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卵が破れちゃって

 オレが起きた時には既に日が昇っていたが、ジェイドはまだ台所に立っていた。アステールさんの姿は見えず、代わってヘリオスさんが昨夜窓辺から移された椅子に座っている。ヘリオスさんの手にはジェイドが作ったオムライスの皿。傍らには空になった皿が積み上がっているので、朝食は必要なさそうだ。

 スプーンを持った手をヒョイと挙げたヘリオスさんに、声を出さずに「おはよう」と挨拶する。ヘリオスさんも、口の中のものを飲み込んで、口パクで「おはよう」と返してくれた。オレ達の視線は自然とジェイドに流れる。顔色の冴えないジェイド、徹夜したな?


「おはよう、ジェイド」


 新たなオムライスが皿に移されたタイミングで、オレはジェイドに声を掛けた。チキンライスを卵で包むのに集中していたジェイドは、オレが起きて来たのに気付いてなかったらしい。ハッと顔を上げ、ヘニョリと泣き出しそうに顔を歪めた。


「師匠……ボクはダメな子です。どうやっても卵が破れちゃって……」


 お皿のオムライス、真ん中が派手に破けてチキンライスが覗いている。だけど、1匙掬って口に入れると、ちゃんと美味しい。セイナの好みのチキンライスにしっかり味がついたオムライスだ。


「ジェイド、やっぱり卵で包まないオムライスにしたら?」


 オレは卵で包んでるけど、世の中にはチキンライスに卵の布団をかけるオムライスだって存在する。そちらのほうが、ジェイドには作りやすいと思って昨夜もオススメしたんだけどね。セイナが「お兄ちゃんのご飯が好き」宣言したから、オレと同じやり方を教えて欲しいとジェイドに言われたのだ。


「でもボク、セイちゃんが1番好きなオムライスを作りたいんです。妥協したくない」


 うーん……。ジェイドの頑張りは認めるし、そのうち上手に作れるようになるだろうけど。オムライスって作るの難しいから、一晩で完璧に作れるようになりたいってのは、正直無謀だと思う。でも妥協したくないジェイドの気持ちもわかるんだよなー。セイナと王子の会話イベント、絶対阻止したいもんね。


「そうだなぁ、オレのやり方とは違うけど、失敗しにくいオムライスの包み方、やってみる?」


「味が変わったりは」


「大丈夫。まずはオレが作ってみるから、食べてみて」


 ジェイドと立ち位置を交換し、オレが披露したのは、ラップを使ってチキンライスを包むやり方だ。ただ、こちらにはラップもキッチンペーパーも無いので、綺麗な布巾で代用する。半熟スクランブルエッグ状にした卵を布巾に移し、チキンライスを中央に細く盛って、布巾を折り畳むようにして卵で包む。チキンライスを少なめにするのも、包みやすくなるポイントだ。


「で、布巾からお皿に出す。どう? フライパンで包むよりは簡単だと思うんだけど」


「食べてみても良いですか?」


「どうぞ。ちょっと休憩して朝ごはんにしよう、セイちゃんも起こしてくるから」


 セイナはテーブルに所狭しと並んだオムライスに、寝起きのショボショボ目を見開いた。ジェイドが作ったと教えてやると、更に目を輝かせてスプーンを取りに走る。


「全部食べていいの?」


「食べられるんならね。セイちゃん、好きなの選んで」


「えーとぉ、うーんとー、これ!」


 セイナが選んだオムライスは、これまた大胆に破れている。だけど、


「これ、猫さんのオムライス!」


 とセイナが言うのでよく見ると、確かに破れ目が「液状化した猫」に見えてくる。


「んー、おいしっ! ジェイド、猫さんのオムライス美味しい!」


 大喜びでオムライスを食べるセイナに、ジェイドが笑み崩れている。そして、俄然やる気を取り戻し、オレの作ったオムライスをガツガツと掻っ込むと、再び戦場(だいどころ)へ。教えたばかりの布巾を使った包み方を練習しだした。


「ジェイド、まだお料理してるの?」


「うん。セイちゃんが昨日、美味しいもの作ってって言ったから、ずっと頑張ってるんだよ」

 

「そっかー。でもセイ、昨日の夜はジェイドが居なくて寂しかった」


 ジェイドがフライパンを手にしたまま固まる。砂糖を加えた卵が焦げる、甘い匂いが漂い始めた。オレは火を止めるために席を立つ。


「なあジェイド、セイちゃんのために料理を頑張っても、それでセイちゃんを寂しがらせてたら本末転倒だぞ」


 重ねたお皿を流しに置いて、皿洗いを始めたヘリオスさんが言う。


「だ、だけど、午後までに上手に作れるようにならないと」


「ジェイド、セイちゃんは卵が破れてても美味しいって言ってるだろ。見た目はそんなに重要か?」


 ヘリオスさんの言葉に俯くジェイド。おウチご飯なら見た目は少々不格好でも、気にならないよね。だけど勝負となると料理の見た目も大事だ。


「ジェイド、一度成功したら、お昼前までセイちゃんと寝ておいで。で、勝負の前に、もう一回復習しよう」


「でも」


「寝不足でフラフラしてると上手くいくものもいかないから」


「ジェイド、ご飯食べたらセイと二度寝してね!」


 セイナににっこり催促されて、ジェイドはやっと頷いた。布巾を使ったオムライス作りは数回で成功。フライパンから卵を布巾に移す時と、布巾からお皿に移す時に崩れたり、はみ出したりはあったが、そこは形を整えてしまえば良い。もっと早く教えてあげれば良かった。


「できた……出来ましたっ、師匠!」


「うん、完璧!」


 やったー! とガッツポーズしたジェイド、ふらりと揺れて、ヘリオスさんに支えられた。そのまま抱き上げられて寝室へと運ばれるジェイドは、既に寝息をたてていた。


「セイちゃん、朝ごはん食べたら、ジェイドをよろしくね」


「うんっ!」


 朝からオムライスをペロリと平らげ、元気いっぱいで寝室に突入するセイナを見送り、オレはテーブルに残った大量のオムライスを、せっせとアイテムボックスに収納したのだった。

 


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