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平和な国だと聞いたのに

 川賊が出たと聞いたのは、ハルトムート王子に招かれた城の晩餐の席だった。「海賊」ではなく「川賊」、レヌス川流域を縄張りにしている盗賊集団だという。そいつ等のせいでレヌス川が封鎖されてしまい、しばらくは船での移動に許可が必要らしい。

 それならと王妃様に許可証の発行を願ったのだが、許可を出すのは教会だという。川賊が襲った船が教会のお偉いさんのものだったようで、積み荷を奪われ激怒したお偉いさんが、教会騎士団を使ってレヌス川を封鎖し、川賊と積み荷を探しているそうだ。


「そんな勝手を許しておられるのか?」


 呆れた声音のヘリオスさんに、王妃様が苦笑いを返す。


「我が国のような弱小国は、教会との関係が難しいのです。特に今は、教会と事を構えたくありませんし」


 王妃様が隣の席のハルトムート王子に目をやる。王子に前世の記憶が生えたのは、公表しない事にしたそうだ。転生聖者だと知られると、教会に囲い込まれる危険があるから。王族で、しかも第一王位継承権持ちでもそうなら、セイナやオレなんて即日監禁コースだろう。秘密厳守だ。


「だから、顔に出やすい父上にも教えていないのだ。わたしのことは、母上と其方らしか知らぬ」


「陛下が鈍くて幸いでしたわ」


 王妃様は相変わらず国王様に辛口だ。この場に居ない国王様は、レヌス川封鎖の件もあってか忙しく、まだ執務中らしい。頑張って仕事してる国王様に、もうちょい優しくしてあげて。あ、このジュース美味しい。


 晩餐の料理は、料理勝負の時とは味付けが少し変化していた。お上品な味ではあるんだけど、ソースの味に出汁が感じられたり、醤油や味噌っぽい味になっていたりと、日本食に近い味付けのものが紛れている。王子が注文つけたに違いない。さすがに米はまだだが、ご飯が晩餐のメニューに加われば、更なる日本食化が進むのだろう。

 また、小麦粉アレルギー疑惑のある王子のために、小麦粉もパン以外には使われていないそうだ。そして王子の近くにパンの皿は無い。食事内容を変えてから、王子はすこぶる体調が良いと言っていた。


「それから、サフィリアで政変があったようです」


「!」


 ジュースが変なところに入ってしまった。(むせ)るオレの背中をセイナが「だいじょーぶー?」と聞きながら撫でてくれる。咳き込みながらも何とか「大丈夫」と返し、王妃様に問う。


「革命ですか?」


「ええ。そのせいで治安が悪化して、民が逃げ出しているそうよ。川賊に襲われた船も、サウスモアへ亡命途中だったとか」


「そ、そうなんですか……」


 革命とか亡命とか、オレにとってはニュースや教科書の中の言葉だったので、現実味がないけど。サフィリアは獣人差別のない平和な国だと聞いたのに。治安が悪化してるってことは、無血革命じゃなくて、血が流れてるってことだよな。


 オレはヘリオスさんと視線を交わした。これは家に帰ってから会議を開かなければ。目的地をサフィリアから変更するか、変更するなら何処に向かうか決めなくては。そのための情報を、王妃様から聞き出してくださいヘリオスさん! オレこっちの国際情勢とかからっきしなので、バトンタッチお願いします!

 ヘリオスさんが小さく頷いて、王妃様との会話を引き取ってくれる。


「サフィリア王家の皆様は、如何なったかお聞き及びか?」


「国王夫妻と王太子は、離宮に幽閉されているとか。ですが、他の王族についての知らせは入っておりませんわ」


「革命軍の規模や、首謀者については?」


「革命を主導したのは平民の冒険者だそうです。革命軍を名乗る者達も冒険者崩れがほとんどで、数はそう多くないようですが。王政側に内通者がいたようで」


「……お兄ちゃん、もうお家に帰りたい」


 隣の席から服を引っ張られた。オレはヘリオスさんと王妃様の会話に耳を傾けていたのだが、セイナには退屈だったようだ。そうだよね、4歳児には難しいお話だもんね。だけど情報は必要だ。


「もうちょっとだけ我慢してね、大事なお話中だから。ほら、あそこの果物食べて待ってような?」


 オレは小声でセイナに言い、黄緑色のフルーツをセイナの皿に取り分ける。気兼ねなく話せるようにと、ある程度食事が進んでから王妃様が使用人を下がらせたので、自分で好きな物を取って食べているのだ。ついでに反対隣の王子の皿にも、果物を幾つかのせてやる。

 ジェイドは自分で手が届く? セイナの向こうの席だから、オレが取り分けてやれないんだよね。ジェイドはこういう時遠慮する質だから、あ、隣のアステールさんがやってくれてるや、ジェイド、しっかり食べなよ?


「──今、西に行くのは危険です。ですからしばらくはこの城に留まって、ハルトの学友として過ごしてはいかがかしら?」


 すっかり耳が疎かになっている間に、ヘリオスさんと王妃様の会話が終わりかけていた。王妃様の目はセイナとジェイドを捉えているが、王子のご学友なんて、とんでもない。セイナは聞いていないので、丸くてツルツルのフルーツをフォークで突き刺すのに集中しているが、ジェイドは顔色をなくして「ムリです!」と無言で訴えている。


「ユウ、如何する?」


 ヘリオスさん、こっちに振らないで!

 オレが失礼にならないお断り文句を捻り出していると、王子が口を挟む。


「母上、ユウ達には米作りを手伝ってもらう約束なのです。既に農園の果物を、報酬として渡しておりますので」


 あれは桃パフェの代金じゃなかったか?


「あら、そうなの? ではせめて城に滞在して、たまにお茶会でも」


「母上がユウ達と話したいだけでしょう。ダメですよ、無理強いしては逃げられますからね」


「そうよね、でも、セイちゃんが可愛いから。ドレスを着せたりしたいのよ。セイちゃん、綺麗なドレスに興味はないかしら?」


「お姫さまのドレス?」


「そう、お姫さまのドレスよ!」


 マズイぞ、セイナが心惹かれている。期待に満ちた瞳で見てくるセイナに、オレは心を鬼にして首を横に振ろうとしたのだが。


「師匠、ボク、セイちゃんのドレス姿を見たいです」


 ジェイドにまで期待の眼差しを向けられて、オレは首を振る方向を変更せざるを得なかった。オレだって本心では、可愛いセイナの可愛いドレス姿が見たいからね!



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