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冒険者の『ユー』への指名依頼

「酷い目にあった……」


 テントから這い出した時には、ロックの姿は影も形も見えなくなっていた。岩長さんに文句の1つも言ってやりたかったが、接近禁止魔法のお陰でもう二度と、直接関わることはないだろう。おにぎり定期便は続けるので、来月ぶんのおにぎりを全て、やらかし米にしてやる。見た目は普通なのに食べるとサクサクのおにぎりに、ガッカリしやがれ!


 そんな、しょーもない仕返しを決意したオレに、テントから出てきたセイナが『いたいの、とんでけー』をしてくれる。特に怪我はしていなかったが、強張っていた体が解れた気がした。


「セイちゃん、ありがとう。ヘリオスさん達は大丈夫?」


「うん! お兄ちゃんは、いたくない?」


「セイちゃんのお陰で、痛くないよ」


 セイナとアステールさんの二重結界が、落下の衝撃を防いでくれたからね。更にヘリオスさんが全員纏めて抱き込んで、結界から飛び出るのを防いでくれた。セイナの結界はセイナを中心に展開するので、一番外側にいたヘリオスさんが最も危険だったのだが、なんとか結界内に収まったらしい。それでも念の為に、全員に回復魔法を掛けてもらっていたのだ。


 ただ、ウルや、行きがかりじょう付いて来たモモンガ君を含めて家族は無事でも、テントには傷がついていた。ロックが前脚で掴んだ時点でメキッていっていた上に、地面に投げ落とされたからね。側面の支柱が1本折れて、外側の布が数ヶ所、爪で引っ掻いたように破れていた。ロックの爪跡に違いない。


「あれだけ強化したのに……」


 爪跡に手を触れて嘆いていると、鶏仮面を被り直したアステールさんが慰めに来てくれた。


「ユウ君が強化したからこそ、この程度で済んでいるのです。普通のテントはドラゴンによる投擲用には作られていません」


「そうですけどぉ」


 ロックドラゴンアタックに耐えられるテントを目指してるのに、道は遠い。未だに空間拡張も出来ていないし、改良の余地が有り余ってるな。来年頑張ろう。

 来年の抱負を1つ増やしたところに、ジェイドとヘリオスさんも加わる。ヘリオスさんの頭から、モモンガ君がオレの頭に滑空してきた。高低差があるからね。


 アステールさんのポケットのウルに、改めて皆の魅力と『かくれんぼ』してもらい、徒歩で首都の外壁に向かう。オレンジ色の旗がまだ翻っているので、問題なく通行出来ると思っていたんだけど。


「お待ちください! ロックドラゴンから降りてこられた方々ですよね?」


 門を守護する兵士さんに止められた。通行許可を待っている人達に注目され、「ドラゴンライダーか?」「さっきのロックドラゴンだったの?」なんてザワザワされる。

 オレはヘリオスさんを見上げた。


「いや、ユウだろ」


「え、オレですか?」


 家族揃って頷かれたので、オレが話す羽目に。兵士さんも詰め所にでも連れて行ってくれればいいのに、その場で説明を求められる。オレは、自分の冒険者ギルドカードを提示した。


「あのロックドラゴンには、運んで来てもらっただけです。ロックドラゴンを使役している人と、知り合いでして」


「なんと! ロックドラゴンを足代わりに!」


「いや違……わないか?」


 そこに、一際立派な甲冑を身に着けた男が、執事服の初老の男性を連れて来た。あれは、リヒトさんのお宅の執事さんだ。お迎えに来てくれたらしい。

 リヒトさんの御威光で、速やかに聴取が終わり、門を通過できた。だけど、それまでの僅かな時間で注目を集めてしまったせいで、噂が錯綜した結果。


「ユウ! 冒険者の『ユー』への指名依頼が多数来ていたぞ!」


 夜、夕食をご馳走になっているところに帰宅したリヒトさんから、依頼書を束で渡された。


「え? オレ、明日には冒険者を辞めるんですが」


「そうなのか? だが、今日出された指名依頼を全て断るには弱いな! まずは冒険者ギルドに行こう!」


 職場にとんぼ返りするリヒトさんに連れられて、夜の冒険者ギルドへ。リヒトさんが選んだ指名依頼を1つだけ受注して、残りは全て断り、オレの冒険者資格を停止する手続きをとった。


「あのー、指名依頼って、そう簡単に断れるものですか?」


「断るも受けるも自由だ。だが今回は数が多いからな、断る正当な理由があったほうがトラブルが少ない。これが理由だ!」


 1件だけ受注した依頼書を渡される。依頼内容も確認せず、リヒトさんに言われるままに手続きした依頼書を、改めて読んでみると。


「ロックドラゴンの使役者への仲介依頼ですね。依頼者は……」


「王宮だな!」


「何でこれを選ぶんですか!?」


「国王からの依頼を受けたからと、他の依頼を断れるだろう? 心配せずとも現国王は僕の甥っ子だ! 良い子だぞ!」


 リヒトさんにとっては甥っ子だとしても、オレのような一般人には雲の上の人なんですが?

 頭を抱えたオレを、リヒトさんが不思議そうに眺めて言う。


「ユウ、どちらにしろ国王には挨拶に行くんだから、ついでだ」


「えっ、国王陛下にご挨拶なんて聞いてませんよ」


「僕の養子になったからな! セイちゃんは小さい子だから免除だが、ユウは今から行くぞ! 指名依頼も本日付けで達成としたからな!」


 実際の時系列は前後するが、冒険者ギルドの処理上は、王宮からの指名依頼を受注、他の指名依頼を断る、王宮からの指名依頼達成、オレの冒険者資格停止、という順番にするそうだ。だから、今日中に王宮に行って、国王陛下に会わなければいけないのだというリヒトさん。目が笑っている。楽しそうですね!


「わかりました、わかりましたから、せめて着替えさせてください」


 リヒトさん宅でお風呂を借りて、もう今日は外出しないからと普段着に着替えてるんだよね。この服だとラフ過ぎる。不敬になりそう。


「ん? そのままで構わないぞ? 甥っ子は服装に頓着しない質だ!」


「国王陛下が気にしなくても、周りの人が気にするでしょ」


 だけど、リヒトさんに平気平気と押し切られ、普段着のまま天馬に乗せられてしまった。いざ王宮へ! 行きたくないなぁ……。




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