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おやつタイム

「ユウ、今日のおやつはクレープなのか? わたしが食べられないではないか」


 テーブルの皿に重ねたクレープ生地を見て、ハルトムート王子が眉根を寄せた。


「ちゃんと米粉で作ったから。とゆーか、毎日毎日おやつ食べに来るなよ」


「そう言いながら、ユウはわたしが来るの前提でおやつを用意しているではないか」


「ハルが駄々こねるからな」


 王子がンべッと舌を出して、オレの居る台所前を素通りし、奥の洗面所に向かう。その後ろをついて行くヒルデリッヒ公子。いらっしゃいませ、また一緒に来たんだな。

 相性が悪いと思われた王子と公子、いつの間にか仲良くなったようで、こうして連れ立ってウチに来るようになった。決まって午後のおやつの時間に来るので、毎回おやつを多めに作ることに。まあ、元々ヘリオスさんが沢山食べるから、お子様2人ぶん増えたところで、そう手間は変わらないんだけど。王子が小麦粉アレルギーだからね、気は遣う。


 ロイヤルな子ども達に続いて、ジェイドとヘリオスさんも帰って来た。ヘリオスさんは木剣を数本まとめて持っている。決闘があった翌日から、子ども達に剣術を教えているのだ。公子に頼まれて断れなかったヘリオスさん、何だかんだ子どもに甘い。そして、ジェイドと公子だけズルいと王子が加わって、昼食後からおやつまでが子ども剣術教室の時間になったのだった。


「ジェイド、手を洗ったらセイちゃんを起こして、アステールさんも呼んで来て。ハル、これ持って行って」


 手洗いして戻って来た王子に、切った果物を乗せた皿を渡す。


「ユウ、わたしは一応王子だ」


「王子殿下におかれましては、このような庶民の食べ物など召し上がって頂く訳には参りませ──」


「わかった! 持って行くからおやつ禁止は勘弁してくれ」

 

「よし、じゃあ頼む」


 毎日毎日押しかけて来る王子は、もうお客様じゃないからね。立ってる者は王子でも使うよ。不敬罪? 王妃様から王子の使用許可貰ってるから大丈夫。

 そして、お皿を運んでいく王子を見てソワソワし、そろりと両手を差し出してくる公子。オレがジャムの瓶を乗せてやると、パッと顔を輝かせて、両手で大事に持ってゆく。


 公子様、根は良い子みたいなんだよね。直情型でカッとなってやらかしても、きちんと反省して改善出来るようだ。公子としてのプライドからか高飛車な所はあるけど、威張り散らしたりはしないし、認めた相手に対しては素直に言うことを聞く。でないと厨房で下働きなんて、してなかったよね。


 さて、全員揃ったのでおやつタイムだ。クレープは各自で好きな物を巻いてもらうセルフ方式。ジャムとチョコクリーム、果物といった甘い具材以外にも、ベーコンやゆでたまご、チリソース等が並んでいる。アステールさん用だ。


「そうだ、ハル。お米の取引相手に連絡ついたって、王妃様に伝えといてくれる?」


「了解した。いつ頃到着の予定なのだ」


「それがさー、明日には来るって言ってたんだけど」


 王子と、その隣でチョコバナナクレープを作っていた公子が目を見張った。


「聖王国の東から来るのだろう? それ程速く移動出来るものなのか?」


「あー、あの人なら、手段問わなきゃ一刻掛からない」


 ロックドラゴンに乗って来ればね。でも、それは絶対に駄目だって何度も何度も言い聞かせ、ロックで来たら米は渡さないって言っといたから、他の移動手段で来るはずなんだけど。


 岩長さんへの連絡には、冒険者ギルドの通信魔道具を使わせてもらった。本来は緊急時の連絡用なんだけど、お金を払えば個人使用も可能なのだ。高いけど。1回の使用料金が小金貨2枚なので、個人が使うことなんて滅多にないらしい。それを今回、2回も使ってしまったよ。

 まずは昨日、ここの城下町の冒険者ギルドから、岩長さんが居る新たな独立国の冒険者ギルドに連絡し、岩長さんへの伝言を頼んだ。伝言内容は「明日の正午に独立国の冒険者ギルドに来てほしい、主食の件で話がある」との簡単なもの。伝言ゲームは内容が変わっていくからね。そして今日、もう一度城下町の冒険者ギルドから独立国の冒険者ギルドに繋いでもらい、スタンバイしていた岩長さんと話したのだ。直接話してキッチリ釘を刺さないとね、ロックドラゴンが襲来しちゃうからね。


「取引相手は飛行機、いや、飛行型の従魔でも持っているのか?」


「うん。良いよな、空飛べるの」


 リヒトさんの天馬を見た時に思ったけど、空を飛べれば便利だよね。ロックに乗るのは断固拒否だけど、ペガサスとか格好良いし。いや、馬型だとロキが拗ねるな。いっそ家を飛行形態に出来ないだろうか。


 オレが空飛ぶ家について考えていると、同じように考え込んでいた公子が口を開いた。


「ユウ。その、米を買いに来る人に、ワタシをサフィリアまで送ってもらえないだろうか」


「うーん、交渉次第ですね。でも岩長さんは損得で動くタイプだから、情に訴えても無理だと思います。金銭も持ってるから、かなりの金額じゃないと動かせないだろうし、社会的地位にも興味は無さそうです。ヒルデリッヒ公子、何か交渉の材料になりそうな物、提示出来ますか?」


 口を引き結んで俯く公子。だよね、何も持ってないよね。

 公子を亡命させるためについて来ていた神官は、既にサウスモアへと旅立った。あの神官、公子の親戚からもらうお金が目当てだったのだ。ヒルデリッヒ公子発見の報に城にすっ飛んで来て、公子を強引に連れて行こうとしたけれど、王妃様が公子を預かるから褒賞金を渡すと言えば、あっさりと引き下がった。更に、王妃様から公子の親戚への書状を託されると、喜び勇んで去って行ったのだ。

 そのため、現在公子は独りぼっち。身分以外に何も持っていない子どもに、岩長さんを動かすのは無理だろう。厳しいけれど、これが現実だ。


 公子はモソモソとクレープを食べながら、ずっと何事か考えていた。その横顔を、心配そうに見守る王子。フラグだよね。

 


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