」


 ムニムニと呟くばかりで起きる気配のないセイナを背負う。今日はあちこち回って疲れたうえに、小難しい仕事の話に付き合わされたのがとどめを刺したんだろう。熟睡だ。


「ジェイドも疲れてない?」


「ボクは平気です」


「なら、もう少しだけ付き合ってね。食料買い込みたいから」


「はい! 荷物持ちは任せて下さい!」


 良いお返事が返ってきたが、幼いジェイドに社畜精神が培われているようで、不安を覚えたオレだった。

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