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金欠気味なんです

「まったくユウ君は、如何してこんな物を作りますかね」


 色紙を折って花を作っていると、アステールさんの呆れ声が降ってきた。だけど、小言を言われる理由に心当たりがない。オレが首を傾げると、ハアアアアァー、と深くて長ーい溜息をつくアステールさん。やらかした覚えは無いんだが?


「これですよ、これ」


 アステールさんが指差したのは、出来上がった花の1つ。ガーベラっぽい花だけど、特に変わった点は無い。


「分かっていませんね……ユウ君、青は高価だと知っていますよね?」


「はい、青い布は高いですよね。でも、これ紙ですよ?」


 再びの溜息と共に、頬を引っ張り伸ばされる。気に入ってます? ヘラリと笑うと、アステールさんの目が鋭くなった。


「青い紙も高いに決まっているでしょう! 染料も顔料も青は貴重なのです、少し考えれば分かるでしょう?」


「え、でもヒルデちゃん達の髪を青にするの、賛成してくれたじゃないですか」


 ヒルデちゃんと元大公様、元々の髪色は茶色だったけど、今はオレの錬成した魔法薬の効果で青髪になっている。別人になるなら髪色も変えて、「本来は青い髪を公子の影武者するために茶色に染めてたヒルデちゃん」ってことにするためだ。

 青を選んだのは、父娘揃って目が青いから似合いそうという単純な理由と、この世界では青髪がありふれているから。あとはジェイドとの差別化を図るというか、違いを明確にするため。ジェイドも茶髪だから、全く違う色にしたかったのだ。ジェイドとヒルデちゃんの印象を変えて、顔が激似なのを誤魔化すために。


 そこら辺も含めて、アステールさんとヘリオスさんに、父娘を青い髪にしたいって話したはずだけど。あっさりOK貰えたから、青い髪染めはありなんだと思って。だったら染め紙に転用出来るんじゃないかなと思って。水色の糸や布があるのだ、繊維に青色を定着させるのが難しいだけかなって、思って。

 買ってきた生成り色の紙を、自分で染めてみたのだ。『ごっこ遊び』で錬成した魔法薬で。


「ユウ君、逆です。私達が青い髪に賛成したのは、髪を染めるのに高価な青を使うなんて愚かな事、する人が居ないからです。青い髪染めなど存在しませんから、青い髪を見たら、それは地毛だと判断されます。ヒルデ嬢のお父様が、大公様とは別人だと見做される材料になればと賛成したのです」


「オレの青いウイッグも地毛だと思われてました?」


「ええ。寝起きにズレて、黒髪が見えるまでは」


 そうか。その後は、ウイッグなんぞに高価な青い染料を使う愚か者って、いや、金持ちの道楽だと思われてたんだろうな。オレのこと、良いとこのお坊ちゃんだって言ってたし。だけど実際のオレは、お坊ちゃんどころか……。


「そうですか。でも、オレ今金欠気味なんです。色紙を買うよりも、自分で染めたほうが材料費が安いので。青い花は少なめにします」


 だから、既に完成している花は売っても良いですよね? オレが期待を込めて見上げると、アステールさんは、やれやれとでも言いたげな顔になる。


「仕方ありませんね。青い花は、王妃様にのみ売っても良しとしましょう」


「はーい」


 よし、これが売れれば少しは貯金が出来るぞ! オレ今本当にお金が無いんだよね。お城で販売する髪飾りの材料を、まとめ買いしたのが原因だ。この世界の紙って、まだ手漉きだというのもあって、そこそこお値段がするのだ。厚みが均一でなく漂白もされていないような紙なら、庶民にも手が届く価格だけど。折り紙するには不向きだから、オレが買ったのは値段が張る高級紙。それを100枚以上買ったから、財布がとても軽いのだ。

 

 更に、髪飾りを作るには、花の部分のコーティング剤と、土台になるヘアピンやバレッタが必要になる。お金、足りるかな……リヒトさんからの発注以外で、東レヌス商会に石鹸を買い取ってもらえないかなと金策を巡らせていると。


「ああ、ユウ。ついでに石鹸についても怒られとけ」


 ヘリオスさんが何か言ってる。石鹸、まだリヒトさんにしか売ってませんけど?


「それもありましたね……。ユウ君、あの石鹸も表に出しては駄目ですからね?」


「ええと、何のことでしょ」


「ヒルデ嬢達に使わせている石鹸です」


「ああ、美白石鹸ですか? 色白になるだけですよ?」


 アステールさん、ヘリオスさんまで溜息つかないで。幸せが逃げますよ?


「いいですか、ユウ君。王侯貴族というのはですね、肌が白ければ白いほど美しいとされているのです」


「そうだぞ、ユウ。あんな危険物作るなよ」


「別に危険は無いですよ、肌がかぶれたりは」


「そういう意味じゃない! あんな、数日で色白になれる石鹸なんてな、貴族の、特に女性に狙われるんだよ!」


「先日もユウ君の石鹸の危険性についてはお話ししたばかりなのに、全く理解していませんね」


 2人して詰め寄ってくるけど、あれは、ヒルデちゃん達を別人にしよう作戦の一環で作っただけなので。売るつもりは無い、というか、たったの数日で色白というより、肌が漂白される石鹸なんてさ。肌に悪そうで売れないと思うんだよ。


「売れますよ、確実に」


「売れるな、かなりの高値で」


 保護者様達に懇々と美白石鹸の影響と危険性をレクチャーされ、せっかく白くなったヒルデちゃん達の肌は、当分の間隠されることになった。肌色の顔料を塗っといて、徐々に目立たないように白くしていくんだってさ。そのために必要なものは、アステールさんとヘリオスさんが用意してくれるそうだ。


「「ユウ君に任せておくと危ないですからね」」


 揃って言われたけど、オレ、そんなに信用無いかな?






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