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きっと何かの間違いです

 ロックの背中で崩れ落ちたオレ。視界のステータス表示には、以前は無かった『HP』の項目が増えており、その横に燦然と「NEW!」の文字が輝いている。これ、削除出来ないのかな。ヒツジさんに削除依頼出せば良いのかな、ハハハ……。

 膝を付き、項垂れたオレの隣にしゃがんだセイナが、オレの顔を覗き込む。セイナに合わせる顔が無いんだけど。ヘンタイな兄ちゃんでごめんな……。


「ユウ君、石竜の聖女が戻る前に、説明なさい」


 アステールさんが容赦ないのはいつもの事だ。城にお米を買いに行っているはずの岩長さんが戻って来たら話せないから、当然の対応なんだけどさ。オレとしては話す時間が無くなって、そのまま有耶無耶になるのが最良だ。今まで黙ってたのだって、二度と『ヒーローごっこ』なんて使わないって決めてたからだし。

 だけど、二度あることは三度あるっていうしな……。言わなきゃいけないのか? HPについてだけでも隠蔽したい。だってオレ自身がまだ認められないというか、認めたくない!


「ユウ君?」


「ヒッ!」


 ジェイドがガタガタ震えだした。あっコレ全部吐くしかないな、ロックが凍えて動けなくなると困るし。一瞬で自尊心とか外聞とかその他諸々かなぐり捨てて、全て白状すると決めたオレ。でもセイナに嫌われてゴミを見る目で見られたら再起不能になるので、ジェイドにセイナの耳を塞いでもらったんだけど。


「ヘンタイ、パッチョンって、なーに?」


 ジェイドぉぉ!


「ち、違うよセイちゃん、()()()()パッションだからね! 戦隊ヒーローのせ、ん、た、い!」


「ふーん」


 上手く誤魔化せたから良いけどさ。ジェイドが心持ちオレからセイナを引き離している気がするんだよね。ジェイド、まさかわざとセイナの耳を塞ぎ損ねたんじゃないよね? オレ達兄妹の心理的距離を遠ざけて、セイナを独占しようとか思ってないよね? これを機に2人の間に挟まって寝る邪魔者(オレ)を排除しようなんて腹黒いこと、考えてないよね?


 疑惑の目を向けたオレから、ジェイドがそっと視線を逸らす。ちょっとそこで笑っているジェイドのご両親! 息子さんが早過ぎる反抗期ですよ!


「悪い悪い、お詫びに『△△△△』取り寄せてやるから」


「前にも要らないって言いましたよね。実はヘリオスさんが欲しいんじゃ、いやもう持ってるんじゃないですか?」


 聖王国の王子が隠し持っていたという趣味の本、アステールさんに見つかって気まずくなってしまえ!

 笑い過ぎて涙目になっているヘリオスさんを呪いつつ、アステールさんに弁明する。


「だいたい、オレはヘ、HP(エイチピー)が増えるような覚えは無いんですよ。きっと何かの間違いです、そうに決まってます」


 アステールさんもクスクス笑っていたが、オレの必死の訴えを聞いて笑いを収め、思案顔になった。


「ふむ。確かにユウ君は好青年ですよね。内心は如何あれ」


「内も外も好青年でしょ! 少なくとも妹に恥じるような趣味嗜好はしていません! なのに何故」


「……ヒルデちゃんでしょうか」


 ヒルデちゃん……あれか、夜這い事件か。だけど、あれは違うと断言できる。


「いいえ、あの直後にオレ、ステータスを確認したんです。その時は特に変化は無かったので」

 

「でしたら、リヒト様のネックレスの件では?」


 呪いの女体化ネックレス事件か! あり得る! 

 東レヌス商会で紙花作ったあたりから、忙しくてステータスチェックするの忘れてたからね。思い返すと『かくれんぼ』を獲得してからこちら、チェックしていないような気がする。それまでは欠かさず毎晩ステータスチェックしてたのに、忘れている時に限って碌でもない能力が追加されてるのは仕様なのかな。何か変化があったらアラートが鳴るとかすれば良いのに。


 ブツブツ文句をつけていると、アステールさんに慰められる。


「あの件のせいでしたら、不可抗力ですね。ですが、かえって良かったのではないですか? 他のステータスには影響していないのでしょう?」


「はい。一番恐れていた『子ども好き』レベルも下がってないですし。他は変わり無いです」


 まだ安心は出来ないが。『子ども好き』のレベルこそ上げたいのに、初期値から変化なしなんだよね。これこそ如何すれば上がるのか知りたい。


 セイナがジェイドに囚われて、オレから距離を置いているので、寂しさを紛らわせようとウルを指先で撫で撫でする。今回連れて来たのはウルだけで、馬達とスーちゃんはお留守番だ。


「ユウ君。サウスモアに到着したら、もう一度あのネックレスを着けてみませんか?」


 唇に拳を当てて思考探求モードに入っているアステールさんが、オレにまた呪われろと言う。冗談半分ではない、目が本気だ。


「嫌ですよ! 今度こそ『子ども好き』レベルが下がったら、如何してくれるんですか」


「ですが、必殺技を見たいのです。ユウ君だって、強くなりたいでしょう?」


「オレはもう冒険者を辞めるから、強くならなくても良いんです! ネックレスならアステールさんが着けてください!」


「それは駄目だ」


 オレ達の遣り取りを楽しそうに眺めていたヘリオスさんが、真顔になって割り込んできた。別に良いじゃないですか、アステールさんならあのネックレスも似合いそうだし。


「ユウ、アズならあのネックレスが似合うとか、考えてるだろ。確かに似合ってた、だけどな」


 アステールさんは既に女体化経験済みらしい。


「アズが女性になったら、一目見て失神する人達で混乱どころか騒乱が起き、阿鼻叫喚の地獄絵図になったんだよ」


 ヘリオスさんが遠い目をする。大変だったんだね。やっぱりあのネックレスは呪われれいるようだ、封印しておかなきゃ。



 

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