うっかり口が
「ユウ様、追加の紙が来ました! どちらに置けば」
「まだ真四角に切ってないのは、色ごとに分けてそっちの机にお願いします!」
「ユウ君、次はどれを折りますか?」
「バラの簡単な方を! 色とサイズは、えーと」
「アズ、これ全部だ! 商会との中継は俺がやるから、ユウは折るのに集中しろ!」
「頼みます、ヘリオスさん!」
「失礼します、追加の注文書です!」
「ゲッ、全部で……これ今日中に終わるのか?」
ヘリオスさんのうめき声は聞かなかったことにしたい。今夜は徹夜になるのも覚悟して、オレは機械的に手を動かしていた。
冒険者ギルドの依頼を達成し、王都に戻って来たオレ達パーティ。今夜は自宅に帰ってゆっくり休むつもりでいたのだが。
東レヌス商会に紙花を納品したところ、これでは数が足りないと言われたのだ。
「最低でもこの3倍、出来れば5倍は欲しいところです。どうか追加納品を!」
何故かまだこの国に滞在していた商会長さんにお願いされ、気が遠くなりそうだったオレ。商会をあげてサポートするからと2階に案内され、何故か準備万端整えられていた作業場に軟禁された。当然仲間達も巻き添えである。
東レヌス商会に来たのが夕方近く、オレは晩ごはんもサンドイッチ片手にササッと済ませて、ひたすら花を作り続けている。アステールさんも、ずっとオレの助手として活躍中。ヘリオスさんは冒険者ギルドに依頼達成報告に行ってから、作業場の角に設置したテントで子ども達の世話をしてくれていた。セイナが寝たから加勢に来てくれたのだろう。
ヘリオスさんが追加の注文書を見ながら準備する折り紙が、高く積み上がってゆく。日本製の均一に薄い折り紙と違い、こちらで使っている紙は厚みがあるとはいえ……。
「あんなに作って、売れるのかな……」
「売れますとも」
注文書にチェックを入れていた商会長さんが、力強く断言した。
「城での販売会については、既に社交界でも噂になっているそうです。当商会にも問い合わせが多数来ております」
「ええぇ……」
「城勤めの方々からご家族やご友人へ、話が広がっているようですね。当日は侯爵家のご令嬢も、お見えになるようですよ」
「その人、お城で働いては」
「おられません」
「ですよね。お城の人達にだけ売る予定だったのに……」
思ったより大ごとになってるよ。オレの最初のイメージでは、露店でアクセサリー売るみたいな気楽なものだったのに。紙で作ったアクセサリーなんて、貴族にとってはおもちゃみたいなものだろうからさ。
「建前としては、お客様はお城にお勤めの方だけなのですが。侯爵家のご当主が大臣をされているので」
「家族枠ですか」
それは断れないよな。他にも当日になったら、たまたま城勤めの叔父に会いに来たご令嬢とか、偶然城の侍女をしている従姉妹を訪ねて来たご婦人とか、居るんだろうな。そりゃオレが城勤めの人数に合わせて作った数じゃ、足りなくなるわ。
「ご家族が城に居られなくとも、伝手を頼っていらっしゃる方々も多いでしょうが。近隣の支店からも応援を呼んでおりますので、販売当日のことは全てお任せいただけます。ユウ様は安心してパーツ作りに専念なさってください」
「色々と丸投げしてしまって申し訳ないです」
「決してその様なことは。我が商会としましても、この国での販路が広がりそうで、喜ばしい限りです」
商会長さんは人の良さそうな顔で微笑んでくれる。やり手の商人さんだから、商会の損になるような事はしないだろうけど。ずっとこの国に滞在してるの、どう考えても販売会のせいだよね。忙しくして申し訳ない。
「ところでユウ様、この紙の花は、販売会の後も売って頂けるのでしょうか」
「え? そうですね、ご要望があれば」
「是非とも継続してお売りください!」
商会長さんの目力が強い。
「あまり一度に大量にじゃなかったら、良いですよ。あ、でもオレ、冒険者を辞める予定なんで、注文は」
「ユウ!? 俺今疲れてるのか幻聴が聞こえたんだが!」
「私にはたちの悪いいたずら妖精の戯れ事が聞こえましたね。ユウ君が冒険者を辞めるなどという」
しまった。まだ仲間達に話してないのに、うっかり口が滑ったよ。
ヘリオスさんが今までに無いくらい真剣な顔で、机を挟んでオレの正面に座った。その隣にアステールさんも移動してくる。2人共目が怖い、怒ってる? 怒ってるよね?
「あの、2人共、落ち着いたらちゃんと話すんで、今は花を作るの、続けませんか?」
「それどころじゃ無いだろ」
「ユウ君、冗談ですよね? 冗談だと言いなさい」
ああ、失敗したな。こんな場所でこんな時に、ポロッと言ってしまうなんて。
だけど、ここで冗談だと誤魔化してやり過ごすのも不誠実だ。オレが冒険者を辞めようと思っているのは事実だし、そうすると早めに仲間達に伝えるのが筋ってものだし。
オレは作りかけの花を机に置いて、深呼吸した。ヘリオスさん、アステールさんと順番に目を合わせ、告げる。
「オレ、冒険者を辞めようと思ってます」
「……本気なのですね」
アステールさんの問いに、頷く。ヘリオスさんはしばらく無言で唇を噛みしめていたが。
「……俺が、四六時中おやつをくれって催促するから、嫌になったのか?」
「は? いえ違いますよ!」
「では私がいつも小言を言うのが嫌になったのですか?」
「それも違います! 別にふたりが嫌になった訳じゃなくて!」
「なら冒険者辞めなくていいだろ!」
「そうです、ユウ君が冒険者を辞める必要性がありません!」
オレ達が騒いでいるせいで、商会の人達が何だ何だと集まって来てしまった。でもヘリオスさんもアステールさんも、止まりそうにない。2人に詰め寄られ、困っていると。
「お兄ちゃん!」
セイナがテントから飛び出してきて、オレの腕を引っ張った。
「お兄ちゃん、こっちきて! ヘリオスのお兄さんとアズちゃんも!」




