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大人気ないな

 ハルトムート王子とヒルデリッヒ公子の婚約は、整わなかった。そりゃそうだ。いずれ一国を担う王子と公子の結婚が、一朝一夕で決まるはずがない。特に公子は現在、保護者が生死不明だからね。いくら本人が了承しても、子どもに決定権は無いのである。

 ただし、2人の希望は受け止められ、公子の父親が見つかり次第、婚約の打診をすると約束された。王子と公子が家出してまで願ったから、温情措置だ。家出先はオレ達の家。


「駆け落ちしてきた!」


 って今朝王子達が家に来た時は、笑ってしまったよ。直ぐに国王様と王妃様が追いかけて来て、ひと騒動あったけど、婚約者候補ということで落ち着いた。その代わり、我儘を通した王子には課題が出された。岩長さんに、ヒルデリッヒ公子をサフィリアへ連れて行ってもらう交渉は、王子が担当することになったのだ。


「石竜の聖女の弱点を教えてくれ!」


 王子に頭を下げられたけど、オレも岩長さんのことはあまり知らない。


「弱点と言われてもな。お米スキーだから、米が特効なくらい。あと、トカゲも好きだって言ってた気がするけど」


「トカゲ……珍しいトカゲを捕まえれば良いのか?」


「そこまでは知らないよ。ハルが自分で考えろ」


「薄情者!」


 そんな事言われても。昨夜はオレを巻き込む必要は無いって啖呵を切ってたくせに。


「だいたいな、ハルに出された課題なんだから、ハルが解決しなきゃ認めてもらえないだろ」


「くっ、わたしは、まだ子どもなのだぞ!」


「体は子ども、頭脳はってやつじゃん。ハルにはチート知識があるだろが、ここで使わなくてどーすんだよ。ほらほら考えろ、時間が無いぞ」


 岩長さん、今日には到着するって言ってたからね。昨日の今日で? と王妃様達も半信半疑だったけど、岩長さんは米のためならやる。こちらの準備とか根回しとかが全部済んでから連絡して正解だった。あとは待つだけの状態だからね、王子以外は。


 王子はオレに頼れないと理解して、公子の手を引いて帰って行った。家出は終了らしい。バタンと玄関扉が閉まると、我関せずと書き物をしていたアステールさんが、ペンを置いて顔を上げる。


「ユウ君には珍しく、子ども相手に厳しいですね」


「ハルは純粋な子どもじゃないんで」


 前世日本人の記憶があるのだ、実年齢より知識も思考力も判断力も持っているはず。好きな子のためにフル活用するがいい!


「なるほどな。横から嫁を掻っ攫われたから、仕返しか。大人気ないな、ユウ」


「ヘリオスさんは金輪際ソフトクリームを食べなくて良い、と」


「申し訳ございませんでした!」


 ヘリオスさんの敬語、珍しい。そんなに甘味が大切ですか。

 セイナがソフトクリームと聞いて駆け付けてきたので、久し振りに錬成。最近めっきり寒くなったから、ソフトクリーム食べてなかったんだよね。家の中は暖かくしてるけど、やっぱり冬は肉まんとかチョコレートが食べたくなる。コタツでアイスも捨て難いけど、コタツは今のところ無いからね。


 皆でソフトクリームを食べながら、話の続き。


「岩長さんへの対策、王妃様には伝えてるんですよ。ハルが泣きついたらヒントだけは教えてもらえます」


 今回交渉のテーブルに乗せるのは、米そのものだけにするそうだ。技術や成長促進剤は秘密にしておいて、次に繋げるらしい。情報は小出しにするものだよね。

 そして、オレは取引する米の順番について、助言とお願いをしておいた。まずは虎柄米やラグビーボール大米などの、植物学者達のやらかした米を提示する。その後で、うっすらとオレンジ色だったり粒が2、3倍の大きさだったりの、比較的受け入れやすい異世界米を出す。コ○ヒカリなどの銘柄米は、尋ねられたら情報だけ渡す。


 実は、普通の大きさの白い米は、ほとんど収穫出来てないんだよね。魔法薬をガンガン使って成長速度を速めると、銘柄米の種籾でも収穫時には異世界米になるから、銘柄米は普通に育てるしかないのだ。

 ただし、もち米だけは、オレが銘柄を知らなくて「もち米」として種籾を錬成したからか、多少魔法薬を使って育てても、普通に育った。この、もち米の売買を王子に任せてやってほしいと、王妃様にはお願いしている。王子には内緒だけどね。うるち米ともち米は別枠だって、王子、気づくかな。


「米は米だろ、別々で交渉出来るのか?」


「うるち米ともち米は全くの別物です」


「うーん、わからん」


 だろうね。でも、日本人は米に拘りがあるんだよ。米なら何でも良いと言いながら、「魚沼産コシヒ○リ」とか書いてあったら、そっちを選んじゃう民族なんだよ。「ウチの米は○○」って決まってたりするんだよ。


「ま、もち米で交渉しなくても、他の交渉材料を自力で用意するかもしれないし。ハルならどうにかするでしょ」


 こうして午前は過ぎてゆき、昼食を挟んで午後。


 オレは城門の上にいた。まだ来ないよなと思いながら、一方で、もう来るかもって可能性を捨て切れなくて。毛布に包まり寒風に晒されながら、城下町から城へと続く通りを見張っていると。

 突然日射しが遮られ、ふり仰ぐと、突風に煽られて城門から落ちそうになった。咄嗟に床に這いつくばって事なきを得る。岩長さんか? 岩長さんだな?


「ユウ君、久しぶりー! おにぎり定期便ありがとー! わたしのお米は何処ー?」


 岩長さん、相変わらずだな。頭上から急降下してきた生き物の背で、岩長さんが手を振っていた。


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