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モモンガービッグ、発進!

 もう一つ寝ると新年、今日は大晦日にあたる日である。オレ達家族は朝から東の空を気にし、身構えていた。岩長さんがロックドラゴンのロックに乗って来る予定だからだ。

 取引相手である王妃様からの連絡によると、岩長さんは王都の西の丘にロックを着地させるらしい。丘といっても灌木が茂る、森になりかけみたいな場所なのだけど、領土の半分以上が森に覆われているこの国で、ロックが着地しても被害が出ない場所はそう多くない。王妃様が指定して、その丘からはみ出さないようにと念入りにお願いしたそうだ。ロックの着地能力が向上していますように……。


 お昼過ぎ、ウッドデッキで東の空を見張っていたアステールさんが、警告を発した。


「来ました! 皆、衝撃に備えてください!」


 言い終わらないうちに、巨大樹の枝スレスレをロックが横切って行った。梢をズザザッと腹で擦って揺らし、ロックが丘に着地したのだろう、森が揺れる。だけど、思ったほどの衝撃は無い、ロックが成長してるよ!


「ロック、立派になって……!」


「お兄ちゃん、急いで!」


「あ、ごめんごめん」


 家を出て、ロックの巨体目掛けていざ出発!


 先頭を走るのはモモンガ君。巨大樹の幹をぐるりと半周し、北側の太い枝で立ち止まってオレ達を待つ。その足下には、地上に下りるのとは別の魔法陣が描かれている。魔法陣に乗って全員で転移した先は、家よりも高い位置にある枝が、西に向かって伸びている場所だ。

 うーん、嫌な予感。実は、誰もこの先如何するのか知らないんだよね。岩長さんと如何やって合流するか悩んでたら、モモンガ君が“まかせて”って言うからお任せしたのだ。


 モモンガ君がいつもの木片を取り出した。


“ゆう ひーろーごっこ する”


「え……」


 あれは罠スキルっぽいから封印したんだけど?


“はやく”


 木片を胸に抱き、じっとオレを見上げてくるつぶらな瞳。いや、でもさ、今からでも地上に下りて、こっそり外に出れば……見張りがいるけど……ウルに姿を隠してもらって……うん、通り抜ける隙間も無いほど包囲されてるよね……。


「ああもう分かったよ、えーと、『ツキネコ戦隊ニャンダロ仮面』、見参!」


 オレはジェイドを巻き添えにして、適当な戦隊ヒーローをでっち上げた。セイナがこっちの世界に来た時に着けていた猫耳カチューシャを装着し、猫の手でポーズを取って。ヤケクソである。


 ピカッ!


 それでも『ヒーローごっこ』は発動したようで、オレの視界の隅っこに、カウントダウン表示が現れる。すかさずモモンガ君の指示が掲げられる。


“しょうかん ももんがーびっぐ!”


「召喚! モモンガービッグ!」


 ピカーン!


 モモンガ君がグングン大きくなってゆく。視界の隅のカウントダウンもどんどん進む。急げ急げ、時間が無いぞ!


「皆、モモンガービッグに乗り込むんだ!」


 何故か話し方がヒーロー口調になるんだけど、気にしてられない。嬉々として巨大化したモモンガ君の背中に乗ったセイナの後ろに、ジェイドがピッタリくっついた。唖然とするヘリオスさんとアステールさんを引っ張り上げ、全員がモモンガ君の背中に掴まったのを確認。オレは軟らかくて不安定なモモンガ君の背中で仁王立ちして、左手を腰に、右手で正面を指差して。


「モモンガービッグ、発進!」


 モモンガ君が助走をつけて、枝から飛びたった。滑空しながら目指すのは、西の丘の上のロック。ロックオン!


「グリーン、軌道修正を頼む!」


「オーケー、ブルー!」


 ジェイドもヒーロー口調になっている。ジェイドと呼んだはずがグリーンになってるし、オレはブルーなのか。まあオレはレッドってタイプじゃないけど、レッドの居ない戦隊ヒーローってあるのかな。次回はヘリオスさんも巻き込もう。


 そんな、どうでもいい事を考えているうちに、みるみるロックに近付いて、その背中に無事着陸したモモンガ君。ホッとしていると、カウントダウンが10をきった。


「まずいっ、全員急いで退避するんだ!」


 慌ててロックの背中に飛び降りたところで、カウントがゼロになった。モモンガ君がシュルルルと縮み、元の手のひらサイズに戻る。


「セーフ! モモンガ君、大丈夫だった?」


 オレの口調も元に戻った。


“だいじょうぶ せいこう”


「うん、成功。ありがとうな」


“また やりたい”


「えっ、いやー、それは。次の機会があれば、ね」


「お兄ちゃん、セイも、またとびたい!」


「今からドラゴンで飛べるから、それで我慢しようなー」

 

 そんな、暢気に会話しているオレの頭を、後ろからガシッと掴むヘリオスさん。


「ユウ。今のは何だ?」


「あ、あー、前にやったでしょ。オレのスキルで」


「戦隊ヒーローごっこ、でしたよね? 今のような効果は無かったはずですが?」


 アステールさんには肩を掴まれる。逃げませんってば。


「いや、オレもモモンガ君が巨大化するとは思わなくて、というより巨大ロボが出来ないように封印してたんだけど」


 知らぬ間にHP(ヘンタイパッション)が増えたりしてないよな?

 オレは恐る恐る、自分のステータスを確認した。嘘だろ、おれのHP増えてるんだけど。オレ、何かやらかした?

 


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