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立て篭もります

 協力、協力ねー。領主様からのお願いに、オレはにっこり笑って答えた。


「お断りします」


「えっ!」


 断られるとは思っていなかったのか、領主様がびっくりしている。そんなに驚く事ですかね。


「な、何故ですか?」


「逆に聞きますけど、何故オレが、セイナとジェイドを引き裂こうとしたクソガ……ゴホン、王子様のために、協力すると思うんですか?」


「そ、それは……」


 領主様が絶句する。味方を探して視線を彷徨わせ、ヘリオスさんに目を留めるが、もちろんヘリオスさんもこちらの陣営だ。


「全面的にユウに同意する。だいたい俺達がここに居るのもおかしな話なんだ。護衛依頼は城門までの約束だったからな、そろそろ出発しよう」


「そうですね。残れと言われたのは領主様だけですし、私達はお暇しましょう」


「ですよね。行こう、セイちゃん、ジェイド」


 揃って席を立ち、退出しようとするオレ達を、領主様が体を張って引き止める。扉の前では使用人さん達も通せんぼ。邪魔しないでほしいなぁ。


「待って、待ってください! そんなに急がなくても」


「急がないと余計に面倒な事になりそうだろうが。あの王子がセイちゃんを諦めたと思うのか? 長居して、既成事実でも作られたら如何してくれる」


「そんな事するわけ」


「無いって言い切れるか? 王妃様は王子を叱ってたが、王様は何も言ってなかったろ。息子にもチャンスをとか、絶対に言わないと断言出来るのか?」


 領主様、だんまり。そんなアホな事言ってくる可能性があるんだな。息子に甘いんだろうな、国王様。甘やかした結果がアレか、うん、さっさと逃げるに限る。


「ヘリオスさん、別の出口から出ましょう」


 オレはくるりと反転して窓へ。ここでも行く手を阻もうとする使用人さんを、アステールさんが風魔法で遮る。庭に面した掃き出し窓の鍵を開けたところに、国王様が戻って来た。その後ろには、鎧をガチャガチャいわせながら、大勢の騎士が続いている。うわあ、またもや嫌な予感がするなあ。


「陛下! 賊が逃げようとしております!」


「「はあ?」」


 オレとヘリオスさんの声がハモった。賊って何だよ。まさかオレ達の事じゃないだろうな?


「騎士団長、間違えるな! この者達がやったという証拠はない!」


 国王様が制止するが、騎士団長をはじめとした騎士達は剣の柄に手を掛けて、今にも抜刀しそうだ。


「しかし陛下、ハルトムート殿下が、この者達が毒を盛ったと仰ったではありませんか!」


「「はあっ?!」」


 今度はオレと領主様の声がハモる。あのクソ王子、何適当な事言ってんだ!

 この碌でもない事態の元凶がハルトムート王子だと知って、オレはセイナを抱っこするジェイドを引き寄せた。王子の狙いはセイナだよな、何があっても渡すもんか!


「ハルトムートが言ったからとて、それが正しいとは限らぬだろう!」


「ですから捕らえて尋問を」


「ならぬ! 剣を収めよ、我が命が聞けぬのか!」


 オレは気付かれないよう少しずつゆっくり窓を開け、退路を確保する。庭にはまだ敵は居ないが、騎士の人数が減っている気がするので回り込まれるのも時間の問題かも。逃げるのは無理か? だったら。


「アステールさん、立て篭もります」


 オレはアイテムボックスに手を入れながら、傍で風を操っているアステールさんに囁いた。


「私が合図しましょう。ユウ君、準備は?」


「何時でも」


 少し離れた場所で騎士団長を牽制しているヘリオスさんも、後ろ手に「了解だ」とのサインを寄越す。ジェイドもセイナをしっかりと抱え直した。


「では……今です!」


 風の壁がブワリと周囲に立ち上がった。オレは即座に庭に出て、ハウスボートを引っ張り出す。と同時にセイナごとジェイドを甲板へと押し込み、オレも続いて境界内に入って安全を確保。子ども達を家の中へ退避させていると、アステールさん、ヘリオスさんも駆け込んできた。


「ユウ、念の為に領主様と騎士殿が入れないようにしとけ!」


 ヘリオスさんに従い、領主様達を「関係者」から外す。その間にも騎士団長達がハウスボートを囲み、中に踏み込もうとしてはボヨンボヨンと弾かれる。


「クソッ、賊どもめ!」


「騎士団長、違うと言っておろう! いい加減にせよ!」


「これは何の騒ぎですか!!」


 高く轟く声と共に、王妃様が現れた。途端にその場で跪く騎士団長。


「はっ! ハルトムート殿下に毒を盛った賊を、捕縛しようと」


 スパーン!


 なんとも良い音を響かせて、王妃様が騎士団長を平手打ちした。えっ強! 王妃様強いな!


「このたわけが! あの様な戯れ言を真に受けて、大切な客人を害そうとは! 恥を知れ!」


「陛下は殿下が嘘を仰ったと?」


「わたくしの耳の良さは知っておろう! あの程度の嘘、調べるまでもないわ!」


 王妃様、お茶会の時の穏やかさとは別人である。国王様の命令には耳を貸さなかった騎士団長が、王妃様の剣幕に恐れ慄いて縮こまっている。船に押し入ろうとしていた騎士達も青い顔。ハハハ、ざまあみろ怒られてやんの!

 多少は溜飲を下げたオレの横、セイナが騎士団長に向かってアッカンベーしていた。ジェイドが首を傾げながらも、


「カワイイ……」


 と見惚れている。こっちにアッカンベーは無いのかな。だったらオレもやっとこう、アッカンベーだ! ついでにお尻ペンペン……はさすがにマズイな、止めとこう。


 家の中から外の様子を見物していると、騎士団長達は解散させられ、代わって国王様や領主様達が近付いてきた。領主様が入ろうとして、ボヨンと弾かれ目を見張る。


「えっ、何故入れなくなっているんですか!?」


「領主様はそっち側だからな。下手に入って来られたら、人質を取られたとか言われるだろうが」


 交渉事担当のヘリオスさんが甲板に出て、国王様達と相対する。


「そんなこと」


「無いなんて言われても、俺達はもう信用出来ない。今直ぐ城を出て行くから、預けている俺達の馬を連れて来てくれ」


 すごすごと下がる領主様と交代で、国王様が前に出る。そして、頭を下げながら言うことには。


「そう言わず、もうしばらく滞在せぬか? 誤解は解けたのだ、息子に仲直りするチャンスをやって欲しいのだが」


 うわあ、国王様、本当にアホな事言ってきたよ。お返事は当然、お断りに決まってるよな!



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