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出てこいや!

「良かったな、ユウ。これまでカップルに挟まれて居心地が悪かっただろうが、これからはユウもイチャイチャ出来るぞ?」


 ヘリオスさんがニマニマと、人の悪い笑みを浮かべている。くそう、面白がってるな。アステールさんも、急いだからか仮面がきちんと被れていない、笑い声が漏れてますよ!

 オレは2人をジロリと睨み、ヒルデリッヒ公子に聞こえないよう口の中で囁いた。


「オレがこの子とイチャイチャしたら、ソフトクリーム作れなくなりますからね」


 ヘリオスさんから笑顔が消える。聞こえましたね、分かったら揶揄うのは止めて、助け舟を出してくださいよ。


 オレが椅子から立ち上がると、公子は小さな体をビクッと強張らせ、それでもオレを真っ直ぐに見上げてきた。この子、夜這いの意味分かって使ってるのかな。理解出来ているのだとしたら、碌でもない決意を固めてここに来たってことだ。そこまでして国に帰りたいのかな。

 だけど、何よりもまず、オレが今1番言いたいのは。


「子どもに夜這いなんて言葉教えた奴、出てこいや!」


「よっ、夜這いだと!?」


 あらら、ハルトムート王子が出てきたよ。玄関から飛び込んできた王子、公子に飛びつきオレから引き離してから、真正面から怒鳴りつけた。


「愚か者! よく考えて行動しろと言ったであろう!」


 公子も負けずに怒鳴り返す。


「よく考えた! 考えて、ここに来たのだ! ハルトだって、政略結婚も1つの手だと言ったじゃないか!」


「相手が違う! ()()()()ヒルデが政略結婚するのも手だと言ったのだ!」


 おやおやー? 話が面白いほうに転がり出したぞ?

 オレは再び椅子に腰掛けて、成り行きを見守ることにした。どうも本気の喧嘩というよりも、「犬も喰わない」やつのようだし。いつの間にかお互いに愛称呼びしてるし、短期間で急激に仲良くなったよね。


「わたし達が結婚するならば、米の取引と絡めて帰国の交渉が出来るのだ。ユウを巻き込む必要は無かろうが!」


「でも、ユウは取引相手と知り合いだから、ユウのほうが良いんじゃないかと」


 公子がオレを見るので、王子もオレに視線を寄越した。その際にヘリオスさんとアステールさんまで居るのを思い出したようで、王子は「あ」と小さく声を上げ、みるみる顔を赤くしてゆく。


「どうぞ、続けて。オレ達は居ないものと思って、さあ!」


 オレは、ニヤけそうになる口元を手のひらで隠して促した。ついでに、三角関係になるのを防ぐため、予防線を張っておく。


「あと、ヒルデリッヒ公子。オレは年下には興味が無いので、オレとの政略結婚は交渉材料になりませんよ」


「ユウは熟女好きなのか?」


 公子の教育環境、如何なってんだろうね。


「違います。オレは元々、あまり恋愛に興味がなくて」


「そうか、ユウは不能なんだな!」


 公子の教育係に説教したい。もっと他に教えなきゃいけない事があるだろ!

 

「ハル、ヒルデリッヒ公子と結婚すると苦労しそうだぞ。この子で良いのか?」


「……ヒルデを見ていると、少し前までのわたし自身を見ているようでな」


「あー、セイちゃんにいきなり妃になれって言ったり?」


「その節は誠に申し訳なかった。出来れば忘れてもらえないだろうか」


 王子をガン見する公子から、気まずそうに顔を逸らす王子。修羅場? でも隠してて後々他から聞くよりは、今話しといたほうが良くない? 出会う前のことだし、今なら公子もオレにやらかしたばかりだから、お互い様ってことに出来るよね。


 オレは、少し離れて高みの見物中のアステールさんに手を差し出し、「バラを」と呟いた。ヘリオスさんがアステールさんの耳元に口を寄せ、オレの呟きを伝言してくれたのだろう。アステールさんが、オレが先程折った生成り色のバラを持って来てくれる。

 本物のバラじゃないし、色も微妙だけど。バラなんて、この時期には咲いていないだろうし、何も無いよりは格好がつくと思うので。


 受け取った紙製のバラを、オレから王子の手に渡す。王子には女性だった前世の記憶があるから、女の子が喜びそうなこと、知ってるよね?

 王子は黙ってバラを受け取ると、公子の前に跪き、両手に乗せたバラを掲げた。


「その……其方は生意気で口が悪くて考え無しだが」


「ハルト、今回は代理人は認めない」


「いや違う、決闘を申し込んでいるのではない! 最後まで聞くのだ!」


 ムッとした顔を隠しもしない公子が、腕組みして王子を見下ろす。王子、後がないぞ。言葉のチョイスを間違えるなよ。


「……其方は強い。だが、何事も1人では成せぬ。此度のことで其方も痛感し、伴侶を得ようと決意したのだろうが……その…………」


 ハル、堅いって。もっとズバッとストレートに!

 口出ししたくなるのを我慢して、心の中で助言するオレ。


「……わたしなら、年齢も身分も釣り合うし、政略結婚の相手として相応しい。それに、其方は、か、可愛い、と、思う。思うので……ユウよりも、わた、わたしを、結婚相手に選んで貰いたい! わたしを選んでくれるなら、これを!」


 バラを捧げる手を高く、頭を下げる王子。よし、途中怪しかったけど言い切った! 頑張ったな、ハル! ヒルデリッヒ公子、ハルの将来性を買ってやってくれ、頼む!

 オレの祈りが通じたか、公子はバラに手を伸ばし、そっと丁寧に受け取った。やった!


「良かったな、ハル! ええと、後は若いお二人で?」


「ユウは何故仲人の立ち位置なのだ」


 立ち上がり、軽く曲げた腕を公子に差し出す王子。戸惑いながらも、王子の腕に手を添える公子。おお、エスコートだ。高貴なご身分ならではだね。

 

「邪魔をした。今夜のことは、他言無用で頼む」


 公子が夜這いに来たなんて、誰にも言わないって。子どもが大人に言う「大きくなったら結婚して」は、大抵の子どもにとっては黒歴史になるからね。掘り返したらダメなやつだ。


 王子と頷き合い、王子と公子を玄関から見送る。護衛に守られながら、2人仲良く遠ざかる影を見送ってから、オレは囁く。


「ステータス、オープン」


 ……ええと、『子ども好き』レベルは……現状維持、良しっ、セーフ!


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