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新年までのカウントダウン

 真夜中に近くなり、ハルトムート王子やヒルデちゃんも眠そうに目を擦り始めたので、食事会はお開きとなった。商会長さんにはお城への秘密の通路を見せられないので、ヘリオスさん達が足留め。オレだけが見送りのために外に出た。

 庭には闇の帳が下りているが、工房の周辺はほんのりと明るい。前に来た時に、王子が梅の木を生やしてくれたのだ。お陰で歩くのに支障はなく、すぐに祠に到着する。またね、と軽く挨拶をして別れた。


 工房に戻ってみると、ヘリオスさんと商会長さんは酒盛りを始めている。食事会ではお酒を出さなかったのに、何処に隠してたの? 


「実は、アイテムボックス持ちでして」


 と言う商会長さんの持ち込みらしい。以前アステールさんとお酒を飲む約束をしていたのを、今から実現するそうだ。リヒトさんも含めて大人4人は工房に泊まり込むというので、オレはセイナとジェイドを連れて家に帰った。


 夜が明けて。


「お兄ちゃん、あさだよー!」


「ぐふっ……セイちゃん、おはよ」


 オレはセイナから、お腹に乗ってバウンドするという朝の洗礼を受けて目が覚めた。ジェイドの姿は既に無い。昨夜は夜遅くなったのに、今朝も早起きしたらしい。ヘリオスさん達の寝室のドアも開きっ放しで姿がないので、まだ工房にいるのだろう。まさか、今も酒盛り中じゃないよな?


「うーん、朝ごはん、如何しよっかなー」


 独りごちたオレの耳に、クゥーとセイナのお腹が鳴る音が届いた。我が妹は、お腹の音まで可愛いね。可愛いけど自己主張が激しいセイナのお腹に促され、朝食の用意をする。昨夜は食べ過ぎたから、お粥かな。

 米から炊くと時間が掛かるので、沸騰したお湯にご飯を入れていると、ジェイドが戻って来た。その後ろにはアステールさんの肩を借り、顔色の悪いヘリオスさんが続く。


「おかえりー、だいじょーぶ?」


 セイナがタタッと駆け寄り下から顔を覗くと、ヘリオスさんは力無く笑う。


「ただいま。大丈夫じゃないが、まあ、何とか」


「自業自得です。強くもないのに飲み過ぎなんですよ」


 どうやらヘリオスさんは二日酔いらしい。実の父親も、休日前には深酒していたのでセイナも慣れたもの。ヘリオスさんをクンクン嗅いだ後、距離を取りながら言い放つ。


「ヘリオスのおとーさん、お酒くさい!」


「セイちゃん……」


 ヘリオスさんが、嬉しいような悲しいような、情けないような、複雑な表情で椅子に倒れ込んだ。セイナに手を伸ばして避けられ、更に落ち込んでいるヘリオスさん。


「セイちゃん、お義父さんって呼んでくれたのに」


「セイちゃんは酔っぱらいが嫌いなんですよ。父が酒に酔うと、必ずセイちゃんを捕まえて、酒臭い息を吹き掛けて遊んでたんで」


 父親は父娘のコミュニケーションだとでも思っていたみたいだけど、セイナが明らかに嫌がってもウザ絡みしてたからね。そして翌朝には忘れていて、普段よりも冷たいセイナの態度に嘆いていた。それを見る度にオレは『酒は飲んでも呑まれるな』って言葉を胸に刻んだものだ。


「ボク、お酒は絶対に飲まないことにします」


 ジェイドが拳を握って決意している。セイナに嫌われそうなことは、とことん排除する方針なのだろう。オレと同じだ。


「ユウ、俺はもう手遅れなのか?」


「いえ、お酒が抜ければ元通りなので。食べられそうならお粥食べて、今日はゆっくり休んでください」


 ということで、今日はヘリオスさん(おとうさん)がお休み。それに合わせて皆も休日となった。


 のんびりとお粥を食べて、最低限の家事を終わらせて、後はソファでダラダラ。徹夜だったという大人2人は、半日ばかり寝るという。同じく徹夜明けなのに朝から仕事に行ったというリヒトさんと商会長さんは、御身体を大切にしてもらいたい。


「お兄ちゃん、何してあそぶの?」


 今日は丸一日遊ぶと宣言したので、セイナがピョンピョン飛び跳ねながら嬉しそうだ。


「そうだなー、もうすぐ新年だから、飾りでも作ろうか」


 昨夜新年の話題が出た時に、頭の中で、もう幾つ寝るとーって歌が流れたんだよね。そこからカウントダウンするのに最適な物があったなーと思い出して。本来はクリスマスに向けてのカウントダウンに使うものだけど、新年へのカウントダウンに流用しても良いよね。


「アドベントカレンダーを作ろうと思います!」


「何それ?」


「えーっと、新年になるまで毎日1個ずつ、中のお菓子が食べられる飾り、かな?」


 オレが作ろうとしているのは、オーナメントの中にお菓子がはいっているタイプだ。大きめのオーナメントにお菓子を5つずつ入れておいて、セイナとジェイドに新年までのカウントダウンをしてもらうよ。


「ジェイド、新年まであと何日か、セイちゃんと数えて。数えたら、この紙に1枚ずつ“あと1日”“あと2日”って書いていってね」


 その間にオレは、お菓子を入れるオーナメントの見本を作る。六芒星の中心部が開いていて、使い終わったらペタンと平たく出来るスターボックスにした。紙を六角形に切って、折り目をつけてと。


「師匠、出来ました!」


「ん、じゃあ、日数と同じだけ、これを作るからね。ジェイドは紙を切る係、セイちゃんはお星様をぷっくりさせる係ね」


 ぷっくり、に反応してほっぺたを膨らませたセイナに笑ってしまいながら、ジェイドには器用さを上げるために、オレの『レイちゃんの花びら(青)』を装備させる。やり方を教えてジェイドが六角形にした紙を、ジェイドの『レイちゃんの花びら(緑)』で素早さアップしたオレが折って、セイナが平たい六芒星を立体的にぷっくりさせて。


「できたー!」


「うん、お星様はこれで完成。お昼からは、この中に入れるクッキーを作ろうな」


「うん!」


 セイナは良いお返事だったけど、お昼ごはんを食べたら眠ってしまった。なので、午後からはジェイドと2人でクッキー作り。オーブンで焼いていると、甘い匂いに釣られたのかヘリオスさんが起きてくる。


「駄目ですからね、これは今日食べるのじゃないんで」


「味見するだけだ」


「駄目だって言ってるでしょ。足りなくなったらセイちゃんにまた嫌われますよ」


 なんて攻防を繰り広げる間にセイナとアステールさんも起きてきた。オレがアドベントカレンダーの説明をする傍ら、セイナがクッキーをオーナメントに入れてゆく。


「アステールさん用に、ジンジャークッキーやソルトバタークッキーも作ったんで。味見してみて、好きなのをセイちゃんに教えてくださいね」


「おい、俺には味見するなって言ったのに」


「ヘリオスは味見で全部食べてしまうからですよ。セイちゃん、私のはソルトバタークッキーにしてください」


「アズちゃんは、お塩のクッキーね」


「私はアズちゃんのままですか……」


 何だかんだと言いつつ、アドベントカレンダーは完成した。棚に並べて、早速今日のぶんのオーナメントからクッキーを取り出し、揃って食べる。もうすぐ新しい年だ、楽しみだね。



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