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ずっとくっついとけば良いよ

 国王様のアホなご提案は、当然ヘリオスさんに一蹴された。そもそもセイナとハルトムート王子が仲良くしていた事実はないから、仲直りとか言われてもね。ヘリオスさんはもう一度、自分達は帰るから馬達を連れて来るよう念押しして、一旦家の中に戻って来た。


 しかめっ面のヘリオスさん、首をコキコキ鳴らしながら言う。


「ありゃあ駄目だな。俺達の滞在を引き延ばして、なんとかセイちゃんと王子に交流を持たせるつもりだろう」


「同感です。馬達を連れて来る気は無いようですね。早めに脱出したいところですが、私とヘリオスで城中の兵士を相手取るのは荷が重いですし。困りました」


 いくらヘリオスさんとアステールさんが強くても、オレ達を守りながら兵士達と戦って、馬達と合流して逃げるのは難しいだろう。城の構造も分からないし、兵士を殺さないよう手加減しなきゃだし。とんだ無理ゲー。


「王妃様は信頼出来そうなんだがなぁ」


 外からは、国王様と王妃様が話し合う声が聞こえている。どうも王妃様が国王様を叱り飛ばし、それに国王様がモゴモゴと言い訳しているように聞こえる。ご夫婦の力関係、どう見ても王妃様が上だよね。騎士団長も王妃様には従ってたし。だけど王妃様だけは味方してくれても他が信じられないから、ハウスボートから出るのは危険。


 ううむ、と頭を悩ますオレ達を前に、ジェイドがセイナを抱えたまま、肩を丸めた。


「ごめんなさい。ボク、どうしてもセイちゃんとお別れ、したくなくて……」


 元気の無いジェイドの頭を、セイナがよしよしと撫でて慰める。オレもジェイドをよしよしする。ジェイドが気に病む事なんて何も無い、悪いのはあの王子だ!


「ジェイド、セイちゃんを守ってくれて、ありがとうな。ジェイドは何も悪くないから」


「そうだぞジェイド、むしろ相手が王子でも怯まず、偉かった!」


「ええ、とても格好良かったですよ。ね、セイちゃん」


「うん! ジェイド、カッコ良かった!」


 ジェイドにギュッと抱き着くセイナをギュムーッと抱き返すジェイド。親密度が爆上がりしてるよね。これこそ相思相愛だ。

 2人から発せられる幸せオーラのお陰で、いわれのない疑いを掛けられてイラッとしてた気分が解れてゆく。ヘリオスさんとアステールさんも、幼い夫婦を温かく見守っている。ほっこり。いい感じに緊張感も緩んだ。


「まあ、家の中に居れば安全だからな。焦って逃げて危険に陥るより、ここで機会を窺ったほうが良いだろう。ユウ、食料はどのくらい持つ?」


「オレ達だけなら3ヶ月は余裕ですね。その辺の土でおにぎり作って節約すれば、半年かな。ただ、水は少ないです」


 ずっと川を下る予定だったから、水は簡単に手に入るって思ってたんだよね。今度から飲み水も大量にストックしとこう。

 オレが反省していると、ジェイドがハイッと手を挙げる。


「お水なら、ボク、作れる量が増えました!」


「ジェイドの今の実力なら、私達が1日に飲む水を毎日賄えますよ」


 おー、パチパチ。ジェイドは剣術だけでなく、魔法も頑張ってたもんな。


「よし、なら半年は籠城出来るな。それだけ長く俺達と連絡がつかなきゃ、リヒトが出張ってくるだろ。うん、何とかなる、気楽にいこう!」


「そうですね。ただ、船から出ないようにだけは、気を付けましょう。特にセイちゃんとユウ君は、なるべく家の中で過ごすように」


「オレもですか?」


「はい。私達はうっかり境界を越えて捕まりそうになっても、抗う術がありますが、2人は戦闘力皆無ですから」


 確かにそうだ、気をつけよう。

 それにしても、稲刈りが済んで家をアイテムボックスに入れられるようになってて良かったよ。異世界で安全基地は必須だな。スーちゃんも居るし、インドア派なオレは長期の立て篭もりも苦ではない。


「セイちゃん、兄ちゃんと一緒に、お家の中で遊ぼうな」


 ジェイドに包まるセイナは、オレの言葉に不思議そうな顔をした。


「何でお外はだめなの?」


 あらら。ずっと皆の遣り取りを聞いていたセイナ、根本的な事がわかっていなかったらしい。そりゃそうか。オレ達の様子から、何となく大変そうだと察して大人しくしているだけでも賢いよな。自分が厄介事の渦中にあるなんて状況判断、4歳児には出来ないか。

 うーむ、何て説明しよう。


「セイちゃん、さっきセイちゃんのお名前聞いてきた子が、セイちゃんに、お妃様になれって言ってたよね。そのために、セイちゃんとジェイドに別れろって言ってた。でも、セイちゃんはジェイドとお別れしたくないよね?」


「お別れヤダ! ジェイドはね、ずーっとセイと一緒なの!」


「はい! ボクはずっとずーっとセイちゃんと一緒です!」


 セイナがジェイドとギューギューに抱きしめ合っている。もう、そのままずっとくっついとけば良いよ。今はその方が安心だ。


「そうだよね。でも、あの子が王子様だから、周りの大人があの子のわがままを叶えようとするかもしれないんだ。そのためにセイちゃんを捕まえて、ジェイドと離れ離れにするかもしれない」


「悪い人がいるの?」


「悪い人というか……迷惑な人、かな。外に出たら、その人達に捕まるから、お家の中に居ないといけないんだ。わかるかな」


「うん、わかった。セイ、ジェイドと一緒にお家にいる!」


 オレと一緒にではなくなってしまったが、セイナは家で過ごすと聞き入れてくれた。だけどきっと、何日も家の中だと退屈してきて、お外に行きたくなってくるよね。梅雨時とか連日の猛暑とか、外遊びが出来ない日が続くと、子どものストレス溜まってくるもんね。


 基本は籠城戦でリヒトさんの救援を待つとして、脱出方法も探していこうとオレは決めた。チラリと頭の片隅に、「ヒーローごっこの巨大ロボで飛んで逃げる」なんて考えが浮かんだが、それはリヒトさんにも頼れなかった時の最終手段だ。自分から進んでHP(ヘンタイパッション)を増やす愚行を犯すなんて、お兄ちゃんの風上にも置けないからな。


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