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ソレはウチでは飼えません!

「亡者の行進、冥府の葬列などと呼ばれているモノですね」


 先程の恐怖体験について、アステールさんが説明を始めた。出来れば両手で耳を塞ぎたい、だって聞けば否応無しに思い出してしまうから。でも、知っておかなければならない知識だからと、アステールさんは話を続ける。


「出逢ってしまうと、ほぼ助かりません。葬送の鐘が聞こえる前に逃げるか、高位結界で身を守るしか対処法がありませんので。それでも生き残れるかは五分五分です。ユウ君のテントがあって、本当に良かった」


「オレのテント、別に結界で覆ったりはしてないですけど」


「確かに、セイちゃんが使う結界とは少々異なりますが、効果は同等、いえ、それ以上でしょう。高位結界と言って差し支えないと思いますよ」


「だよな。気温を上げたのも助かった。凍え死ぬところだったぜ」


「アレに出逢ってしまった時の死因、其の一ですね」


 其の二は目を合わせた時だよね。生命力でも吸われるのかな、あの……思い出しちゃったよ……。オレはぶんぶん首を振って、記憶を振り払う。


「そういえば、セイちゃん、ずっと目を閉じてたよね。何で?」


「ジェイドが教えてくれたから。怖いお化けが来たけど、だまって目をつむってたらいなくなるよって」


「ジェイドはアレ、知ってたんだ。セイちゃんを守ってくれて、ありがとうな」


 コクンと頷くジェイドは、まだセイナを抱っこして離さない。そしてオレの両脚の間に挟まっている。怖かったよね。平気そうに解説しているアステールさんですら、ヘリオスさんに抱えられてるからね。オレもヘリオスさんの隣にくっついて、皆で団子状態だ。圧倒的安心感。


「一般的には、アレは大勢の死者を迎えに行く死神の集団だと言われています。実際アレは戦争や飢饉、疫病等で多数の死者が出た地域へと向かっていることが多くてですね、今回は革命が起こったサフィリア方面へと進んでいたことからも、その説が支持されますが別の見方もあって」


「アズ、深呼吸しろ。もう大丈夫だから。怖かったな」


「……はい、とても怖かったです……」


 ヘリオスさんにしがみつくアステールさん。その背中を体温を上げようとする時みたいに、ゴシゴシと擦りながら、ヘリオスさんがオレに耳打ちする。


「アズは霊とか苦手なんだよ」


 アステールさんがやたら饒舌だと思ったら、恐怖を紛らわせるためだったらしい。アレのウンチク聞きたくないとか思ってごめんなさい。

 オレは、アステールさんが気に入っていた梅ジャムの瓶を取り出して、スプーンですくった。


「アステールさん、アーン」


 素直に口を開けるアステールさん、これは大分弱ってるぞ。口の中にそっとスプーンを差し入れて、もう一匙梅ジャムをすくう。オレにもくれと言うヘリオスさんとアステールさんに、交互に梅ジャムを食べさせた。もちろんセイナにも瓶を持たせ、ジェイドとセイナも梅ジャムを食べている。よしよし、皆だいぶ顔色が戻ってきたぞ。


「……もう平気です。梅ジャムが光属性だからでしょうか、落ち着きました」


 あ、光属性の食べ物って、SUN値を回復する効果があるのか?


「だったら、お昼はおにぎりにします。皆、食欲は?」


「ある。だけど、皆もう動けるようなら、ここから離れよう。アレが通り過ぎた後には魔物が湧く」


「ああ、そうでした……アンデッド系の魔物が湧くのでした……」


 また顔色が悪くなるアステールさん、本当に苦手なんだね。オレもスケルトンとかゾンビとかには出会いたくない。即時撤収と相成った。


 馬達が無事なのはヘリオスさんの耳で確認済みだったが、ウチの肝が据わった馬達にとっても、アレとの遭遇は厳しいものだったようだ。怯えたように固まる馬達にも、梅ジャムを舐めさせ落ち着かせる。


「皆、ちょっとだけ頑張れる? ここに居るとアンデッドが湧いてくるんだってさ、逃げなきゃ、な?」


 あんなのがまた来るの? って感じに、ヒヒンと鳴くロキ。勇敢なトールに鼻先で押され、仕方無さそうにタープの下からカポカポ出てくる。


「よし、良い子だロキ。ほら、もう一口食べるか?」


 カレー用の大きなスプーンで瓶から梅ジャムをすくいながら聞くと、ワンッ! と返事が返ってきた。ん?


「ロキ? お前、犬の鳴き真似が出来るのか?」


 ブルルッといななくロキのたてがみから、ピョコンと飛び出た黒い仔犬。小さい。仔犬にしたって小さいその犬は、ロキの背でキューンと鳴きながらウルウルと梅ジャムの瓶を見つめている。そして、またワンッと鳴いて、今度はオレをウルウルと見つめる。


「ジャム、食べたいのか?」


 ワンッ!


 尻尾をパタパタ振る仔犬。可愛い。オレは猫派だけど、犬も嫌いではない。と言うより割と好き。だけど、犬にはあまり詳しくないんだよね。犬に梅ジャム、食べさせても良かったかな?


「ええと……お腹痛くなるかもしれないから、少しだけね」


 オレは、スプーンの先にちょこっとだけ梅ジャムをすくい、仔犬の口元に差し出した。喜んで尻尾をブンブン振りながら、梅ジャムをペロペロ舐めるワンコ。でも直ぐに舐め尽くし、キューンと悲しげに鳴くワンコ。そんな目で見ないで。


「もうお終いにした方が……うーん……わかったよ、でも、これで最後だからね」


 もう一匙だけ舐めさせていると、風魔法で周囲を探っていたアステールさんがやって来る。ジェイドとセイナが乗るフレイヤの馬具を確認していたヘリオスさんも、近寄ってきた。


「ユウ君、そろそろ出発を……それは?」

 

「ユウ、その犬は如何した、というか、それは犬なのか?」


「え、犬でしょ?」


 ロキのたてがみに隠れられるくらい小さいけど。どう見ても犬だよね、え、違うの?

 

 仔犬を鑑定したらしいアステールさんが青褪める。


「ユウ君、ソレはウチでは飼えません! 元いた場所に捨ててきなさい!」


 捨て犬を拾ってきた子どもに対する、母親のセリフだよね。


「元いた場所にって言われても、この子、ロキにくっついてて」


「いいから捨ててきなさい! それは、その犬は、冥府の番犬です!」


 えっ、この子、ケルベロス? それにしては、首が1つしかないんだけど?



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