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聖なる御方

 服の袖を引かれて振り向くと、ジェイドがプルプル震えながらオレを見上げていた。


「あの、ごめんなさい! ボクが、その、失敗してしまって……」


 ジェイドの視線はベッドの上、今まさにオレが覆い隠そうとしていた世界地図へと向けられている。あれ、セイナの仕業かと思ったけど冤罪だった? でもセイナの服の一部もびっしょり濡れてるんだけどな。

 オレがベッドとジェイドとセイナを順繰りに見遣ると、みるみるセイナの元気が無くなった。俯いたセイナが、小声で呟く。


「違うの。セイがしちゃったの。おトイレ怖くて……」


 正直に自分の非を認めるセイナ。叱られると思っているのか、しょんぼりしている。それを見たジェイドが一歩進み出た。


「ボクが悪いんです。ちゃんとお部屋の安全確認しなかったから」


「ジェイドは悪くないもん。セイが悪いんだもん」


 モジモジしながら、お互いに庇い合う二人。なんと微笑ましいことか。オレは二人を両手で抱き締めた。はあ、可愛い。可愛いうえに良い子! オネショくらい仕方ないさ!


「二人とも悪くないよ。大丈夫、宿の人には謝って、多めに宿代払うから。気にしなくて良いからね」


 オレがニコニコ笑顔で伝えると、ジェイドがシュバッと右手を挙げた。


「ボクがお洗濯します! ボク、水魔法が使えるからお洗濯得意なんです」


「そうなの?」


 猫って水が苦手なイメージだったから意外だ。けど、昨夜のスライム退治の時に、何処からか水を出してたっけ。あれ水魔法だったんだな。


「凄いなジェイド。でも、マットは大きいし大変じゃない?」


「平気です。丸洗いした後で、マットから水分を抜けば時間も掛かりませんし」


「え、乾燥も出来るの? ますます凄いじゃん」


 そんな話をしていると。

 セイナがオレの服を引っ張って、自分に意識を向けさせた。そして宣言。


「セイだってお洗濯できるもん! おふとんもお服も『きれいきれーい』するもん!」


 ビッカ───────ッ!!


 光が満ちた。セイナの浄化魔法が炸裂し、視界全てが白く染まる。ちょっと言い訳出来ない程の光量だ。眩しい。部屋の中で、窓の鎧戸も閉まっていて助かった。


 やがて光が収まると、セイナが両手を腰に胸を張り、ドヤ顔で立っていた。


「見て! セイもお洗濯上手だよ! すごい?」


 ベッドは新品どころか素材は何だってくらい、光輝いていた。いっそ神々しい。


「ねえ、お兄ちゃん、セイすごい?」


「うん、ちょっと、凄過ぎかな……」


「えらい?」


「うん、偉い偉い」


 ムフーッと鼻を膨らませて自慢げなセイナを撫でていると、呆然としていたジェイドがドサリと膝をついた。そのまま床に伏せるジェイド。ん、眩し過ぎて目がやられた感じ? 猫って夜目が利くぶん眩しいのが苦手なんだっけ?


「ええと、ジェイド、大丈夫?」


 声を掛けると、ジェイドは恐る恐るといった様子で顔を上げた。


「あの、もしかしてとは思っていたんですが……。お二人は聖なる御方なのですか?」


「……はい?」


「やっぱり! だからボクみたいな獣人にも親切にしてくださるんですね!」


「ちょっと待った! 違うから! ごく普通の一般人だから!」


 拝むの止めて!

 確かにセイナには聖女様疑惑があるには有るけども。オレ達はただの巻き込まれモブとして、社会に埋没したいんだよ。なのに如何して聖なる御方なんて発想が出てくるの。しかもセイナだけじゃなくオレも含まれてるのは何故なんだ?


「なんでそんな誤解が生まれたかな」


「誤解、ですか? あんなに光ったのに」


「そこ? 気になるの。光るくらい珍しくもないよね? 灯りの魔法とかあるよね?」


「ありますけれど。光魔法を使えるのは聖者様や聖女様だけですよね」


 そうなの?


 これはまずい。

 セイナの魔法はとにかく光る。セイナのやる気によって光量は増減するみたいだが、これまで使った魔法で光らなかったことは一度も無い。そして『浄化』『結界』『治癒』『身体強化』と、効果だけみても「聖女だよね……」ってなラインナップだ。誤魔化しようがない。

 そしておれの『ごっこ遊び』。効果だけなら光魔法っぽくないのに、なんで光るのさ。スキルだから魔法とは違うんだって説明で、納得してもらえる? え、駄目? 光ればなんでも光魔法なの?


 ジェイドの中では既に、オレもセイナも『聖なる御方』で確定しているようだ。見上げてくる目の輝きが、奇跡を目の当たりにしたそれ。拾われた恩からの重めの感謝が、忠誠心通り越して信仰心にスライドしちゃったかー。


「えーと……聖なるなんちゃらについては置いといて。セイちゃんとオレの魔法については内緒にしてくれるかな」


 説得は無理そうなので諦めて、口止めだけすることにしたオレ。セイナにも、くれぐれも人前で魔法を使わないように念を押す。二人とも頷いてはくれたけど。


 セイナには、まだ確認できていない魔法がありそうだし、オレのスキルもわからない部分が多い。その気がなくても、うっかり魔法やスキルを発動しないように気を付けなくては。道端で拝まれたり平伏されたりして喜ぶような鋼の心臓なんて、オレは持ち合わせていないからね。

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