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あのセリフを早よ!

 美白石鹸は速攻で王妃様にバレました……。


 国王様との約束の10日間が経過して、王妃様と王子にヒルデちゃん父娘をお披露目した。もちろん2人共に、服から出ている部分にはきっちり肌色顔料を塗ってもらっていた。なのに、ひと目で顔料を塗っている事実どころか商品名まで看破され、即座に白旗を揚げたオレ。王妃様、審美眼が半端ないですね。スキルか何か持ってます?


「そんな物が無くとも、見れば分かります。さあ、わずか10日で、ここまで肌を白く美しくした物をわたくしに献上なさいな、ユウ」


 ヒルデちゃんの服の袖口を捲って肌の白さに驚愕し、オレに向かって手を差し出してくる王妃様。オレはすっとぼけてみた。


「ええと、実はオレの故郷にいる知人からの貰い物で」


「いいえ、ユウ、貴方の作り出す石鹸の効果でしょう? リヒト様から頂いた香り高い石鹸も、貴方の作でしょう。違いまして?」


 オレの仕業だと知られている上に、原因が石鹸だと特定されている。頭が切れる人って、一を聞いて十を知るみたいな事を簡単にやってのけるよね。怖い。

 オレはヒルデちゃんから返してもらった美白石鹸を手に、恐る恐る弁明した。


「その、この石鹸は特殊な加工と特別な材料で作っているので、この使いかけの石鹸しかなくてですね」


「構いません。渡しなさい」


 王族相手に、他人が使った残りの石鹸を献上する羽目になった。断り文句のつもりで、使いかけだって言ったのに。王妃様ほどの美人でも、そんなに白くなりたいのかな。


 王妃様に命じられて顔料を落としに行くヒルデちゃん達に、別の石鹸を渡す。待っている間に王妃様に、美白石鹸はまだ試作品だから肌に負担が掛かるかもとか、効果は人によりますとか伝えて慎重に使ってもらうようにお願いしていたんだけど。

 顔料を落としてきたヒルデちゃんを見た王妃様の反応で、あ、これ慎重にとか無理だわと察した。


「まあ! まあまあまあっ! ヒルデ、なんて愛らしいの!」


 王妃様が顔の白くなったヒルデちゃんに駆け寄って、目をランランと輝かせている。そして、顔を真っ赤にしてヒルデちゃんを凝視するハルトムート王子。これは惚れ直したな?


 確かにヒルデちゃんは可愛らしかった。大きな青い目が白い肌に映え、恥ずかしいのか頬がピンク色に染まっているのが、また白い肌を引き立てている。そして、夏の海のような濃い青色に変化した髪から、ピョッコリ飛び出た空色の猫耳。黄色いワンピースのウエストには、猫耳と同じ空色の尻尾がクルンと巻きついている。


 オレはそんなヒルデちゃんを、ジェイドと見比べてみた。うん、色彩が全然違うから、そっくり具合がランクダウンしている。激似! から似てる? くらいになっている、狙い通りだ。


「ああ、本当に、なんて可愛らしいのかしら。これならハルトの婚約者候補に据え置いても、反対意見を抑え込めますわ。良かったわね、ハルト。……ハルト?」


「はっ、はいっ!」


「どうしたのです? 嬉しくないの?」


「まさかっ! う、嬉しく思います、とても! とても嬉しいのです、ですが、その、余りに変わったので……」


「不満なの?」


「いいえ! 不満なんて全く! むしろ綺麗になり過ぎて余計な虫が寄って来ないか不安になるほどですっ!」


 おお、ヒルデちゃんまでピンク色だった頬が真っ赤だぞ。王子、こういうのは手加減はいらない、もっと言ってやれ!


 しかし、王子はそれ以上は続けられなかった。まあね、母親の前で好きな子を褒め倒すとか、なかなか大変だからね。

 その代わり、王子はヒルデちゃんに歩み寄り、隣に立って手を繋ぎ、ヒルデちゃんのお父様を仰ぎ見た。おおっ、言うのか? その決意を込めた凛々しい表情、あの言葉を言うんだな?


「御義父上、わたしはまだ若輩者ですが、ヒルデを、その、大変好ましく思っており……」


 王子はそこから長々と、将来設計を述べ始めた。平和な国にしたいとか、農業改革したいとか。要はヒルデちゃんに苦労をかけないからって言いたいんだろうけど、前置きが長いよ! 早よ! あのセリフを早よ!

 オレ達が固唾を飲んで、王妃様が苦笑しながら見守る中、ヒルデちゃんのお父様も痺れを切らしたんだろうね。政治家のマニフェストみたいな王子の長口上を、若干不機嫌そうにぶった斬った。


「要するに、其方は何を言いたいのだ?」


 腕組みして眉間にシワを寄せ、王子を上からギロリと睨むヒルデちゃんのお父様。元大公は伊達じゃない、圧巻のド迫力。頑張れハル、ここが正念場だぞ! オレは離れた場所から心の中でエールを送る。フレー、フレー、ハルトムート! 

 でも、ヒルデちゃんのお父様の気持ちも分かるオレ。オレはジェイドに正面きって、あのセリフを言われた訳じゃないけどね。王子を睨んでいるように見えるのは、目に力を入れてないと涙が出そうだからだよね。耐えて!


 王子はスーハーと深呼吸して息を整える。そして、真っ直ぐにヒルデちゃんのお父様と目を合わせて、言った。


「ヒルデとわたしとの結婚の、許可をください!」


 おお? 「娘さんをください」じゃないんだな。


 ヒルデちゃんのお父様は、暫し王子と睨み合っていたが、ふと目を逸らしてヒルデちゃんに問い掛けた。


「ルディ。我々は平民になった。王子との結婚は苦難の道になるだろう。侮られ、陰口をたたかれ、傷付けられるかもしれぬ。それでも望むか?」


「はい、お父様」


「……分かった、許可しよう」


「あ、ありがとうございます!」


 結婚のお許しが出て、ホッと安堵の息をつき、ヒルデちゃんと笑い合う王子。その油断しきった王子の頭を鷲掴みにし、ヒルデちゃんのお父様が地を這うような低音を轟かせる。


「ただし! どんな理由があろうとルディを泣かせるような真似をしたら、即刻その首貰い受けるぞ。心しておけ」


「肝に銘じます……」


 こうしてヒルデちゃんのお父様から結婚の許可を得て、その足で国王様に直談判しに行った王子によれば。

 国王様、漂白されたヒルデちゃんを見て考えを改めたらしい。これ程美しいなら未来の王妃に相応しいと、ヒルデちゃんを婚約者候補から婚約者に格上げしたそうだ。美は力っていうけど、貴族社会では美白は力なんだな。

 そして、これは蛇足だが、国王様はヒルデちゃんを勝手に有力貴族の養女にしようとして、王妃様を激怒させたとか。何やってんだか……。


 

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