やらかした国王様
「スーちゃん、ウル、居るね?」
オレは右肩のスーちゃんと、左肩のウルを指差し確認した。スーちゃんがポンと跳ね、ウルがワンと鳴いてお返事する。
「よし、じゃあ、収納!」
アイテムボックスにハウスボートを仕舞うと、中庭がとても広く感じられる。今日はお引っ越しだけれど、一瞬で荷造り終了だ。
本来ならばオレが下賜される工房が出来上がってから、精霊様のおわす森に引っ越すはずだったんだけど。予定が急遽、早まったんだよね。その原因を作った国王様は、現在執務室の椅子に縛り付けられているらしい。国王様を縛った王妃様はというと、ヘリオスさんから退去の挨拶を受けている。
「それでは、お世話になりました」
「こちらこそ。ヘリオス殿、皆を頼みます」
「言われなくとも。全員大事な家族ですし、リヒトにも頼まれていますので」
ヘリオスさんがここで、あえてリヒトさんの名前を出したのは、「しっかり旦那の手綱握っとかないとリヒトに言いつけるぞ」って意味だ。オレとセイナがリヒトさんの養子になるの、伝わっているはずだから。本来なら手続きして正式に養子になってから伝えるところを、やらかした国王様にリヒトさんがバラして脅したのだ。
一昨日のアクセサリー販売会の日の夜中、無断でこの中庭に侵入した人がいた。目的はオレとの接触で、ハウスボートに入ろうとしてボヨンボヨン阻まれていたのを、兵士に取り押さえられたらしいんだけど。
捕まった男が「自分は侯爵で国王の許可もあるから職人に会わせろ」と喚くので、国王様に確認を取ったところ、男は本当に国王様の実兄の侯爵だったそうだ。そして、中庭へと手引きしたのが国王様だったというね……。
騒ぎが起こった時はまだリヒトさんがウチに居て、国王様がシレッと兄侯爵を連れて行こうとするのを引き止めたそうだ。そして、
「ユウとセイは僕の養子だからね。2人と、2人の家族に迷惑を掛けたり無理を言ったり、ましてや危害を加えようものなら……」
なんて事を、延々と国王様と侯爵に、圧迫面接よろしく言い聞かせてくれたという。
「二度と、あの様な事態が起こらぬよう、肝に銘じますわ」
王妃様が神妙な顔してるけど、国王様は喉元過ぎればまたやらかすだろうって、オレ達の意見が一致した。だから、さっさと森に引っ越すことになったのだった。
「ユウ、またな」
見送りにはハルトムート王子とヒルデちゃん、ヒルデちゃんのお父さんも来てくれている。引っ越すといっても近くなので、挨拶が軽い。特に王子はウチに通う気満々で、オレ達の部屋にお忍び用の平服が入った箱を持って来た。女の子用の服もあったから、ヒルデちゃんも誘って来るのだろう。
「またな、ハル、ヒルデちゃん」
2人の頭をポンポンッと撫でて、元大公なヒルデちゃんのお父さんに会釈する。この人はヒルデちゃんの専属護衛になったそうだ。オレに手を差し出してくるので握手する。
「君達には世話になった。祝いの品まで、本当にありがとう」
「お気に召しましたか?」
「ああ。それに、とても助かっている」
ヒルデちゃんには王子とお揃いのアクセサリーに加えて、ドールハウスを贈った。引っ越しを早めたのでガワだけの簡素な物しか用意出来なかった、という建前の、大きなドールハウスだ。どのくらい大きいかというと、ヒルデちゃんが余裕で寝転べるくらい。縮こまってもらったら、ヒルデちゃんのお父さんも入れるサイズだ。
オレ達の家が中庭から無くなると、ヒルデちゃんにとって安全な場所が減るからね。ドールハウスには昨日今日で、『関係者以外立ち入り禁止』と『硬化』しか付けられなかったけど、無いよりはましだろう。この先お城に来ることがあれば、また他の効果を追加もできるし。
「ヒルデちゃん、お勉強大変だろうけど、頑張って。たまには息抜きしにおいで」
「ああ! いや、はい、ありがとう存じます」
「オレ達には今まで通りで良いよ。ハルと話す時も、そうしてるんだろ?」
「……うん。ユウ、セイちゃん、ジェイド、ありがとう。またね」
「うん! ヒルデちゃん、またあそぼうね!」
セイナがバイバイすると、ヒルデちゃんも手を振り返してくれた。
ヒルデちゃんは、これからが大変だろう。お披露目は成功だったようだけど、でも、王子の婚約者としての立場は不安定だ。王子は父親と違ってボンクラではなくなったけど、まだ子どもだし。
だけど、2人が仲良く手を繋いでいるうちは、オレも出来る限り力になろう。差し当たってはヒルデちゃんが疲れた時の、避難所になれると良いよね。王子の部屋から秘密の通路を通って、いつでも遊びに来るといい。家出とか駆け落ちとかして来られると、ちょっと困るけど。
「ユウ、そろそろ出発するぞ」
ヘリオスさんに呼ばれ、冬を過ごした中庭を後にする。厩舎に馬達を迎えに行って、そこから森に直行する予定だ。




