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我が家の祝日

 ゴロゴロダラけた新年を無事に迎えるための、忙しない年末が始まった。オレに課せられたタスクは主に2点、東レヌス商会に卸す品物の製作と、お節料理含めた保存食作りである。優先度が高いのは仕事として請け負っている紙花作りなので、まずはこちらを終わらせてしまおうと取り掛かったんだけど。


「お、終わらない……」


 作っても作っても、残数が減らないのは如何して?


 いや、理由ははっきりしている。作って納品した以上に追加注文が入るからなのだ。アステールさんが設定してくれた、1ヶ月あたりの最高生産数は既に越えているのに、追加ぶんの加工料と特急料金を支払ってでも紙花が欲しいって人が多いらしくて。主に貴族なんだけど、お金持ちの平民にも紙花のアクセサリーが広まっているらしいんだよね。それにしたってさぁ……。


「もうすぐ新年ですからね。着飾って出掛ける機会が多いですし、お財布の紐も緩みがちですから」


 注文書を確認して、指定の色・大きさの折り紙に折り目をつけてくれているアステールさんが、ため息まじりにこぼす。セミオーダー表にある5種類の花の途中までなら、淀み無く折れるようになったアステールさん。もう冒険者辞めてウチの工房で働いて欲しい。


「晴れ着を作るのに合わせて、新しいアクセサリーも必要になるんですね。お金って、ある所にはあるんだなー」


「ユウ君だって、世間一般から見ればお金持ちですよ」


「オレは単に使い道が無いから貯まっているだけ、というより、使うための外出すら出来てないだけで」


 工房が建って仕事関連のものと分けた今、オレの支出って9割がた食費なんだよね。しかも、ここに引っ越してからはその食費も減っている。果物を買うことが無くなったし、馬達の飼葉も必要無くなったし。庭の草地の草も生っている果物も、森の精霊様のお陰か消費したぶんだけ補充されるのだ。水も冥府の神泉のものが飲めるので買わなくなった。それでもウチの食費は、王族のリヒトさんに「食い道楽」と言われる程高いんだけど。


「欲しい物があるなら、東レヌス商会に持って来てもらえば良いでしょうに」


「オレ、物欲は無いんですよね。いや、1つあった、空を飛べる魔道具があれば欲しいです。それか、ロキが天馬に進化しないかなー」


「トールなら、あるいは。魔馬の中には空を駆けるものもいますからね」


 おしゃべりしながらも手は動かして、ある程度の数が溜まったら、セイナに拳闘樹の涙でコーティングしてもらう。ついでに折り紙のモモンガのコーティングもお願い。


「モモンガ、とんでる!」


「うん、セイちゃん達が作っているヒンメリの中に、吊るそうと思って」


「お目めかきたい!」


「いいよー、可愛くしてやって」


 セイナがモモンガに目を描いて、ついでにリボンも描いている。その横ではジェイドがライ麦の麦わらに、慎重に糸を通している。

 ジェイドが作っているヒンメリは、北欧で冬場に飾られるモービルだ。麦わら(ストロー)に糸を通して多面体を作り、繋げて、吊るして飾る。ジェイドには基本の八面体のヒンメリを作ってもらっているので、その内側に飛んでいるモモンガを入れるつもりだ。他にも蝶々とか鶴とかをヒンメリの中で飛ばす予定。新年に森の精霊様に奉納するお供え物である。


「そういえばアステールさん、こっちの新年って、何か特別にやる事とかあるんですか?」


「普段より豪華な食事をとって、教会に礼拝に行くくらいですね」


「教会……行かなきゃいけないものですか?」


「私はもう10年以上、近寄っていませんね」


 ふむ、初詣は森の精霊様の祠にしよう。


「ジェイドは何か、新年にやりたい事とかある?」


「セイちゃんの生誕に感謝の祈りを捧げ、お祝いしたいです」


「うん? 確かにセイちゃんは春生まれだけど、誕生日はまだだよ」


「ああ、ユウ君の故郷は生誕日方式ですか。ここでは新年に皆揃って年齢が加算されるのです」


 数え年みたいだな。とすると、新年のお祝いと同時に誕生祝いもする感じか。特別感が無いな。誕生日がクリスマスな友達がいたけど、まとめてお祝いされるのが悲しいって言ってたし。


「あの、ここでは誕生日その日にはお祝いしないんですか?」


「王族や貴族なら、たまにありますね。国王の生誕祭をしたり、祝日に制定したり」


「普通はやらないんですね」


「平民だと、誕生日を知らない、いつ生まれたかわからないという人も多いので。それに、祝い事は纏めたほうが出費を抑えられますからね。ある聖女様が生誕日方式を広めようとしたのですが、広まらなかったのです」


 世知辛いけど、そういう世界なんだよね。でもなー、オレ達はともかく、セイナとジェイドの誕生日はお祝いしたいんだよなー。だけどジェイドは自分の誕生日、知ってるかなー。

 オレが聞きたいけど聞けないでいると、ジェイドがセイナの両手を取って迫った。


「セイちゃんの生誕日は、いつですか?」


「おたんじょう日? 4がつ7にち!」


「あっ、ジェイド、こっちとオレ達の故郷とじゃ、暦が違うから。オレ達の故郷の4月は春で、色々と新しくなる月だから、セイちゃんの次の誕生日は新年の7日かな」


 転移してしてからの日数から数えても、だいたいその位なんだよね。こっちの1年は16ヶ月で1ヶ月も30日じゃないから、この先どんどんズレていくけど。


「もうすぐですね! その日は我が家の祝日にしましょう!」


 まあ、家族の誕生日って、その家の祝日みたいなものだよね。

 セイナが逆にジェイドに尋ねる。


「ジェイドのおたんじょう日は?」


「ボクは、若草の月の5の日です」


「ジェイドも春生まれなのですね。では、その日も我が家の祝日ですね」


「えっ、ボクは」


「はいはい、セイもさんせーです!」


「オレも! 多数決でジェイドの誕生日も祝日に決定!」


 アステールさんは初秋、ヘリオスさんは真夏が誕生日だという。見事にバラけたな。コンスタントにお祝い事があるのって良いよね。カレンダーを作って花丸で印つけなきゃ。

 アステールさんにこちらの暦を確認すると、後でジェイドとカレンダーを作ってくれるという。複数作って、自宅用と仕事用とで分けることにした。


「ところでユウ君の生誕日はいつですか?」


「冬です」


「えっ、もう過ぎてる! 師匠、なんで教えてくれなかったんですか」


「いや、忘れてたんだよ」


 忙しいと、自分の誕生日って忘れがちだよね。気付いたら過ぎていた。来年は誕生日を余裕で祝えるくらい、忙しさが落ち着いているといいなー。

 


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