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人型に戻ったらアウト

 朝日が昇ると共に、ジェイドの変身は解けて猫型から人型へと戻ったんだけど。


「ジェイド、起きろ。起きて服着て」


 猫になる時に着ていた服が脱げちゃったからね、当然ながらジェイドは素っ裸。それまでは「猫と幼女」という絵面だったから、ギリギリセーフ判定だったけど、人型に戻ったらアウト。いくら4歳と8歳で結婚しているとはいえ、全裸は駄目です、許可できません!

 ジェイドは明け方まで起きてセイナをペロペロしてたんだけど、さすがに徹夜は出来なくて眠ったばかりだ。だけど叩き起こす。セイナが起きないように、ジェイドの耳元で囁きながらペシペシ叩く。


「ジェイド、起きろって。セイちゃんに素っ裸見られて良いの? 見せたいの?」


 パチッとジェイドの両目が開いた。寝起きとは思えない俊敏な動きで起き上がり、全身を確認。みるみる真っ赤になってテントから逃走しようとし、境界に激突した。ジェイドが出られないようにしてて良かった、城内を裸で走り回ったら厳重注意じゃ済まないよ。


「ちょっ、慌てるな、その格好で外に出たらマズイって! ほら!」


 オレは畳んで枕元に置いておいたジェイドの服一式を、放り投げる。キャッチして高速で服を着たジェイド、今度はテントの最奥まで引っ込んで、両手で顔を覆ってしゃがみこんだ。


「ごめんなさい、ほんと、ごめんなさい……」


「あー、ジェイド、猫だった時の記憶があるの?」


 コクンとひとつ頷いて、更に赤くなるジェイド。声にならない悲鳴を上げている。思い出して羞恥に悶えているようだが、あれがジェイドの本能だからな、まったく! ここはセイナの兄として、キッチリ釘を刺しておかなければ!


「ジェイド、昨夜は不可抗力と言えなくもないけど、セイナが成人するまでは、清い結婚だからな!」


「清い結婚て」


「ヘリオスさんはちょっと黙っててもらえますかね」


 テント前でヘリオスさんとアステールさんが笑ってるけど、笑い事じゃない。セイナはまだお子様なのだ、成人するまであと……あれっ、こっちの成人年齢何歳だ? 前に調べようとして、結局よく判らなかったんだっけ。


「ええと……アステールさん、この世界の成人年齢って、何歳ですか?」


「特に決まっていません。というより決められないのです。種族によって寿命も成長スピードも違いますから」


 そうか、そうだよね。だから結婚にも年齢制限が無いのかな。


「だとしても、昨夜みたいなのはまだ早いから。ジェイド、オレが良いって言うまでは、清い結婚で! いいな!」


「はい……」


 後ろでヘリオスさんとアステールさんが、それだといつまで経っても許可が下りないとかジェイドが我慢し過ぎて後が大変とか好き勝手言ってたけど、ジェイドはオレと指切りまでして誓ってくれた。光らなかったので契約魔法は発動していないけど、誠意は伝わったので、引き続きセイナと一緒に眠るよう勧めてやった。ヘリオスさんが「生殺し……」とか呟いていた気がするけど気のせいだ。


 オレも徹夜で眠気がピークなので、ここで一緒に寝てしまおうとアイテムボックスから毛布を取り出した。だけど、テントに入って来たヘリオスさんとアステールさんが、寝転ぼうとしたオレを引っ張る。何ですか、さっきまで飲み食いしてたのに、朝ごはんも食べるんですか?


「さて、これで少なくともジェイドが月猫獣人であると証明された訳ですが」


 ジェイドがセイナの隣で横になり、寝息を立てはじめたのを確認して、おもむろにアステールさんが話し始めた。

 

「ジェイドが月猫獣人であることは秘匿し、対外的にはジェイドはヘリオスの隠し子という事にしましょう」


「おい、普通に俺の子ってことにすれば良いだろーが。何故隠し子にする」


「隠し子だと言えば、大抵の人は遠慮して、詳しい話を聞いてこないでしょう。母親のこととか」


「そりゃそうかもしれないがな、俺の名誉のためにも隠し子は無しだ」


「そうですか」


 アステールさん、如何して残念そうなのか。


「仕方ありませんね。ではヘリオスの実子ということで、月猫獣人だとは絶対に知られないようにしましょう」


「ああ。リューナ国の再興なんかに巻き込まれたくないからな」


「えっ、そんな話があるんですか?」


 先日の晩餐の席で、王妃様と話した時に聞いたらしい。オレがこっちの国際情勢知らないからと、ヘリオスさんにバトンタッチした時だ。

 リューナ国は、周辺国による経済封鎖によって立ち行かなくなり、サフィリアに併合されたらしい。同じような成り行きでサフィリアに併合された国は多く、革命を機に、それらを再興しようとの気運が高まっているそうだ。ふーん。


「ま、俺達には関係ないな」


「そうですね。全く関係ありませんね」

 

「いや、オレも出来れば関わりたくないですけど、ジェイドの意見も聞きましょうよ」


 リューナ国はジェイドの暫定故国なんだから、もしかしたら、何かしたいって思うかもしれないじゃん。


「聞くまでもないだろ。もしもジェイドがリューナ国の王族に返り咲いてみろ。セイちゃんと引き離されて、顔も見たことのない何処かのご令嬢と政略結婚させられるぞ」


「そうなると、セイちゃんの命も危ういですね」


「ジェイドはヘリオスさんの子だからリューナ国とは無関係ですね!」


 オレは即座に前言撤回、手のひらくるーりひっくり返した。ジェイドはウチの子。大事なセイナのお婿さんだからね。


 オレは今度こそゴロンと寝転がり、セイナとジェイドと川の字を作る。そこにヘリオスさんとアステールさんも加わって、久し振りに5人で並んで眠ったのだった。




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