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おにぎり

 次の宿場町までは馬車で半日未満というので、オレ達は正午発の乗り合い馬車で出発した。町を出てすぐの畑では綿花が栽培されていて、弾けて飛び出した綿が、風にふわんふわん揺れている。通り掛かりにセイナが手を振ると、畑作業中の男性が手を振り返してくれた。その背籠には、真っ白い綿が山盛りになっていた。長閑だ。


 この辺りで収穫された綿は、ほとんどが次の宿場町に運ばれるらしい。この乗り合い馬車にも綿の詰まった袋が載せられていて、セイナの椅子代わりにさせてもらっている。馬車の揺れがダイレクトにお尻に響くのを緩和するためだ。持ち主の農家さんが勧めてくれて、ありがたく従った。


「こいつらは隣町で糸にして、その向こうの町で織物にするんだよ。そこまで行きゃあ布が安く手に入るから、チビちゃんにクッションでも作ってやりな」


 農家さんは袋の1つから綿を引っ張り出して、ひと塊をオレにくれた。礼を言って受け取り、代わりにおにぎりを2つ、農家さんに渡す。この人、さっきからセイナが食べているおにぎりを物欲しそうに見ていたのだ。


「いやあ、すまんね。昼飯食べ損ねちまって。それにチビちゃん達がやたら美味そうに食ってるもんだから」


 ヘラリと笑って、おにぎりのひとつに齧りつく農家さん。


「お、美味い。これなんて食いもんだ?」


「おにぎりです。うちの辺りじゃ主食だったんですけど。米とかご飯とか丼物とか、知りません?」


「知らんなぁ」


 やはり米は普及してないのか。異世界ものだと米食を広めるのも定番だから、歴代聖女様が探し出してるかもと思ったんだが。聖王都で見掛けなかったから、存在しない可能性も見越して、『おにぎり』をパターン設定したのだ。正解だった。


 今朝は馬車の時間まで余裕があったから、宿を発つのをゆっくりにして、『ごっこ遊び』スキルを検証してみた。その結果、使用方法その他について、幾つか判ったことがある。


 まず、『ごっこ遊び』はオレ一人では発動しない。一人遊びのごとく、自分に「あーん」してみたのだが、恥ずかしいだけで終わった。その後おにぎり屋さんの設定で、セイナ達をお客様にしてみると、昨夜作った折り紙おむすびがおむすびに変化した。それが今、農家さんが食べている塩むすび。海苔が半分だけ巻いてある。


 それから材料について。執事のヒツジさんが少しだけ触れていたが、材料の形状によっておむすびの出来が左右された。具体的には、肌色の折り紙を材料に使った「炊き込みご飯のおにぎり」は、味が薄くなった。美味しく食べられたのだけど、オレが想像していたのは「牛肉や油揚げが入ったガッツリ醤油味の炊き込みご飯おにぎり」だったので、出来としては不完全。逆に、折り紙を何枚も使って細部まで作り込んだ「オムライスおにぎり」は、セイナから、

  

「ほっぺた落ちそーう!」


との感想が出るほどのおにぎりに変化した。味を追求するとなると、材料の準備が大変そうだ。ただ材料の素材は石や土でもいけたので、そこそこの美味しさで満足すれば問題ない。


 それと大きさ。これは材料の体積がそのまま反映される。中が空洞かどうかは関係なく、見た目の大きさのおにぎりが出来上がり、ご飯もみっしり詰まっていた。ただし折り紙おにぎりの空洞にピンク色の折り紙を詰めると、焼鮭が詰まったおにぎりになった。ジェイドが両手で大事そうに持って、ちょっとずつ齧っているやつ。もっとバクバク食べて良いんだよ?


 あとは、『ごっこ遊び』とは関係ないが、スキル検証中の雑談で、ジェイドもアイテムボックス持ちであることが判明した。


「このくらいの、小さいのなんです」


 ジェイドが手で示した大きさは、バレーボールくらいのささやかなものだった。


「だけどアイテムボックスに入れてたので、お父さんの指輪を取られずに済んだんです」


 はにかんだジェイドが滅茶苦茶可愛かった。そんな健気なジェイドのアイテムボックスには、オレがもらったぶんのハロウィンお菓子を全部入れさせた。セイナがお菓子を食べる時に、必ず一つは食べるんだよと約束して。


 アイテムボックスがそれほど希少なスキルではないと知れたので、オレは遠慮なく、自分のアイテムボックスから追加のおにぎりを取り出した。ちょっと歪な四角いおにぎりは、元が歪な四角形の石だったもの。丸でも三角でも四角でも良いのも、『おにぎり』を設定した理由だ。形の自由さ、味や具材のバリエーション、食べやすさ。米料理に1パターン使うと決めてから『おにぎり』を設定するのに、そう時間は掛からなかった。

 ちなみに『米料理』ではパターン設定出来なかった。ある程度の絞り込みは必要らしい。


 残り7つのパターン設定については、まだ考え中だ。金策の1つとして『金』を設定しようかとも思ったが、怖いことになりそうな予感がして中止した。金色の折り紙を楕円型にして、


「お代官様、こちら黄金の菓子でございます」


「くくく、お主も悪よのう」


なんて悪代官ごっこをしてみたかったんだけど。本物の悪代官が出てきたら嫌だからね。

 

 『おにぎり』を設定したことで、最低限、衣食住の食は確保した。次は衣、特にジェイドの服を、もうチョイ何とかしてやりたい。布地が安いという2つ先の町に着くまでに、組紐を出来るだけ作るにしても、もう1つ現金収入になる物が欲しい。

 『指輪』は売り物になるが、貴金属の売買はあまり気が進まない。おもちゃ程度の物ならともかく、金貨をやり取りするような物だと、これも悪い人や偉い人に目を付けられそうだし。

 『おにぎり』を売るのも考えたけど、食品の売買も違う意味で怖い。食中毒とか異物混入とか、輩な人にイチャモンつけられそう。揉め事になりそうな事は極力避けたい。


 ゴマ塩の効いたおにぎりを頬張りながら、オレは思案する。もっと手軽な売り物になりそうな物って、何か無いだろうか?


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