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大変身

「やはり貴様らがハルトムート殿下にど」


「違う違う、早合点しないで騎士団長! あまりの美味しさにクラリときただけだから! あーきみ、ごめんね? その子の言う通り、オムライス滅茶苦茶美味しかったよ。懐かしくて涙が出るくらい」


 すわ毒殺か、との不穏な空気は、飛び起きたハルトムート王子の言葉で霧散した。それでオレ達は助かったけど、王子は倒れた時に打ったのか、頭をイテテと押さえている。心配そうに支える王妃様に笑顔で応え、セイナと、ジェイドにまで笑顔を見せる王子。さっきまでの偉そうな態度とは打って変わって、腰が低くて愛想が良い。

 そして、王子が言った「懐かしくて」って部分が、とても気になるオレ。前にアステールさんに教えてもらった、聖者にはだいたい3パターンあるよって話を思い出す。召喚聖者、召喚聖者の子孫の聖者、転生聖者。ハルトムート王子、オムライスの味で前世を思い出した、転生聖者じゃないの?


 オレの予想を裏付けるように、王子が探りを入れてくる。


「いや本当に美味しかった。特に米! ジャポニカ米だよね、コシヒ○リ? あ○たこまち? ひと○ぼれかなぁ」


 仲間達が一斉にオレを見るんだけど、やめてー! オレ誤魔化したりシラを切るのって苦手なんだよ! オレも目を逸らして知らない振りをしてたんだけど、セイナが得意げに答えてしまった。 


「うちはねー、つ○姫! お姫さまのお米!」


「そっかぁ、お姫さまのお米かぁ」


 セイナとほのぼの会話しながらも、王子の目はオレをロックオン。こいつにも、おにぎり定期便をお届けしなきゃならないのかと思って、うんざりしていたら。


「母上。この人達に協力を仰ぎ、お姫さまのお米を品種改良して、王子様のお米を作りたいのです。温室の使用許可を頂けますか?」


 おや? 王子がクレクレ言ってこないぞ?

 意外に思いつつ成り行きを見守っていると、王子が国王様にも話を振る。


「父上。レイク子爵は植物学者で、品種改良を専門にされていましたよね。米の栽培について、アドバイスを頂きたいのですが」


 ハルトムート王子が別人である。ワガママ高飛車お坊ちゃまから、才気煥発将来有望な王子様に大変身だ。これ、中の人が入れ替わってる可能性もある?

 国王様は戸惑いつつも、嬉しそう。息子がやっと王族としての自覚を持ってくれたとか、良いように思ってるんだろう。素直な国王様とは違って王妃様は怪訝な表情で、王子をじっと観察している。


 そんな王妃様から顔を逸らすようにして、王子は周囲の兵士達、特に、未だにオレ達に不審な目を向けている騎士団長に命じた。


「聞いての通りだ。この方達には今後、わたしの研究の協力者として城に滞在して頂く。絶対に失礼のないように、良いな!」


 それからオレ達に、


「勝負はわたしの負けだ。今後一切、セイに手出しはしないし、させないと誓う。だから、後で米作りその他諸々について、話をさせてもらえないか?」


 オレが頷いてみせると、王子はホッとした顔になり、両陛下と共に城内へと戻って行った。





 夜も更けて。通常の警備体制に戻ったようで、オレ達の家を見張っていた兵士達は居なくなっていた。そこに人目を忍んで近寄ってくる、大小2つの影。ハルトムート王子と王妃様である。

 その他諸々について話すのは夜だろうと、甲板で待ち構えていたオレ。ヘリオスさんとアステールさんは一緒だが、セイナとジェイドは居ない。ジェイドの眠気が限界だったので、2人はとっくに夢の中だ。


 王子は境界手前で足を止めると、日本語で挨拶した。


「こんばんは。そちらの、ユウさんだっけ。貴方は日本語、分かるよね」


 オレはしらばっくれて、何言ってるかわからないって感じに首を傾げてみる。


「おかしいな。貴方とセイは、聖王国で行われた聖女召喚で、こっちに来たんだよね? リヒト様から伺っていると、母が言ってるけど」


 えっ、オレ達が召喚聖者だって、リヒトさんにバレてたの?

 

「フフッ、そこで反応したら、日本語理解してるって言ってるようなもんだよ?」


「あっ!」


 しまった、王子はずっと日本語で喋ってたのに、思わず顔に出ちゃったよ。ポーカーフェイス苦手だからなー。しかもリヒトさんにまで正体バレてるなんて聞いたらさ。


「あと、リヒト様から聞いてるってのも嘘。カマかけてみた」


「えっ、そうなの?」


 うわー、やらかしたー。オレはガックリ項垂れて、反省。騙されやすいんだな、オレって。気をつけよう。

 だけど、この場はもう気をつけようもない。オレは開き直って日本語で返す。


「で、要求は何? 言っとくけどオレ、チートとか無いからね。戦闘能力皆無だし、ドラゴンを従えたりも出来ない。魔法も使えないし錬金とかも出来ないし、内政チート出来るような知識も無いし、正直なんの役にも立たないと思うんだけど、この国としては聖者が国に居るってだけでも意味があるのかな」


 王子はオレの返答を黙って聞いていたが、途中から眉をへの字に曲げて、困り顔になった。そして、言葉をこちらの共通言語に切り替えると、


「そう警戒しないでよ。わたしの要求というか、お願いは、昼間言った通り、米作りに協力して欲しいってだけだから」


 オレも共通言語に戻して、


「なるほど、一生この国で農業に従事して、国の発展に寄与しろと」


「いや、種籾を譲ってくれれば、それで。もちろん代金は支払うよ。あ、永住希望だったら土地を用意するから!」


「あれ? 秘密をネタに一生飼い殺しとかじゃ?」


「は? 違うって!」


 腰に手を当て憮然とした表情になる王子。だけど思い直した様子で、また困り顔に戻る。


「とは言っても、わがまま放題だったの知られてるもんね。信用無いよね。うわー、どうしよう、黒歴史のせいでわたしの農業チート計画が初っ端から頓挫しそう」


「うん? ハルトムート王子、自分でチートしようと思ってる?」


「もちろん! わたしはこの国に、いやこの世界に農業改革をもたらした賢王として、名を残す予定なんだ! そのために、まずは米を普及させたいんだよ!」


 おおっ、それならオレの希望とも合致する。協力関係が築けそうだぞ!



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