買取り査定中
キタジンの町の商業ギルドは、町の東門の近くにあった。今朝ジェイドに手伝ってもらって作った工芸品を持ち込んで、買取り査定中だ。カウンターに並べた品物は3つ。なかなかの出来栄えだと自負するが、買取り担当のお兄さんは眼鏡の奥の目を鋭く光らせる、見るからに「仕事できます!」ってタイプなので、緊張感が……。
お兄さんが初めに手に取ったのは、黄色い花の造形も繊細なガラスの指輪である。これ、ジェイドの足の親指でサイズを決めた物。セイナの手サイズだと小さ過ぎて大人には嵌められないので、ジェイドに指輪作りのお手伝いをお願いしたんだけど、ジェイドの手も痩せ過ぎだったっていうね……。で、足の指に嵌めたって指輪だよねって試してみたら、上手く指輪が変化したので。大人用サイズの指輪は、ジェイドの足で作らせてもらうことに決定した。
その前の、ジェイドの手の指サイズに合わせてみた指輪は、作りかけだった組紐の飾りに編み込んでみた。それがギルドのお兄さんが次に見ている飾り紐。赤系統で色を揃えた組紐の先端に、紅色の小花が連なる薄緑色のリングが揺れている。
そして、自分もお手伝いしたい! と手を挙げたセイナの指に、ふと思いついて組紐を巻いて作ったのが、3点目となるカラフルなリング状のペンダントトップ。元が紐だからかガラスにはならず、かといって金属でもない不思議な材質になった。こちらは海賊コスプレのベルトを細く切った革紐を通してある。
3点ともいずれ劣らぬ自信作である。今回は相場を探るために、敢えて違う種類の装飾品を買取りに出したが、値段によってはより高く売れる物を優先して作る予定だ。
その度にジェイドとセイナにお手伝いを頼むことになるので、報酬は甘味で支払おうと思っている。今朝はソフトクリームを錬成した。セイナはともかくジェイドはもっと太らせなきゃなのに、遠慮しておやつを食べようとしないからね。すぐに食べないと溶けてしまうソフトクリームは、労働の対価として受け取らせるのに最適なのだ。
ギルドのお兄さんが3点を確認し終わり、フーッと一息つく。オレはゴクリと唾を飲み込んで、金額が提示されるのを待つ。このお兄さん、オレの高校の数学教師に似た雰囲気で、苦手な数学テストの答案用紙が返ってくるような気持ちになった。
「3点で、小金貨1枚と銀貨8枚でいかがでしょう」
よし、思ったより高得点、いや高額査定だ!
思わずニヤけそうになるが、グッと唇に力を入れて澄まし顔。
「ふむ。もう少し高くなりませんか。聖王都の商業ギルドでは、組紐1つで小金貨2枚出してくれましたけど」
「聞いています。素晴らしく鮮やかな青色の品だったとか。それと同じ色の品でしたら、倍の値段をつけるんですが」
え、もしかして青い糸が高いの? 藍とかウォードみたいな青系の染料が希少なのか? 青い顔料は昔ラピスラズリを砕いて原料にしてたから高価だったって聞くけど、似たような感じか?
そういえば、聖王都の市場で青い糸は品切れだったな。水色の糸や布はあったけど、クレヨンの青そのままのような青い布は見なかった気がする。
だったら値段交渉はここじゃないな。
「わかりました。では、この3点は小金貨1枚と銀貨8枚で。その代わり、これには相応の値段をつけてもらいたいですね」
テテーン!
アイテムボックスから取り出したるは真っ青なデニムの一枚布。そう、これは海賊コスプレのためのベストの後ろ身頃だったもの。セイナの猫さんポシェットを作った余りである。ジェイドのリュックサックを作ろうかと思っていたが、高く売れるのならお金に変えたい。そしてその金で、ジェイドにリュックサックと服、セイナの替えの服も買ってやれれば。
頭の中で皮算用をするオレの前では、ギルドのお兄さんがデニム地に目を見張り、固まっていた。あれ? どうした? オレがデニム地を摘んで右に左に動かすと、お兄さんの視線も首ごと右左。赤い布を目にした闘牛みたいだ。デキる人オーラどこ行った?
「あのー」
「あっ、た、大変失礼いたしました! 少々お待ち頂けますか!」
ハッと正気に戻ったギルドのお兄さん、ガタガタと音を立てて椅子から立つと、奥へと走ってゆく。やがて戻って来たお兄さんは、肉まんが服を着たような、ふっくらニコニコした男性を連れていた。
「お待たせしました。こちら当方のギルド長です」
お兄さんが紹介してくれる傍ら、ギルド長だという男性はデニムの布を手に取って、
「おお……これなら……」
などと呟いている。この布、ギルド長が出てくるような代物なの? オレやらかした? 金欠だからって、ちょっと早まったかも……。
周りからの好奇の目に晒されながら、オレはひっそりとため息を吐いた。




