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すてーたす、おーぷん

 丘を慎重に駆け下りたオレは、麓に茂っていた雑木林に身を潜めて、ホッと息をついた。幼女を抱えての下り坂疾走はオレにはハードだった。体力のないインドア派だし、オレが転けるとセイナも怪我するから緊張感がすごいし、余計に疲れるんだよね。


 幸い下っ端兵士達は追い掛けて来なかったので途中からスピードダウンしたけれど、それでも汗が噴き出している。オレはセイナを柔らかそうな下草の上に座らせて、鞄からハンドタオルを取り出した。


 この鞄、召喚された時にちょうど膝の上に置いていたからか、一緒にこっちの世界に来てた。中にはハロウィンイベントでもらったお菓子だとかおもちゃだとかも入ったまま。良かった、さすがに手ぶらで異世界生活を始めるのは無理だと思う。何をするにも先立つものは必要だから、お金に変えられる物がないかと鞄の中身を物色する。


 いつも持ち歩いている財布にスマートフォン、ハンカチ、ウエットティッシュに加えて、ハロウィンイベントで手に入れた物がけっこう入っている。お菓子はもちろん、スタンプラリーでもらった折り紙とか、工作スペースで作った天然石のブレスレットとか、喫茶店でもらった小さな積み木とか。ペットボトルの飲料が2本と惣菜パンもある。あと、オレが着ていた仮装の衣装も。


 リュックにも肩掛けにもなる帆布鞄はパンパンで、結構な重量だ。子ども連れだと荷物が多くなるよね。退屈するとグズるし怪我しやすいし、すぐにお腹が空くし。そういうのに対処するための物品を持ち歩くために、鞄は大きめで頑丈だ。


「お兄ちゃん、お菓子食べたい」


「はいはい」


 綺麗にラッピングされたクッキーをひとつ、セイナに渡してやる。食品は自分たちで消費するとして、売れそうなのはブレスレットと積み木かな。今夜の宿代くらいにはなって欲しいところだ。オレ1人なら最悪野宿も覚悟するが、セイナがいるからせめて屋根のある場所で休みたい。

 

「お兄ちゃん、手」


「うん?」


 セイナが小さな手を差し出してくる。オレの半分くらいの手のひら、可愛い。ちょっと土で汚れてる。ウエットティッシュを1枚出して、拭いてやる。セイナがいつも歌っている、セイナ作詞作曲の手洗いの歌を一緒に歌う。


「お手て、きれいきれーい、ピッカピカ」


 ピカー!


 セイナの手が光り輝いた。物理的に。眩しいほどに。キラキラのエフェクトが手のひらを覆って煌めいている。ええー、これってもしかして。


「セイちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど……」

 

 検証の結果、セイナは『きれいきれーい(浄化魔法)』、『痛いの痛いの飛んでけー(回復魔法)』、『バーリア!(結界魔法)』が使えることが判明した。そこはかとなく聖女っぽい……。

 いや、まだ確定ではない。白魔道士とか僧侶とかの可能性もあるしな!


「セイちゃん、ステータスオープンって言ってみて」


「すてーたす、おーぷん?」


「何か見える?」 


「んーとねー、なんか字が書いてある」


「なんて書いてある?」


「わかんない!」


「そっかー、わかんないかー」

 

 セイナはまだ平仮名しか読めない。オレもステータス画面が目の前に展開されているのだが、日本語表記とはいえ漢字やカタカナが多いので、セイナが読むには難しいだろう。   

 たとえセイナの職業欄に『聖女』と書かれていたとしても、確認できないんだからしょうがないな! 


 ちなみにオレの職業欄には『シッター』とある。いや確かに将来は保育士か幼稚園教員を目指そうと思ってたけど、今はまだ妹のお世話が趣味の高校生でしかないんだが。そもそも異世界に保育園とかあるんだろうか。

 なんにせよ冒険者とか無理そう。スキルも『工作Lv5』とか『ごっこ遊びLv2』とか、役に立つんだか立たないんだかもよくわからない。『子ども好きLv2』にいたっては意味が判らない。唯一『アイテムボックス』だけは使えそうだけど、これでセイナとふたり、生活していけるのか。


「お兄ちゃん、お腹減った?セイのクッキー分けてあげるね!」


 不安が顔に出てしまっていたのか、セイナがクッキーを半分に割ってオレにくれようとする。しかも大きいほうを渡そうとしてくれている。なんて優しいんだ、まさに聖女様!皆のもの、ウチの妹を崇め奉れ!


 いや、本当に聖女だったとしても隠蔽する気満々なんですけどね。聖女だからって神殿に監禁されたうえに幼女だからって侮られ軽んじられそうだし。そのくせ聖女としての義務だとかほざいて児童労働させられそうだし。邪魔なオレが排除されて知らない世界でひとりセイナが搾取されるとか、ふざけんなってなもんですよ。


 セイナから受け取ったクッキーを更に半分にして、一欠片を口に放り込む。ナッツが香ばしくて美味い。残りのクッキーでセイナの唇をツンツン突くと、鳥のヒナみたいに口を開けた。可愛い。癒される。この笑顔をなんとしても守らなくては。

 クッキーをセイナの口にそっと入れ、オレは立ち上がった。


「よし、頑張るか」


「お兄ちゃんガンバレー!」


 パアアアァ!


 オレの身体が全体的に発光した。身体が軽くなり、力が湧き、気分が上がる。どうやらセイナは『ガンバレー(身体強化魔法)』も使えるらしい……。

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