20年は現状維持だから
オレの冒険者引退は、条件付きとはいえ何とか仲間達に受け入れられた。といっても今日明日にもジョブチェンジする訳ではない。冬の間に色々と準備や根回しをして、新生活に備えることに決まった。
具体的には、オレが冒険者を辞めるのは、来年になってジェイドが見習い冒険者制度を利用出来るようになってから。この世界の新年は春なので、改正見習い冒険者制度も春からのスタートだ。申請は新年の1ヶ月前から出来るので、申請受付が始まったら即申し込んで、新年明けて直ぐにジェイドが見習い冒険者になれるようにしたい。そのために大切なのが拠点選びだ。
見習い冒険者を抱えているパーティは、拠点を定めて登録しなければならないらしい。これは見習い冒険者制度に、子どもの保護育成の側面があるためだ。見習い冒険者になるのは小学生から中学生くらいの年齢の子どもだからね。常に旅から旅への生活は、子どもには厳しいし、最初の1年は毎月の冒険者ギルドとの面談もある。遠出することはあっても、基本的に拠点周辺での活動を推奨されるのだ。
ジェイド達の拠点は当然オレとセイナの暮らす家になる。家の建物自体は持っているので、オレが探さなきゃいけないのは家を設置するための土地なんだけど……希望する条件が多いんだよね。なるべく目立たないけど治安が良くて、冒険者ギルドや東レヌス商会に近くて、面倒な輩が来ない場所が良いんだけど。
「いっそ、このまま城の中庭に住むか?」
何言ってんのヘリオスさん。
「中庭では王族が気楽にやって来ますから、せめて城の厩舎の近くにしませんか?」
「いや城から出ましょうよ。何で城に永住する感じになってるんですか」
「条件に合うからだ」
「それに、ユウ君が城を離れるなんて言うと、必ず引き留められますよ。今回数日留守にするのさえ、ハルトムート王子に駄々をこねられたじゃないですか」
まあねー。確実に帰ってくるようにと、現在も王子に家を預かられてるし。
「それにヘリオスも、正式にハルトムート王子の剣術指南役にならないか、打診されていましたよね」
「そうなんですか?」
「断ったがな。俺の剣術は王族が身につけるような、お綺麗なのじゃないから」
「ヘリオス先生の太刀筋は綺麗です!」
「ジェイド、ありがとな。だけど、俺の剣術は正直言って邪道だ。魔物の変則的な動きに対応するために冒険者には必要な技術も、騎士道精神には反していたりするんだ。だから王子達には基礎中の基礎しか教えていない。でも、ジェイドには俺の全てを叩き込んでやるから覚悟しとけよ」
ヘリオスさんがニヤリと笑い、ジェイドが上気した顔で応える。
「はい! 宜しくお願いします!」
ジェイド、特別扱いされて嬉しそうだな。ここの師弟関係はとても上手くいっている。ジェイドが見習い冒険者になったらメキメキ頭角を現しそうだし、そうなるとヘリオスさんの評判も更に上がりそう。楽しみだ。
「まあ、それはそれとして。ユウ君、城の敷地内に住むことも、候補に入れておきましょう。この国の王族には貸しがあるのですから、便宜を図ってくれるはずですし」
「そうですね、考えときます」
春までは準備期間があるからね。他に良さそうな場所が無かったら、城の片隅に間借りするのもありだ。出来るだけ隅っこが良い、せめて中庭からは移動したい。
「ま、何処に住むにしろ、これまで通り皆一緒なんだ。何とかなるだろ、皆一緒なら」
「そうですね。皆一緒というのが重要です。私はもうユウ君やセイちゃんのいない生活なんて、耐えられません」
「ボクも、セイちゃんや皆さんと一緒が良いです。大人になってセイちゃんとボクの子が産まれても、皆一緒が良いです」
「そんなに一緒一緒言わなくても、オレだって皆と離れるつもりは無いですからね。あとジェイド、さらっと何か言ってたけど20年は現状維持だから」
セイナは眠さが限界にきたのか、しきりに目を擦っていて、ジェイドの言葉は耳に入ってなさそうだ。セイナの子どもは間違いなく可愛いけれど、今はまだ考えたくない。とゆーか、ジェイドはまだ自分だって子どもなのに、そんな事考えてんの? ちょっとだいぶかなり気が早いんじゃないかな?
オレはセイナを抱え直し、奥に敷いてあった毛布に運ぶ。セイナは安心したのか本格的に寝てしまった。横たえた瞬間、ふにゃりと笑ったセイナの頭を撫でて、しばし寝顔を堪能する。よし、充電完了!
「それじゃ、春からの新生活に向けて、何かと物入りですからね。ガッツリお金を稼ぐために、仕事に戻りましょう!」
オー! と拳を上げたヘリオスさんとアステールさん。ジェイドはいそいそとセイナの所に行こうとしているが、オレに回り込まれ、肩を押さえられて立ち止まった。
「師匠?」
「ジェイド、手が足りないんだ。ジェイドも手伝ってくれるよな?」
まだ幼いとはいえ、ジェイドがセイナとの子どもがどーとかなんて考えてると知れたのだ。2人きりになんてさせないぞ?
「あの、でもボク不器用だから……」
「不器用でも出来ることはあるから。この先もずっと、ジェイドはオレの弟子、なんだよな?」
オレがにっこり笑うと、ジェイドがブルリと尻尾の先まで震える。視線がセイナを求めて彷徨ってるけど、オレはジェイドの体をくるりと半回転させて背中を押し、テントの出入り口へ。
「ユウ、厳し過ぎるぞ」
「ユウ君、ジェイドが可哀想です」
「黙らっしゃい! これは兄として当然の措置です! 2人も早く、作業再開しますよ!」




