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指輪屋さんになるから

 マシュマロは見つけられなかった。宿までの道筋にあった菓子店に入ってみたが、マシュマロもギモーヴも見当たらず、店主も知らなかった。この世界の食文化は豊かで、店内にはクッキーやキャンディ、チョコレートも並んでいたのにだ。


 せめてゼラチンが欲しくてゼリーとかババロアの話をしたら、それは貴族の食べ物だって言われた。考えてみれば、冷蔵庫があるかも怪しいこの世界、冷やし固めなきゃいけないゼラチン菓子が高級品なのは当然だ。食用のゼラチンが一般には普及していないのも、その辺が理由だろう。煮凝りとかはありそうな気もするけど、お菓子に流用できるのかわからない。


 マシュマロ無くても作ればいいかと思っていたが、完全に当てが外れた。マシュマロ、意外と簡単に手作りできるから、家で作ったことがあったのに。卵白をメレンゲにするのが大変だけど、手動でも頑張れば……やっぱりハンドミキサー無いと無理かな?


「セイちゃん、残念だけどマシュマロ焼くのは諦めよう」


「マシュマロないの?」


「うん。代わりに焼きリンゴ作ろうな?」


「わかった。セイ良い子だから我慢できるよ!」


 うんうん、セイちゃんは良い子だね。そんな良い子にはおやつを買ってあげよう。妹に甘過ぎるって? でも、お店に入って何も買わないのも気が引けるんで……。

 

 パウンドケーキ1本と、欠けたり割れたりしたお徳用チョコレート1袋を買って店を出ると、既に辺りは薄暗くなっていた。急いで宿を探し、チェックインする。ここでは子ども料金とか無いので3人分だ。馬車代を貯めるために宿代も節約したいけど、安全性とのバランスが難しい。


「ジェイド、宿のランクを少し落としても、大丈夫だと思う?」


 夕ごはんのおにぎりを食べながら尋ねると、ジェイドは丁寧に咀嚼していたご飯を慌てて飲み込んだ。


「止めたほうがいいと思います。宿によっては大部屋で雑魚寝だったり、個室でも鍵が無かったりします。酷い所だと、宿ぐるみでお客さんの荷物を盗んだり、もっと酷いと誘拐とかもあります。ボクも売られそうになったことがあります」  


 あー、犯罪絡みの宿もあるだろうとは思ってたけど、経験者から聞くと真実味が胸に来るな。


「酷いことされなかった?」


「すぐに逃げたので」


 なんでもない事のように言うジェイドの頭をひと撫でして、追加のおにぎりを渡す。ジェイドが気に入っていた焼鮭が、はみ出すほど入ってるやつ。


「下手な宿に泊まるより、町中でテント生活のほうがまだましか。どうせテントは必要だし、明日にでも見に行こうか」


「テント? キャンプだ!」


「まだキャンプ出来るか分かんないよ。テント張ってもいい場所を探さないといけないし、テントを買うお金も足りるか分からないしね。先に商業ギルドで組紐と指輪を売ってからかな」


 夕食後に食べようね、と我慢させていたパウンドケーキを1切れずつ、セイナとジェイドに渡す。お子様達がデザートを食べているうちに、オレはアイテムボックスから昼間摘んだ野花を取り出した。女性の指の太さなんて知らないので、適当に、オレの小指に合わせて指輪を作る。まずは1つ出来上がったところで、丁度セイナがデザートを食べ終わった。


「セイちゃん、兄ちゃん指輪屋さんになるから買いに来て」


「うん。指輪屋さん、指輪くーださい!」


「はい、こちらでよろしいですか?」


 白い花の指輪をセイナに渡す。セイナは自分の中指に嵌めて、


「ブカブカー」


と笑っているが、あれ?


「変わって、ない?」


 白い花の指輪は、花のままだった。


「え、何で?」


 何が駄目なんだ? 首を捻りながら、今度は片膝ついてセイナの手を取り、恭しく指輪を嵌める。それでも花の指輪は変化しない。


「お兄ちゃん、結婚式は?」


 セイナの提案で、二度とやらんと決めた結婚式ごっこまで渋々試してみたのだが。それでも花の指輪はガラスにならず、セイナの手でクッタリとしていた。


「うーん、何故だ」


 魔力不足だろうか。今日は指輪2個とおにぎり15個を、スキルで変化させた。そこでオレの魔力が尽きて、スキルが発動しないのか? でも、おにぎりは30個近く続けて変化させられたしなぁ。指輪とおにぎりでは、消費する魔力量が違うんだろうか。

 試しに石ころをおにぎりにしてみると、ちゃんと変化した。おお、魔力不足説が濃厚か。とすると、おにぎり15個ぶんの魔力で指輪2個くらいだな。ついでに魔力が空になるまでおにぎり作っとくか。


 ところが。新たに作ったおにぎりが20個を越えた。ええ? 魔力不足説、違うの?


 もう一度、指輪を試してみる。白い花の指輪は何度も指に嵌めたり外したりで萎れてしまったので、オレンジ色の花で新しく指輪を作った。セイナが好きな色なので、強請られて、セイナの中指のサイズで作ることになった。そして再びの結婚式ごっこ。新郎役はジェイドのままなんだね……。

 白い花の指輪と同様、萎れたオレは自棄気味に言った。


「ジェイド、セイちゃんと仲良くすると誓いますか?」


「誓います!」


 ジェイドが力強く宣言した瞬間、光る指輪。オレンジ色の花の指輪は、見事ガラスの指輪に変化した。なんで?

 オレは自力での解決を諦めて、有識者に頼ることを選んだ。


 と言う訳で。教えて! ヒツジさーん!

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