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ヒルデちゃんに功績を

 お腹がいっぱいになって満足したらしいハルトムート王子が部屋に戻り、セイナとジェイドが2人きりになるのを邪魔して真ん中に挟まって、ウトウトしていると。トントンと肩を叩いて起こされた。


「ユウ君、王妃様がいらしています。こんな夜更けに非常識だと追い返しましょうか」


 アステールさん、王妃様を追い返すのは止めてあげて。お忙しいみたいだし、夜遅くしか時間が取れなかったんだと思うよ。


「いえ、オレも用事があったんで、丁度良かったです」


 セイナを起こさないように、ゆっくりと身を起こす。ジェイドはまだ起きていた。寝てたらオレの代わりに枕を挟んでおいたのに。

 部屋を出る前に、一言釘を刺しておく。


「ジェイド、節度」


「……………………はい」


 はい、までの沈黙が長いよ。オレはちょっぴり不安を感じ、王妃様とのお話を早めに切り上げようと心に決めた。


 王妃様はテーブルについていて、ヘリオスさんがお茶を出してくれていた。オレはお茶請けのラングドシャを小皿に出して、王妃様の前に置き、対面に座る。アステールさんも同席してくれるようで、カップを2つ運んで来て、1つをオレに渡すとヘリオスさんの隣に腰掛けた。腰を据えてお話しする態勢になってしまったが、オレは早く寝室に戻りたい。


「こんな夜中にごめんなさいね。日中は時間が取れなくて」


 王妃様が口を開いた。


「まずは、お帰りなさい。早速ハルトがお邪魔したと聞いているわ」


 そんな挨拶から始まって、オレ達の受けた依頼について尋ねられ、城でのアクセサリー販売会についての連絡事項、その時にヒルデちゃんのお披露目をする話に移った。


「さて、ここからが本題なのだけれど」


 改めて切り出され、オレは居住まいを正す。


「ユウ、貴方の功績の一部を、ヒルデに譲ってもらいたいの」


「ヒルデちゃんが、貴族の人達に認められるように、ですか?」


「ええ。今はヒルデの血筋を公に出来ないから、ただの平民だと偽っているでしょう? 夫はヒルデの美しさだけで、貴族達が納得すると思ったようだけど、現実はそう甘くないわ。ですから、貴方の作る紙の花は、ヒルデが考えついた物だということにして欲しいの」


「良いですよ」


 オレがあっさり了承すると、王妃様が驚いたように目を瞬いた。


「そんな簡単に……よろしいの?」


「はい。元々あの花の作り方を考えたの、オレじゃないですし。ヒルデちゃんから教わった事にするのは、オレは全く問題ありません。ただ、他の聖者の中にも、花の作り方を知っている人がいる可能性があります。そこは大丈夫ですか?」


 オレが気にしているのは、著作権が如何とかではない。「折り紙の折り方」という地球の知識を持っていると誤解されたヒルデちゃんが、教会に目を付けられないかという点だ。聖者だとバレても逃げ隠れ出来るオレと違って、ヒルデちゃんは聖者疑惑を持たれても、逃げたり隠れたり出来ない。ヒルデちゃんに功績を譲ると、ある意味ヒルデちゃんをオレの隠れ蓑にすることに繋がるのだ。


 オレの身代わりでヒルデちゃんが教会に囲われたりするのは、ちょっと……そこら辺、どうお考えです?


「教会を気にしているのでしたら、大丈夫でしょう。この頃の教会は、急速に求心力を失っていますから」


「そうなんですか?」


「ええ。石竜の聖女の託宣が広がって、教会の在り方が疑問視されるようになってきたのだけれど。そこから教義の矛盾や内部の腐敗があらわになって、人心が離れているのです」


 託宣って、岩長さんが聖王都にロックドラゴンアタックした時に、聖女召喚とか獣人差別とかやってんじゃねーって文句言ったってやつかな。聖王国の王族の恥ずかしい個人情報暴露までは、託宣とやらに含まれてないよね?


「それに、貴方の故郷で考えられた物が、偶然こちらの世界でも考案されることだって、有り得るでしょう」


 そっか、そうだよね。地球でだって、違う地域で似たような伝統工芸品が作られてたりするもんね。これはヒルデちゃんが考えた物、で押し通せば通るのか。


「紙工芸は今後、我が国の主要産業として推し進めることとなりました。ですから作業工程は秘匿とし、職人も手厚く保護する予定です。具体的には、王家の御用達職人に任命し、専用の工房を与えます。いかがかしら?」


 ヒルデちゃんに功績を譲る、対価だよね。工房はまだしも、ぶっちゃけ王家御用達の看板は要らないんだけど。教会の囲い込みと似たようなもんだし。


「ええと、他の職人さんはともかく、オレは東レヌス商会との契約があるので……」


「商会長との話はついていてよ。東レヌス商会にも、王家御用達の商会になってもらいますから」


 用意周到……これ、もう逃げ道塞がれてる?

 王家というか、王妃様の庇護を受けるしかないのかと、困って保護者達に目で助けを求める。


「王妃様、ユウの後ろ盾はリヒトなので、リヒトに相談する時間を頂きたい」


 すかさずヘリオスさんが、口を挟んでくれた。


「……ごめんなさい、焦り過ぎましたね。ええ、リヒト様によく相談してお決めなさい。ちょうど、アクセサリー販売会にいらっしゃる予定ですしね」


「え、リヒトさん、来るんですか?」


「東レヌス商会から連絡が行ったようよ」


 そうなんだ。まさかお城の人達に混じって買い物するつもりじゃないよね?


「それと、ヒルデのお披露目についてなのだけど。当日ヒルデが使う髪飾りを、わたくしとお揃いにしたくて。今からでも花を作れるかしら」


「あっ、それでしたら!」


 オレは、王妃様に献上するために取っておいた青い紙のバラと、同じ折り方の白、水色のバラをテーブルに並べる。それぞれ大小5つずつ、拳闘樹の涙でコーティング済みだ。

 実は、オレからヒルデちゃんに髪飾りを作って渡しても良いか、聞きたかったんだよね。白と水色の花は、そのために作ったものなのだ。でも王妃様が用意してくれるなら、お任せしたい。


 王妃様は青いバラを手に、頬を染めていらした。


「……ユウ、この、青色は……」


「あ、製法は言えないので、表に出せないようなら別の色で作りますが」


「いいえ! これが良いわ! これでお揃いの髪飾りを作らせます!」


 良かった、気に入ってもらえて。それにお揃いの髪飾りなんて、ヒルデちゃんを大切にしてくれてるようで嬉しい。そうそう、それにお揃いといえば。


「あの、王妃様。実は、ハルトとヒルデちゃんの婚約祝いにと、お揃いの飾りも作ってあるんですが」


 オレが今日、ハルトムート王子に渡しそびれたお祝い品を見せると、それも販売会の日に、2人に身に着けさせると約束して頂いた。花パーツと一緒に箱に入れて預け、しっかりと箱を胸に抱えた王妃様に頭を下げる。よろしくお願いします!



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