高級な桃を贅沢に使ってます
「ユウ、これ美味いな! 今まで食べた物で1番美味い!」
王家の農園で収穫したばかりの桃を使った桃パフェを一口食べて、ヘリオスさんが顔を輝かせた。オレは、出来上がった桃パフェをアステールさんに渡し、オレのを作りながら返事をした。
「そりゃあ高級な桃を贅沢に使ってますからね。しっかり味わって食べてください」
「うむ、まことに美味だ。おかわりを所望する!」
最初の桃パフェを食べ終わったハルトムート王子が、空になった器をスプーンでカンカン叩きながら言う。それはテーブルマナー的にやって良いのか?
桃園で桃の収穫を済ませ、米作り用の温室に戻る途中で、珍しく雨が降り始めた。こちらに来てから、外に居る時に雨に降られるのは初めてだ。一緒にいた農夫さんによると、自然の雨ではなく、農作物の成長のために調節した魔法の雨だという。降雨中にしか収穫出来ない果物を採りに行く農夫さんと別れ、オレ達がテントで雨宿りしていた所に、アステールさんを連れたハルトムート王子が駆け込んできたのだ。
雨が止むのを待つ間に、デザートをねだるヘリオスさんに負けて桃のパフェを作ることに。一応王子に真っ先に提供し、セイナ、ジェイド……と皆に作って、やっと自分の桃パフェを作り中なんだが。
「はいはい、ハルももう少し味わって食べて。オレまだ自分の、一口も食べてないんだけど」
「ならばそれで良い、寄越すのだ」
「寄越すのだ、じゃないよ。ちょっとは遠慮して。城で同じの作ってもらえば?」
「おかわりくれたら、桃の木もう1本ぶんの桃を下賜するぞ?」
「どうぞ遠慮なくお召し上がりください」
「ヘリオスさん? それオレのなんですけど?」
桃に釣られたヘリオスさんが、オレの桃パフェを王子に差し出した。仲間に裏切られたオレは、仕方なく、もう一度オレの桃パフェを作りはじめる。だけどこれも奪われそう。セイナがそろそろ食べ終わりそうなんだよね……。
せっせと手を動かしながら、オレは独り愚痴を零す。
「だいたいハルは何でここに居るんだよ。しかも1人で。仮にも王子様なんだから、護衛とか付き人とかと一緒にいなきゃいけないだろ」
「護衛ならばアステール殿にお願いした。ヘリオス殿も居るし、充分だ」
「いや王家が雇ってる本来の護衛が居るよね?」
「撒いて来た。護衛対象に撒かれるような者は要らぬ。騎士団長が更迭されたから、他の者も選別している最中なのだ」
カスタードクリームたっぷりの桃パフェにスプーンを差し入れながら、王子が王城騎士団の内情を話す。元騎士団長は国王陛下の従兄弟で、国王様との血縁関係から増長し、王城騎士団を私物化していたらしい。賄賂だ贔屓だで実力もないのに騎士になった者も多く、組織の再編成を急いでいるという。
「なるほど。近くに隠れて護衛している者達が、実力のある本来の騎士なんだな」
「おっ、やはりヘリオス殿には判るのか。そうなのだ、問題のある者はわざと近くに置いて失態を演じさせ、問題のない者に陰から護衛させている」
へー、色々あるんだな。オレは城のあれこれには興味が無いので、ふんふんと聞き流す。そんな事よりオレは、王子が王子口調に戻っている方が気になった。王子の人格はハルトムートのままで、前世のハルコさんの人格が混ざったり、入れ替わったりはしてないのかな。
オレはやっと自分の桃パフェを作り上げ、一口目をパクリ。うん、最高! 自画自賛するオレの向かいで、ほぼ食べ終わったヘリオスさんが王子に尋ねる。
「騎士団長が更迭された原因は、俺達か?」
「とも言える。国賓であるユウ達への無礼を止めるように命じた、父上の言葉を無視したのが直接の更迭理由だ。だが、騎士団の私物化も目に余るようになっていたしな。あとは、寄子貴族がやらかしたのも、そうだ、忘れるところであった」
王子はスプーンを置いて、空中からピンク色の塊を取り出した。王子のアイテムボックスから出て来たのは、オレにはとても見覚えのある、目鼻が彫られたマンドレイキャロット。その不気味で恐怖心を煽る顔と正面から向き合ってしまったジェイドが、ニ゛ャッ! と叫んで飛び退る。一瞬でセイナを抱えて一緒に逃げているのはさすがだ。ツガイを置いて1人で逃げるような子じゃないもんな、ジェイドは。
オレは急いでマンドレイキャロットを受け取って、アイテムボックスの奥深くに突っ込んだ。
「あー、すまぬ……これはユウ達の物だと聞いたのだが、違うのか?」
「いや、オレ達のだけど。これ、ちゃんと王家に献上されたんだな」
城の方から来たって言ってた怪しげな集団、本当に城から来てたのかと思ったら、違った。
「確かにこれは王家に献上されたのだが、これを持参した男爵は、自分が作らせた物だと偽ったのだ。だが、レイク子爵から話を聞いていた父上が指摘して、入手経路を調べ、男爵が賊と繋がっていると判明した。その男爵の寄親が元騎士団長だったのだ」
その他にも元騎士団長自身も、叩けば埃がボロボロ出て来たため、合わせ技一本って感じで更迭されることが決まったらしい。これからは北の砦の守りにつくという元騎士団長さん、オレ達を逆恨みしてないと良いな。二度と会わないことを願う。
「そんなこんなで、今城は立て込んでいるのだが、わたしとしては、度々息女との婚約を勧めてきた騎士団長が居なくなって、清々している。その足掛かりを作ってくれたユウ達には感謝しておるのだ。桃だけと言わず、この農園の作物なら好きなだけ、持って行くがよい!」
「えっ、本当に?」
「もちろんだ。セイ達に対する詫びも兼ねておるからな」
だったら、自分でお金を出して買うのはためらう不思議果物をもらいたい。合奏してたのとか破裂するのとかを、収穫済みの果物から選ばせてもらえないかな。
オレの希望は叶えられた。倉庫に山と積まれた果物や野菜を手当り次第アイテムボックスに入れたオレは、しかし翌日から、「タダより高いものは無い」という言葉を思い知ることになるのだった。