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ぜんぜん似てないよ

 王妃様の許可は直ぐに下りた。国王様に相談する事すらなく即決されたから、本当に良いんですかと聞くと、米についての全権は王妃様が握っているのだそうだ。岩長さん個人との取引で取引額が少なくても、収入になるのは有り難いらしい。もしかして米作り事業、植物学者達が高価な魔法薬を湯水のように使って財政を圧迫してました?


「そうね、最初のうちは。ああ、貴方が謝ることはありませんわ、陛下が許可を出したのですから」


 身内に甘い国王様が、仲良しの領主様にお願いされてホイホイ使用許可を出したようだ。国王様、愚王ではなさそうだけど、絶対に賢王ではないよね。王妃様が裏で細々(こまごま)と手を回してそう。そんな王妃様が全権を握る米作り事業、安泰である。


「ヒルデリッヒ公子を探していた神官についても、わたくしが対処しますわ。ですから貴方達は、取引先との調整をお願いね」


「わかりました。王妃様、ありがとうございます」


「礼には及ばなくてよ。貴方達のおかげでハルトの病の原因がわかり、この子が元気に過ごせるようになったのですから。感謝してるのよ。これからも、頼りにしていますね」


 そんな、平民冒険者にはちょっと重いお言葉を頂いてしまった。オレは、ハイともイイエとも返せず、黙って頭を下げる。王妃様は笑って、ハルトムート王子と、まだ気を失っているヒルデリッヒ公子を連れて城に戻って行った。公子も引き受けてくれるんだ、こちらこそ感謝しかない。そっくりなジェイドと公子が一緒にいると、目立つからね。


「さて、王妃様から許可を貰ったので、岩長さんに連絡しようと思います」


 家に入ってジェイドを誉め倒してから、オレはヘリオスさんとアステールさんに宣言した。ヘリオスさん、そんなあからさまに嫌そうな顔しないで。オレだって、自分で言い出したこととはいえ気は進まないんだよ。


「なあ、本気であの女を呼ぶのか。災害が起きるだろ」


「あ、ロックドラゴンは連れて来るなって言っときます。爆走するトカゲにでも乗ってきてもらえば。あれ、馬より速かったですよね」


「ああ、いたな、そんなの」


 ロックドラゴンに乗って来られると、この国に迷惑が掛かるからね。そこは絶対に阻止しなきゃ。ロックは今、聖王国に対する盾として街道封鎖してるはずだから、そうそう動かせないだろうけど、岩長さんだからな。執拗いぐらい念を押そう。


「公子の説得はしなくて良いのですか?」


 アステールさんに言われて、そういや本人の了承取ってなかったなと思い出す。だけど、


「ジェイドに負けたんだから、文句は言わないでしょ。説明はしますけど」


 即時亡命の約束だったのに、情報と時間的猶予をあげるのだ。文句をつけるようなら、簀巻きにしてサウスモア行きの船に放り込む。

 ジェイドがおずおずと、セイナの腰に回していた手を挙げた。


「師匠、あの子の所に行く時は、ボクも一緒に連れてってください。謝らなきゃ」


「ジェイドが謝る事なんて、ある?」


「……女の子に、酷い事しました」


 ジェイドが萎れてる。さっき皆で誉め倒した時も、あまり嬉しそうじゃなかったけど、相手が女の子だから気にしてたのか。


「だけどジェイド、公子が怪我しないよう手加減してたよね?」


「はい、でも、もっと早くに、ダメージを与えず意識を刈ることも出来たんです」


 えっ、ジェイド、そんなアサシンみたいな事が出来るの?


「だけどボク、あの子に腹が立って。せっかく逃してもらったのに、危ないって分かってる場所に戻りたいとか我儘言って。そこに皆を巻き込もうとして。師匠も皆も優しいから、国境までって言いながら、結局父親の所まで連れてく羽目になるって思ったら、絶対そうならないようにコテンパンにしなきゃって、思って」


 ジェイドが膝の上のセイナをギュッと抱き締める。セイナもジェイドの肩に顎を乗せ、小さな手でジェイドの背中をよしよしと撫でている。


「だけど、1番腹が立つのは、あの子がボクと似てるから……ボクも、師匠とセイちゃんの優しさにつけ込んで、無理矢理ついて来たから……ボクも、あの子と同じだって思うと……」


「同じじゃないもん!」


 オレが口を開く前に、セイナが大声を出した。


「ジェイドとあの子は違うもん!」


「そうだよ、ジェイド。ジェイドと公子とじゃ、状況が全く違う。オレもセイちゃんも、ジェイドが一緒に来てくれて良かったと思ってるよ。な、セイちゃん」


「うん! セイね、ジェイドについて来て欲しかったの! だから、ムリヤリじゃないよ?」


 セイナは初めて見たときから、ジェイドに興味津々で、仲良くしたがってたもんな。ジェイドを聖王都から連れ出さなかったら、きっとオレ、セイナに恨まれてた。オレも思い出しては後悔してただろう。


「それにね、ジェイド、あの子とぜんぜん似てないよ! ジェイドの目のほうが、キラキラしてきれいだもん! お耳も、ジェイドのほうがフワフワでカワイイもん! ジェイドのほうが、いっぱいいーっぱい、カッコいいもん!」


 セイナに真っ直ぐに見詰められながら断言されて、ジェイドが涙目でプルプル震えている。そんな感極まっているジェイドに、セイナがダメ押しとばかりにやらかした。


 チュッ!


「セイちゃんっ!? 何やってんの、離れなさい!」

 

「良かったなジェイド、ジェイド?」


「ああ、目を開けたまま気絶していますね。気付け薬が必要でしょうか」


「ソッとしといてやれよ。今意識を取り戻しても、また木箱で1人反省会になるだけだ。それよりユウ、小腹が空いたから何か」


「今それどころじゃない! ヘリオスさんもアステールさんも、この緊急事態になんでそんなに呑気なんですか!」


 大人2人が顔を見合わせる。


「いや、いつものイチャイチャだろ」


「ええ、いつものイチャイチャですね」


 クッ、味方がいない! いつもはほっぺたにチューなんだよ、でもさっきのは唇! マウストゥーマウス! 


「セイちゃん、お口にチューはダメだからね!」


 気を失ってもセイナを離さないジェイド、実は意識があるんじゃないかと勘繰りながら、セイナをジェイドから引き剥がすのは諦める。だけど、これだけは言い聞かせなければ。


「なんでダメなの?」


「な、ん、で、も! とにかくダメ、お口にチューは大人になってから!」


「えー」


「えー、じゃありません! ほら見てセイちゃん、ジェイドが動かなくなっちゃっただろ? セイちゃんがチューしたら、ジェイドは動かなくなるの! だからダメ!」


 屁理屈だけど知ったことか、ひたすらダメだと繰り返して、セイナに「お口にチューはしません」とお約束させた。その後再起動したジェイドは、記憶が混濁しているようなので、夢だったのだと誤認させた。ヘリオスさん、アステールさんも、現実だとバラしたらご飯作りませんからね。そこ、ご飯が無くてもオヤツがあればとか言ってんじゃない。当然オヤツも作りませんからね!

 


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