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確かにウチの上に居るな

 お城でのアクセサリーショップ開店の打診なんて、とてもじゃないけどオレには荷が重い。だけど依頼主の王妃様にはお世話になっているし、何よりこの国で1番の権力者だ。名目上は国王様がトップだけど、実質的には王妃様が上だよね。そんな人にお願いされたら断るなんて選択肢は存在しない。

 だけど、お城に勤めている人って、半分くらいはお貴族様なんだよ。すぐそこで書類を捲っている秘書官さん達も、真剣に髪飾りを検分している侍女さんも、たぶん貴族。直接の売買は、ちょっとごめんなさいしたい。間にワンクッション、出来れば東レヌス商会を挟みたい。

 王妃様に、そうお願いしようとした時だった。


「失礼致します!」


 駆け込んできた騎士さんに、王妃様はまたですか、とうんざりした顔を向けた。だけど、この騎士さんが続けた、


「石竜の聖女様の従魔が、人を攫ってきました!」


 との報告に、瞬時に表情を引き締めた王妃様。ソファから立ち上がり、厳しい声で問い質した。


「攫われてきた方の状態は?」


「呼び掛けても反応が無く、生死不明です」


「確認が取れないのですか? 場所は?」


「それが……」


 騎士さんがチラッとオレ達に目をくれる。何か?


「お客様方のお住まいの上なのです」


 ええと、それは、オレ達の家の上空に、岩長さんの従魔が滞空してるってことかな?

 とにかく行ってみようということで、オレ達は我が家に走った。到着して最初に目に入ったのは、頭上を見上げるアステールさん。そして、アステールさんの視線の先には、甲板から10メートルくらいの中空に、うつ伏せの男性が浮いていた。


「あー、確かにウチの上に居るな」


 攫われてきた男性、我が家が『関係者以外立入禁止』なせいで、落下途中で引っ掛かっているのだ。アステールさんが風魔法で下ろそうとしているのだが、上手くいっていない。


「アズ、セイちゃんとジェイドを家の中へ。ユウ、一時的にあの男を『関係者』にして、落とそう。俺が受け止める」


 抱っこしていたセイナをアステールさんに託し、ヘリオスさんが甲板に立つ。男性の落下予測地点を見定めて、両手を前に、受け止める体勢をとった。


「よし、良いぞ!」


 ヘリオスさんの合図で、オレは宙に浮かぶ男性を『関係者』に指定した。落下してきた男性をヘリオスさんが難なく受け止めたころ、ようやく王妃様達が追いついてきた。男性はヘリオスさんから騎士さんに受け渡され、医務室へと運ばれる。全員がホッと息をつき。

 中庭で寝そべる従魔と、その隣でのほほんとした岩長さんに、非難の目を向けた。


「皆何で睨んでくるかなー。大公様、死んだほうが良かった?」


「えっ、あの人大公様なんですか?」


 オレが思わず声を上げると、岩長さんはクルンとこちらを向いて、にっこり。でも目が笑っていない。まずい、機嫌を損ねたか?

 岩長さんはニコニコしながら、平坦な声で言う。


「そうだよー。大事な人だから探してたんだと思って、殺されそうだったから連れて来たんだけど。余計なお世話だった?」


 フルフル首を横に振ってはみたものの、外交とか関わってくると、国の重要人物を勝手に連れて来て良いものかオレには判断出来ない。オレ個人としては、ヒルデリッヒ公子のお父さんだから、助けてもらってありがとうの気持ちだけど。素直に感謝を表明して良いんでしょうか、王妃様?

 オレが困っていると、王妃様が岩長さんの前に進み出てくれた。


「感謝致します、石竜の聖女様。詳しい話をお聞かせ頂けますか?」


「良いですよー。あ、お茶請けはユウ君の和菓子が良いなー!」


 ご指名を受けたので、オレまで応接室に同行することになってしまった。ヘリオスさん逃げないで、美味しいの出すから。


 応接室でお皿だけお借りして、秘蔵の大福を盛り付ける。米粉の求肥で作った、フルーツクリーム大福だ。和菓子の括りで良いのか判断に迷うけど、岩長さんは米さえ使われていれば良いんじゃないだろうか。塩味と醤油擬き味の揚げせんべいも出して、大盤振る舞いだ。岩長さんの機嫌を取っとかないとね、ロックドラゴンアタック回避のために。


「やっぱりユウ君、分かってるね! 甘いのと、(しょ)っぱいので完璧!」


 機嫌を直した岩長さんが、大福と揚げせんべいを交互に食べながら話したところによると。


 大公様、革命軍から要求された「お金か領地か」のどちらも渡せず、業を煮やした一部の革命家達から、暴行を受けていたらしい。それがエスカレートして、塔の上からバンジージャンプの真似事をさせられそうになっていたので、従魔に掻っ攫わせてきたそうだ。


「うちのジュリは見えにくいから、革命家気取りのお馬鹿さん達には大公様が消えたように見えたと思うよ? だから大丈夫なはず!」


 岩長さんの従魔はフライングミラージュリザードという魔物で、周囲に魔力を放出して蜃気楼のごとくユラユラと周囲に溶け込み、姿を見えにくくするらしい。岩長さん、そんなのよく捕まえたな。そして相変わらず安直なネーミングだな。ジュリちゃん……女の子?


 オレがどうでもいい事をつらつらと考えているうちに、王妃様と岩長さんの会話は進む。


「改めて、感謝申し上げますわ。何かお礼を致しませんと」


「あ、だったらもっと梅の実が欲しいです! あと、ユウ君の和菓子も!」


「ユウ、お願い出来ますか?」


「はい……」


 こうして大量の梅の実と和菓子をせしめた岩長さん。取引で得た米と共に、アイテムボックスにポイポイ突っ込んで、大喜びで帰って行った。その帰り際にも一言。


「ユウ君、そろそろ来月のおにぎり定期便もお願いねー!」


 最後までブレないよね。

 とにかく、岩長さんが無事帰国して、オレだけでなく王妃様達までもがホッとしたのだった。

 


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