バラの花がよく似合う
夜、セイナとジェイドを寝かしつけた後。
オレは王妃様のための贈り物を作っていた。白木の箱にコットンを敷き詰め、ハーバリウム石鹸を並べる。うん、全体的に白い。色が欲しいな、出来れば暖色系が。
日本から持って来た折り紙は残り少なく、赤っぽい色はもう無くなっていた。おにぎりを作るのに使ってしまったのだ。梅干しとか焼き鮭とか辛子明太子とか苺とか、赤色の具材は多いので。
オレはゴソゴソとアイテムボックスを探して、奥のほうから桃色の紙を見つけ出した。なんだっけ、これ。暫し考え、何でも良いかと気持ちを切り替える。長方形のその紙を正方形に切り、バラの花を折り始めた。
意外と覚えてるもんだな。出来上がった紙のバラの形を整え、白木の箱の隙間に押し込む。桃色の紙の切れ端から、また正方形を切り出し、更に正方形を……と、合計3つの桃色のバラを作り出せた。3つ目のバラはかなり小さくて、親指の先のサイズ。レイちゃんの花弁で、器用さが底上げされているのだろう、難なく作れたんだけど。
「もう1つ、は無理かな……アステールさーん、ちょっと見てもらえますー?」
ジェイドのスタンプ帳に何か書き込んでいたアステールさんが、ペンを片手に来てくれた。
「これ、王妃様へのプレゼントなんですけど。こことここ、どっちの隙間に飾りの花を入れたらいいと思います?」
こういうのって、美的センスが試されるよね。オレは自信がないので、センス良さそうなアステールさんにアドバイスを貰いたい。全修正してもらっても良いですよ、ヘコむけど。
アステールさんは、ひと目見て溜息をついた。
「え、そんなに酷いです?」
「酷いというか……ユウ君、この花は何ですか」
「ただの折り紙ですけど」
「オリガミ。私に作り方を教えてもらえますか」
1番小さいのは折り方が違うので、ひとまず大きな2つと同じ物を解説付きで折ってみた。世界的に有名な折り方を、バラの町にある高校でアレンジしたやつだ。ちなみに1番小さいのは、作り方を考案した人なら1分で作れる折り方のやつ。オレには1分じゃ無理だけどね。器用さにバフが掛かってる今ならイケるか?
花モチーフと動物モチーフの折り紙は、セイナにせがまれて、よく作ってた。折り鶴なら手元を見ないでも折れるよ。
「はい、これで完成です」
「……なるほど。さっぱり解りませんね」
「え、じゃあ、もう1回」
「いえ、もう結構です。私には再現出来そうにありませんので。それにしても、紙1枚でこんな立体的な花が作れるとは」
「あれ? 折り紙って普及してません? 紙風船とか紙飛行機とか」
「紙飛行物体ならヘリオスがよく作っていましたね。書き取りの途中で飽きて」
紙飛行物体って何? 紙飛行機の亜種かな。ヘリオスさんって机についてする勉強、苦手そうだもんね。飽きて用紙で遊び始めるちっちゃいヘリオス君、想像がつく。
アステールさんと笑っていると、ヘリオスさんがアステールさんの背後から、のしっと覆い被さった。
「何だよ、俺の悪口か?」
「いいえ、楽しい思い出話です。それよりヘリオス、これを見てください」
「ん。あー、うーん、まあ、この位なら良いんじゃないか? 聖者の力も使ってない紙細工だろ?」
「ヘリオス、だんだんユウ君に毒されてきていますね」
オレは汚染物質か何かかな、アステールさん。失礼ダゾ。
オレの手にあった生成り色のバラを、アステールさんの頭に乗せてみた。美形にバラの花がよく似合う、チクショウ、嫌がらせにならなかったよ。
ヘリオスさんからはOKが出たので、桃色のバラを入れたまま、オレは白木の箱に蓋をした。
「ユウ君、きっと騒ぎになりますよ」
「王妃様宛てだから平気でしょー。それともバラを石鹸にし」
「それは絶対に止めなさい」
真顔で食い気味に制止されたので、そのまま箱にリボンを掛けていると。
コンコンと、玄関扉をノックする音がした。誰だろう、といっても、扉の前まで入れる人物は限られている。もう夜だし、噂をすればの王妃様かな?
ヘリオスさんが扉を開けると、そこに居たのはヒルデリッヒ公子だった。部屋を抜け出してきたのか、護衛の騎士を連れていない。
公子は裾が地面につきそうな、水色の可愛らしいネグリジェを着て、白いモコモコのコートを羽織っていた。両手で大きな枕を抱えている。
「ヒルデリッヒ公子、お一人か?」
ヘリオスさんが尋ねると、コクンと頷く公子。そして、部屋の中を素早く見回して、オレに目を留めた。
「ユウ」
オレの名を呼びながら、公子がトトトと駆け寄ってくる。ネグリジェ姿だと、どう見ても女の子だ。それなのに、顔はジェイドとほぼ同じなのだから、脳がバグりそう。
「はい、オレに御用ですか?」
「昼間ユウに言われたこと、考えてみたんだ」
真剣な顔のヒルデリッヒ公子。岩長さんに、サフィリアまで送ってもらうための交渉のことだろうか。何か考えついたのかなとオレが聞く態勢に入ると、公子が深呼吸して話し始める。
「ユウの言った通り、今のワタシは何も持って無い。だから、交渉相手をユウに変えることにした」
「なるほど、オレに岩長さんを説得させたいんですね。だけど、オレだってタダでは動きませんよ」
「わかってる。だから……」
公子はオレの座る椅子の横に立ち、両手をバッと広げて胸を張り、挑むような顔でオレを見上げた。
「夜這いに来た! さあ、ワタシを交渉材料として差し出してやる、ありがたく受け取るがいい!」
エマージェンシー! エマージェンシー!
『子ども好き』レベルがマイナスに突入の危機! ヘリオスさん、アステールさんも、笑ってないで助けて!!