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同等の効果を持つんじゃないかな

 冥府の番犬ケルベロスは、ギリシャ神話に登場する、冥府の入口を守る三つ首の犬だ。確か、甘い物が大好き。この子も甘味が好きそうだけど……そもそも異世界に、ギリシャ神話の怪物が居るのか? 

 オレは、ロキの背からワンコを手に移し、アステールさんの目の前にズイッと突き付ける。


「アステールさん、これがケルベロスって、何かの間違いでは?」


「ケルベロスが何かは知りませんが、ソレは冥府の番犬で間違いありません! たぶん先程のアレの随行者でしょう、目を合わせたりしていませんよね?!」


 アステールさんはワンコを視界に入れないようにしながら、悲鳴のような声で言う。この子はケルベロスではないようだが、あの悍ましい一行の一員らしい。本当に? 見た目の系統がこんなに違うし、オレ、ウルウルお目々とガッツリ目を合わせちゃったけど。


「ええと……もう手遅れです」


「ユウ君っ!? セイちゃん、セイちゃん来てください、ユウ君に回復魔法を早くっ!」


 いつもは冷静沈着なアステールさんが、切羽詰まった声でセイナを呼ぶ。オレは念のために、ワンコを手のひらで覆い隠した。ジェイドがセイナを抱えて飛んで来たが、肝心のセイナは状況が理解出来ず、キョトンとしている。


「お兄ちゃん、どーしたの?」


「うーん、特に何ともないんだけど。セイちゃん、兄ちゃんに『痛いの飛んでけー』してくれる?」


「浄化魔法もです!」


「はいはい」


 セイナにお願いして、回復魔法と浄化魔法を両方掛けてもらう。閃光が2度、オレを覆ったが、特に変化は無かった。


「セイちゃん、ありがとー」


「どういたまして!」


 舌っ足らずなセイナが可愛いとホッコリしていると、アステールさんがオレの瞼を上下に開いて目を覗き込んだり、脈を測ったりしだした。生きてますよ。ゾンビ化とかもしてないです。


「本当に異常はありませんか?」


「はい。あの、例のアレと目を合わせると、如何なるんですか?」


「あまりの恐怖に発狂し、衰弱したところで魂を刈られると言われています」


「恐怖で発狂するんですね? でも、この子を見ても、怖いとは思えないんですけど」


 犬好きなら可愛過ぎて発狂する可能性は有るかもと、思えるくらいには可愛いけど。この子に恐怖を感じるなんて人は少数派だろう。

 手のひらに隠したチビワンコを、そっと覗き見る。ワンコもオレの指の隙間から、こちらを覗いていた。「おまえがワンコを覗くならば、ワンコもまた等しくおまえを見返すのだ」って何処の哲学者の言葉だよ。


 オレが平然としているからか、アステールさんが首を捻った。恐る恐るオレの指を動かして、ワンコとご対面したアステールさん。キュルンとした瞳に見返されて、困惑する。


「そう、ですね……これが怖いかと言われると……」


「でしょ? この子、悪い子じゃないと思うんですよね。セイちゃんの魔法を受けても平気そうだし」


「光魔法でダメージを受けないなら、悪いモノではない、のでしょうか……ですが……」


 だんだん自信が無くなってきたらしいアステールさんに、ヘリオスさんがタイムリミットを告げた。


「おい、取り敢えず害が無いなら、ソイツの事は後回しだ。見ろよ、アンデッドが湧きそうだ、逃げるぞ!」


 ──オレ達は馬に乗って駆け、アレに遭遇した現場から急いで離れた。街道沿いから丘を回り込んで、現在は街道を見下ろす崖の上に来ている。冒険者に課された「緊急事態の報告義務」のために、安全に配慮しつつの情報収集である。


「思ったよりもアンデッドの数が多いな」


 崖下を覗いているヘリオスさんが、顔を顰める。オレも隣で腹這いになって街道を見下ろしながら、頷いた。アレが通っていった街道、地面の色がドス黒く変色してるんだけど、そのドス黒い部分からスケルトンやらゾンビやらがポツポツ湧いて出てきている。ゾロゾロってほどの数じゃないのが救いだけど。これが続くと、近隣の集落に被害が出るんじゃないだろうか。


「冬場で街道の往来が少ないとはいえ、皆無ではありませんからね。二手に別れて報せに走りますか?」


「別行動は避けたいが、それしか無いか……」


 オレも別行動は嫌だ。でも、あれを放置は良心が痛む。かといって、オレ達パーティが体を張るのもな。安全圏から数を減らすくらいは出来ないか?


「あの、アンデッドって、回復魔法や浄化魔法で退治出来たりします?」


 オレがやった事のあるゲームでは、回復魔法でアンデッドにダメージを与えたり、蘇生アイテムで瞬殺したり出来たからね。さっきアステールさんも、光魔法でダメージを受けないなら悪いモノではない、って言ってたから、逆に悪いモノなら光魔法でダメージが入るんじゃ?

 アステールさんが答えてくれる。


「回復魔法は意味がないですが、浄化魔法なら効きます。ですが、セイちゃんをあれに近付けるのは危険です」


「セイちゃんをアンデッドに近付けるなんて、そんなの絶対ダメです!」


 後ろで後方警戒しながらセイナの相手をしていたジェイドが、小声で叫んだ。オレだって、セイナを危険に晒すつもりは無い。妹を最前線に送るくらいなら、オレが特攻をかける。無意味だから、別の方法を探るけど。


「ジェイド、セイちゃんの浄化魔法は使わないから。オレが考えたのは、これ」


 オレはアイテムボックスから、石鹸を取り出して掲げた。オレのテントが結界と同等の効果を持つなら、石鹸も浄化魔法と同等の効果を持つんじゃないかな、と。


「なるほど、ユウ君の石鹸は光属性つきですからね。やってみる価値はあります」


「だが、ここから如何やって届かせる? アズの風魔法で1つずつ命中させるのか?」


「いいえ、それだと効率が悪いので、パリピゴリラの時みたいに降らせてください」


「石鹸を?」


「はい! いまから液体石鹸を作りますので!」


 

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