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かくれんぼ

「ええ、こうなるだろうと思っていましたよ」


「だな、なにせユウだしな」


 オレの夢に冥王様が現れて、ウルを預かる事になった。その報告後の反応は、大人2人は諦めの境地、子ども2人はちびっこいワンコに興味津々と両極端に割れた。セイナがメロメロなのにジェイドが嫉妬しないのは、ウルが女の子だからである。そうとは知らず、男神のお名前から名付けちゃったよ。でも改名はしない。冥王様に「この子はウル」ってことでお許しもらったからね。


 小さ過ぎてオレには雌雄の判別がつかなかったウルだけど、ジェイドは匂いで女の子だと分かったらしい。ヘリオスさんも同意してたから、獣人の嗅覚なら嗅ぎ分けられるのだろう。ヘリオスさんはアステールさんの匂いを辿れるらしいしな……隙あらばセイナをクンクン嗅いでいるジェイドも、そのうちセイナを匂いで探せるようになるのだろうか。


 まあ、それは置いといて、ウルが女の子だったのでジェイドは心穏やかに過ごしているのだが。心中穏やかじゃないようなのが、ロキ。ウルを見てパタリと耳を後ろに倒し、不機嫌そう。ウルをオレのポケットに隠しても、ポケットに鼻を近付けてはフンッと顔を背けて拗ね、乗せてくれないのだ。馬も嗅覚良いんだな。

 今正に、絶賛やさぐれ中のロキが、オレが乗ろうとしているのに逃げてゆく。だけど数歩歩くと立ち止まって、チロリとオレを振り返る。かまってちゃんロキに振り回されるオレ。


「また新入りが増えた、この浮気者って、ロキが言ってるぞ」


「そんな事言われても。ロキ、ウルは冥王様から預かった、大事な子なんだよ」


「新入りとぼく、どっちが大事なのって、ロキが言ってますね」


「比べられないから。って、アステールさんまでロキにアテレコして遊んでないで、助けてください! 出発出来ないでしょ!」


 昨日は緊急事態の対処で午後からの予定が狂ったから、今日はサクサク進みたいのに。お昼までに拳闘樹との対戦を依頼した人に会って、話をつけたいのだ。拳闘樹の涙、分けてくださいって。

 ヘリオスさんがオレに手のひらを差し出し、揃えた指をチョイチョイと曲げる。


「しょうがないから俺がウルの面倒を見る。ユウ、ウルの行動食も預かるぞ」


「ヘリオスさんはどら焼きが余分に欲しいだけでしょ」


「あっ、ずるーい! お兄ちゃん、セイもどら焼き、もう1個ちょーだい!」


「だーめ、これはウルのだから。ジェイドも自分のをセイちゃんに渡さないの!」


「ボクの物はセイちゃんの物なので」


「ならセイちゃんの物はジェイドの物ね、はい交換して。で、アステールさん」


 オレはさり気なくアステールさんの手を取ると、ウルと、ウルよりも大きなどら焼きを乗せる。顔を引き攣らせて手を引っ込めようとしてるけど、もう遅いですよアステールさん。乗せてしまえば振り落としたりは出来まい、この可愛いワンコを!


「ウルをお願いしますね」


「何故私に」


「甘党じゃないからです。あと、さっき話した『かくれんぼ』、試してみないかなーと」


「……良いでしょう」


 やった! 


「ではアステールさん、ウルをなるべく顔の近くに、ええと、マフラーの隙間にでも入れてください」


 アステールさんが、ぐるぐる巻いたマフラーの間に、落っこちないようウルを挟む。顔と前脚だけ出して、ちょこんとマフラーに挟まったウルにオレは呼び掛ける。


「ウル、オレが鬼やるから、ウルはアステールさんの美貌と一緒に隠れるんだぞ、良いな?」


 ワンッ!


「じゃあ、10数えるからな。いーち、にーい──」


 オレが数え始めると、ウルはモゾモゾとアステールさんのマフラーに潜りはじめた。前脚を引っ込め、鼻面、目、耳と埋もれてゆくウル。潜り過ぎて一度後ろ脚が出てきてしまったが、上手くバックしてすっぽりとマフラーに覆われる。そのままじっと隠れているウル、お利口だ。


「──はーち、きゅー、じゅう! もういーかーい」


 キャンキャンクゥーン?


 こんな風にお返事してねと教えていたんだけど、犬に「もういいよー」は難しかったか。頼りない返事が返ってきたが、その途端、『かくれんぼ』の効果が如実に現れた。


「これは……アズの顔なのに、別人みたいだ」


「アズちゃん、お顔がキラキラしてない」


「アステールさんの顔のままなのに、普通に見えます」


「ジェイドは私が異常だと認識しているのですね? 後からゆっくり話しましょうか」


 おお、今日も冷えるな。だけど超越美形の迫力が無いからか、いつもより怖くないぞ。


 『かくれんぼ』は、ウルが隠れる時に、ついでに何かを隠してくれるスキルである。今はアステールさんの美貌のみを隠してくれているので、アステールさんの顔だけが霞んでいるというか、くすんでいるというか、目立たない地味な感じになっている。でも顔の造りは変わっていないので、ちゃんとアステールさん。不思議。


「アステールさん、はい持って」


 手鏡を渡すと、アステールさんが自分の顔を確認する。訝しげに何度も顔の角度を変えて、鏡に映る自分をチェックしていたが、不平をこぼした。


「いつもと変わらないじゃないですか」


「「「いや、全く違う!」」」


「ちがうよー?」


 セイナにまで突っ込まれても、アステールさんは納得がいかないようだった。でも、この顔なら魅了されて可怪しくなる人も居ないだろう、アステールさんの仮面を外せる日も近いと、ヘリオスさんと盛り上がっていたところ。


 マフラーの編み目の隙間から、オレをじっと見ている黒い瞳と目が合ってしまった。


 キューン、クゥーン……。


 ああ、ちっちゃいワンコが寂しそうに鳴いている。オレは耐えられなくなって、


「ウル、みーつけた!」


 『かくれんぼ』を解除してしまった。アステールさんの顔面からキラキラエフェクトが溢れだす。


「あー、まだ仮面は必要だな?」


 ですね!



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