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青いマントをバッサバッサ

 ここではなんですからと、オレ達はギルド長の部屋へと連れて来られた。セイナはそろそろ飽きてきていたし、変に注目を集めてしまったので、場所移動は願ったりだ。

 ギルド長室で出されたお茶とお菓子でセイナのご機嫌は急上昇した。クッキーを頬に詰めるセイちゃん、リスみたいで可愛い。

 もう片方のほっぺたに詰めな、とオレの分のクッキーを1枚セイナの皿に移していると、ゴホンとひとつ咳払い。目を向けた先では、ギルド長が揉み手でオレを値踏みしていた。


「いやー、先程の青い布、素晴らしい色合いですな。どちらで手に入れられたのですか?」


「私の故郷です」


 あまり喋るとボロが出るので、簡潔に応える。駆け引きとか苦手分野だけど、せめて足元を見られないようにしないと。でも適正価格が判らないんだよなー。


 間をもたせるために茶を啜る。お、美味しいなこれ。ほうじ茶っぽくて香ばしいのに、苦味がなくて子どもでも飲みやすい。お菓子といい、気を遣ってくれてるな。


「故郷というと、どの辺りですかな」


「東の方ですが」


 嘘じゃないぞ。ユーラシア大陸の東の島国が、我が故郷だ。


「ほう、やはり東方の方ですか。あれほどの鮮烈な青に染まる染料は、東方の一部でしか採れませんからな。で、これをお売りになりたいと。何故こちらで? ここは織物の町です、布製品は溢れておりますから価格も安い。聖王都でしたら高値で売れたでしょうに」


「もっと西で売る予定だったんですが。ドラゴンのせいで余計な路銀が必要になりまして」


「なるほど、南回りの乗り合い馬車ですか」


 ギルド長がチラリとセイナ達を見る。ほっぺたを両方満タンにしたセイナに相好を崩し、ウンウンと頷いた。


「納得いたしました。いやー、貴方様のことは聖王都の商業ギルドから聞いていたんですが、なにせ高価なものですので」


 ギルド長の空気は和らいだが、逆にオレの警戒心は高まった。聖王都からここまで真っ直ぐ来たのに、もうオレの情報が伝わってんの? 情報の速さも怖いけど、なんでオレの情報が出回ってるのかも怖い。

 内心震えていると、さすが商業ギルド長、察したようで、オレにニコニコと説明してくれた。


「いやいや、あれほど見事に青い服を着た御仁がいらしたら、何処の大商人かと噂にもなるでしょう。ですが貴方様はお若く、商業ギルドにも登録されたばかりだ。裕福なご実家を離れて経験を積むための修行中、といったところですかな?」


「まぁ、そんな感じです」


 適当な相槌を打つオレは、冷や汗ダラダラ。海賊コスプレは派手さ以外の面で目立っていたようだ。お金持ちですって宣伝して歩いていたようなものだったのか。追い剥ぎとかに目を付けられなくて良かった。


 落ち着くために、またお茶を飲む。クッキーも摘もうとしたが、オレの皿に残っていたのはあと1枚。4枚あったうちの1枚はセイナにあげたけど、はて。

 横を見ると、セイナがオレのクッキーに、我が物顔で手を伸ばしていた。目だけでメッ! と叱ってから、残っていた1枚をジェイドの皿に置く。ジェイドはまだ1枚も食べてないじゃないか、セイナに狙われないうちに早く食べな。


「仲がよろしいですな」


「あ、すみません、お話し中に」


「いえいえ。貴方様のお人柄がよくわかりました。誠実で、お優しい。ですからこちらも正直にいきましょう。貴方様とは駆け引きをするよりも、腹を割って事情を話したほうが、良いお取引が出来そうですから」


 そうしてギルド長は、事情とやらを話しだした。


 数日前から西の街道に居座っているドラゴン。怖い物見たさでドラゴン見物としゃれ込む者が後を絶たず、町の有力者達を悩ませている。そんな中、特に頭痛の種となっているのが、たまたま町に来ていた男爵家一家なのだそうだ。なんでも男爵家の御子息様が、ドラゴン見物を希望しており、更に見物時の衣装まで町から献上するよう命じてきたらしい。ドラゴン見るための衣装ってあるの? 見つからないよう迷彩柄とか?


「ロックドラゴンを退治した勇者の装いで、ドラゴン見物に行きたいそうなのです」

 

 ギルド長が苦笑いしている。あー、ドラゴンを背に剣を掲げて、勇者を気取りたいのかな? イベント会場にコスプレして行く感じか?


「その衣装に、青い布が必要でして。町中の青っぽい布を掻き集めたのですが、叙事詩に謳われる大海原のような青の布は少なく、たなびくマントにするには足りなくてですね」


 ほほう、勇者は青いマントをバッサバッサいわせて戦ってたと。だから勇者コスプレに青いマントは必需品だと、男爵家から無茶振りされたんですね。お貴族様なら服くらい自分で用意すればいいのに。


「で、先程の青い布を買い取らせていただくにあたり、出来る限り金貨を積みたいのは山々なのですが。お支払いできるのが、これでギリギリでして」


 言いながらギルド長がテーブルに並べた金貨は7枚。目を丸くするオレに、ギルド長はテーブルにつくほど深く頭を下げた。


「安過ぎるのは承知しております! ですが伏してお願い申し上げます! 鎧兜や軍靴まで一式揃え、その上青いマントまで全て、我ら町の有志が私財で購っているのです!」


 えっ、これギルド長さんのポケットマネーなの? テーブルに並べられた金貨は小金貨ではなく大金貨。オレの感覚だと小金貨は1万円、大金貨は10万円を超える。布1枚に70万円は高過ぎる気がするけど、青い組紐との面積比からすれば安過ぎるのか。


 ま、大金貨7枚で売ってもいいかな。交渉して値段を釣り上げようと思ってたけど、初っ端から超高額を提示されちゃったし。わがままお貴族様に振り回されて可哀想だし。


「わかりました。大金貨7枚でお譲りします」


「あ、ありがとうございます!」


 テーブル越しにオレの手を取り、拝まんばかりに感謝してくれるギルド長。あまりに有り難がられると、申し訳なくなる。だってあのベスト、ベルトとセットで5千円もしなかったんだよ。こっちでは価値が違うにしたってボッタクリだよ。

 そうとは知らないギルド長は、何度もお礼を述べながら、心底ホッとした表情で言う。


「いや本当に有り難いことです。初めは男爵様のことを聞きつけて、高値で売り付けようとの魂胆かと思ってしまいましたが」


 結果的には間違ってないんだけどね、実は。心の声とは裏腹に、オレは白々しく尋ねる。


「私はそんなに悪どい顔をしてますか」


「いいえ、寧ろお人好し過ぎて損するタイプに見えますな。ですが、見た目は当てにならないものですから」


 ハハハと笑うギルド長と一緒に、オレも笑っておく。オレは商人じゃないからな。損して得取れ、情けは人の為ならずでやっていくさ。

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