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全部食べたら太るからね

 どうもオレは、ハルトムート王子に対して過剰に警戒し過ぎていたみたいだ。ごく最近、子泣き爺のごとくオレに全力でおぶさろうとしてきた子がいたからね。またオレ達を自分勝手に使おうって輩かと身構えてたけど、新生王子は意外と常識人のようだ。それなら仲良くするのもやぶさかではない。


「とりあえず、お茶でも飲みながら、腹を割って話そうか。ヘリオスさん、テーブル動かすの手伝ってもらえます? こっちに、そう、そこで」


 オレは甲板に出しっぱなしにしていたテーブルを、半分だけ、境界の向こうに出るよう動かした。甲板の厚みのぶん段差があるので、テーブル面が斜めに傾く。オレの意図を汲んで、アステールさんが家の中から踏み台を2つ持って来てくれた。王子が受け取って、低くなっている方のテーブルの脚に、踏み台を噛ませてくれる。


「ありがとう、ハルトムート王子」


「ハルで。敬称は無し」


「わかった、ハルね。だけど人目がある時は、王子呼びするから。あと、オレのことも呼び捨てで」


 ほぼ水平になったテーブルに、オレはお茶やお菓子を並べてゆく。前世を思い出した王子のために、一口おにぎりも混ぜておくと、案の定、王子は真っ先におにぎりに手を伸ばした。オレはそっと、おにぎりを潰して作った団子や煎餅も追加する。

 その横ではアステールさんが、テーブルの上で盗聴覗き見防止の魔道具を起動させていた。立方体の半透明な膜が、ギリギリ全員を包み込む。

 防音結界だと確認し、王子が内緒話めいた囁き声で告白した。


「わたし、前世はハルコだったんだよ」


「えっ、女性?」


「うん。だから今、変な感じで。言葉遣いも時々おかしくなるかもだけど、気にしないで」


「わかった」


 首肯しつつ、王子の隣で優雅に茶を嗜む王妃様に目をやる。王子に対して普通に喋っちゃってるけど、不敬罪とか言われないよな?


「ああ、母上には全部話したから。というか、すぐに気付かれた」


「当然です。これまでのハルトとは、まるで別人ではないの」


「だけど父上は誤魔化されたよ?」


「あの人の目は節穴ですから」


 王妃様、辛辣。まあ、オレですら王子の異変に気付いたのに、父親が不審に思わないなんてね。節穴扱いも致し方なしだ。


「でも、わたくしの目は誤魔化されませんわよ、ユウ。前世を思い出したハルトと同じく、貴方も聖者様なのでしょう?」


「……ノーコメントで」


 さっき王子と日本語で話してたから、そりゃあバレるよね。王妃様には身バレしても、悪いようにはされないだろうけど。一応断言は避けとこう。


 王妃様の追求を逃れるために、オレはお団子を吟味する。みたらし団子を取ろうとしたら、「あっ」と小さな声がした。声の主は王子。夜中に近い時間帯なのに、王子は一口おにぎりを食べ尽くす勢いだ。更に次のターゲットをお団子に定めたのか、オレが団子に手を付けようとするとギラリと目を光らせる。

 オレはお団子を諦め、ヘリオスさんが皿ごと抱え込んでいるドーナツを1つ、失敬した。ヘリオスさん、それ全部食べたら太るからね?


 アステールさんがヘリオスさんからドーナツの皿を取り上げるのを横目に、オレは王子に声を掛ける。


「ハル、随分たくさん食べてるけど大丈夫? 気持ち悪くなったりしてない?」


 一心不乱におにぎりを食す王子を心配すると、もぐもぐゴクンと口内を空にした王子が、幸せそうに茶を啜った。


「ああ、お米はきっと大丈夫。たぶんわたし、小麦粉アレルギーなんだよ」


「あ! お茶会の時の焼き菓子、小麦粉か」


「うん。わたしが具合が悪くなるのって、パンとかパスタとかケーキとか、小麦粉使った食べ物食べた時なのに思い至って。夕食の時に少しだけパンを食べてみたら、やっぱり気持ち悪くなったんだよね」


 そうか、こっちでは種族特性で食べられない物があるのは知られていても、食物アレルギーは知られてないんだ。この近辺の主食はパンみたいだから、毎食具合が悪くなるはずだよ。

 だからテーブルの洋菓子に見向きもしないのかと納得していると、王子が姿勢を正して頭を下げた。


「それもあって、お米の栽培を急ぎたいんだよね。だから、高くても良いから種籾を売ってください!」


「いや、そういう理由ならタダで譲るから。元々領主様、レイク子爵にお米の栽培を頼もうとしてたんだ。だから、ハルが主導で米作りしてくれるなら、オレとしても有り難い」


「良かった! 交渉成立!」


 パンッと両手を打ち合わせ、満面の笑顔のハルトムート王子。居丈高な物言いが無くなって、外見にも年相応の幼さが現れている。王子の前世、若くして亡くなったとかかな。だとしたら稲作の手順とか知らないかもな。


「ハル、米作りについての知識は? オレが知ってることはレイク子爵に一通り教えてあるけど」


「あ、わたし農家の嫁だったから、米作りのノウハウもあるよ」


「そうなの?」


「うん。ぶどうが本業、お米も自分家で食べるぶんだけ作ってた。だから米作りが軌道に乗ったら、シャインマスカットとかルビーロマンみたいなぶどうを作りたい」


「ぜひともお願いします! 桃とかミカンもお願いします!」


 こっちの世界の果物、まあまあ美味しいんだけど、日本の品種改良しまくった甘くて瑞々しい果物の美味しさには敵わないんだよね。米作りは領主様の調合した成長促進剤と特別な栄養剤で時短出来るから、ぜひとも激ウマ果物を生み出してもらいたい。特に桃。セイナが大好物だから。


 そんな身勝手なお願いも王子はニコニコと聞き、全力を尽くすと請け合ってくれた。ありがとう王子、当て馬にすらならない駄馬だとか思ってごめんよ。王子は立派な麒麟児だよ!



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