成長しましたね
オレの作りためた紙花の半数が世に出せないということで、急いで追加を作らなければならなくなった。城に帰ってからだとハルトムート王子達に襲来されたり、何やかんやと時間が取れなくなりそうなので、旅路の途中で製作することにしたオレ。お手伝いはセイナとアステールさんの比較的器用な2人である。
オレ達がテントに篭って細かい作業をしている間、大雑把なヘリオスさんとぶきっちょなジェイドのネコ耳コンビは森へ。もう1つ受注していた採取依頼のためだ。紅燈石という、照明器具の燃料になる石を探すそうなのだが、この石、紅燈亀の甲羅に寄生する生きた石らしい。宿主の紅燈亀が亀のくせに冬でもアクティブなので、見つけるのも採取するのも難しいのだとか。
「依頼達成出来なくてもペナルティが無いから、気楽に探してくる。昼には一度戻るからな」
昼食時には絶対に戻って来るからと念押しし、ヘリオスさんはジェイドを連れて出掛けて行った。ジェイドのアイテムボックスに行動食という名のおやつを詰めて送り出し、オレはさて、とちゃぶ台を取り出した。空中でも折り紙はできるけど、台があった方が速く綺麗に折れるので。
時間がないのでオレはジェイドの「レイちゃんの花びら(緑)」も借りて、素早さをアップさせている。素早さが減ったジェイドには、セイナが「レイちゃんの花びら(橙)」を貸していた。優しい。良い子に育ってるね。
良い子のセイナはお手伝いも率先してやってくれる。今はオレが昨夜作った紙花を、拳闘樹の涙から掬い上げ中だ。オレはお箸を使ったが、セイナはフォークを使っている。大人用の大きめなフォークを操り、真剣な顔で紙のバラを網に移すセイナ。かわいい。
「おっと、セイちゃんに見惚れてる場合じゃなかった」
妹の可愛さはいつまで見てても飽きないけど、オレは手元に視線を戻し、折り紙を開始した。城の女性陣を敵に回す愚は犯せないので。アイテムボックスから、オレの魔法薬で染色していない色紙を出し、正方形にしてゆく。こちらの世界の色紙は、スモーキーカラーというか、くすんだ色合いのものが殆どだ。自然で可愛らしい色ではあるけれど、パッと目を引く派手さは無い。
「アステールさん、これ、ちょっとだけ鮮やかにするのは」
「駄目ですよ、だいたい、そんな時間は無いでしょう」
昨夜のうちに拳闘樹の涙でコーティングした花をチェックしているアステールさんが、オレに目もくれず一蹴する。そんなに駄目かな。ちょこっと魔法薬に浸して、アステールさんの風魔法で……ん?
「アステールさん、もしかして、オレが魔法薬で染めた紙にも光属性ついてます?」
アステールさんが顔を上げ、とても綺麗に笑った。
「ユウ君、成長しましたね。自分で気付けるとは、危機意識が高まりましたか?」
「やっぱり光属性、ついてるんですね」
「ええ、だから魔法薬で染色したものは貴族用なのです。値段が跳ね上がりますから」
そうだったんだ。もしかしてアステールさん、昨夜品質チェックした時に、全部を鑑定してたのかな。
「値段が上がるのはともかく、光属性ついてても売って良いんですか?」
「全て作り直す時間がありますか?」
「無いですよね、すみません」
「ええ、ですから光属性のついている物は、契約魔法の魔法紙を使って作ったことにします」
あ! 契約魔法を結ぶ時に使う紙って、教会の聖者が契約魔法を付与してるんだっけ。契約魔法は光魔法の一種だから、契約魔法を付与した紙は光属性!
「アステールさん、頭良い! だけど、そんな紙で折り紙したオレは、アホだと思われるんじゃ」
「気にせずとも、お金持ちで世間知らずな箱入りにはよくある事です」
「オレは世間知らずだけど、金持ちでも箱入りでもないんですが」
「ですが、周囲にそう思わせていた方が、ユウ君の浮世離れした言動を誤魔化しやすいのです。だいたい、その派手な赤いケープを平気で着ているのですから、どう見たってお金持ちですし」
あ!! パーティ組んで直ぐから着ているこのケープ、鮮やかな赤だよ! アステールさんのケープの紫色も、セイナのケープの橙色もビビッドカラー! お高い色!
だけどこれ、他でもないアステールさんがくれたケープなんですが!?
「やっと気が付きましたね。これらはリヒト様から頂いた、高級生地で出来ているのです」
「なんでそんな物着せたんですか、目立っちゃ駄目なのに」
「ユウ君の言動で、目立つなというのが無理なんですよ。仮面もありますし。それに高級生地とはいっても、平民でも小金持ちなら一張羅に使える程度の布ですので」
そうか。ま、今更だな。
「そんな事よりユウ君、貴方は花を作りなさい。紙を四角く切るくらいなら、私にも可能です。真四角にすれば良いのでしょう?」
アステールさんの言う通り、余計な事を考えている暇はない。オレはハサミをアステールさんに手渡して、黙々と花を折る。レイちゃんの花びらのおかげか、いつもより手が速く動いて捗る。
「お兄ちゃん、全部終わったー」
「セイちゃんありがとう! またお花が溜まったら、お願い出来る?」
「うん!」
一旦セイナが拳闘樹の涙から離れ、オレの隣で手裏剣を折り始めた。ユニット折り紙も良いな、くす玉とか作ってコーティングしたら、いい飾りになりそう。花は飽きてきた。でも今は花を作らなきゃ。
忙しなく手を動かして作業していると、手裏剣を完成させたセイナがシュッと折り紙手裏剣を飛ばした。ヒュルルと飛んでいったというか、投げ飛ばされた手裏剣が、拳闘樹の涙の入ったタライの近くに落ちる。拾いに行ったセイナが、大声でオレを呼んだ。
「お兄ちゃん、大変! スーちゃんがおぼれてる!」
「スーちゃんはお水に沈んでも平気だよ?」
「スーちゃん、涙の中でもおぼれないの?」
「えっ?」
オレがタライを覗くと、拳闘樹の涙の底に、スーちゃんが目を開けたまま沈んでいた。大慌てで救助して、セイナに『きれいきれーい』を掛けてもらう。水と拳闘樹の涙、よく似てるもんな。
「ごめんな、スーちゃん」
プルプルと震えるスーちゃんに謝りながら、道具を出しっぱなしにしちゃ駄目だなと反省したオレだった。




