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物質変化の魔法かなんか

 セイナの可愛い中指に嵌った小さな指輪。リングの光沢といい、宝石の質感といい、どう見ても紙製ではない。オレが作った折り紙指輪何処行った?

 セイナが座るベッドの上や床をざっと見渡すが、発見出来ない。一応確認しないとね、無駄だろうと分かっていてもね。


 消えた折り紙指輪と、現れた金属指輪。となると、指輪が変質したんだろうなぁと推測するのが一般的だろう。魔法のあるこの世界なら、鉄の斧が金の斧になったり、王子様がカエルになったりしそうだし。

 たぶんセイナに錬金術師の才能があって、物質変化の魔法かなんかが使えたんだろう。光ってたし。呪文っぽい事は言ってなかったけど、セイナの呪文は独特だからな。それとも無詠唱?


「セイちゃん、指輪渡した時、なに考えてた?」


「うーんと、なんにも?」


「え、この指輪が本物になーれとか、考えなかった?」


 セイナが首をこてんと傾け、唇を尖らせる。『よく分かんないのポーズ』だ。でも、この魔法が自由自在に使えれば便利だから、オレは引き下がらない。もう一度指輪を作って……いや、もっとセイナが本物に変化させたい物にしよう。


 ちょうど小腹が空いたので、折り紙でソフトクリームを作ることにした。コーンの色に似た薄茶色の折り紙を折り、出来上がったのは立体的な、オレの手のひらサイズの折り紙ソフトクリーム。その小さなソフトクリームをセイナに渡す。


「ソフトクリーム、食べたくない?」


「食べたーい!」


「じゃあ、本物になるように念じてみて」


「うん! えーっと、本物になーれ! ソフトクリームになーれ! 美味しくなれー!」


 ………………………………。


「……お兄ちゃーん……」


 おかしいな、変化しない。ああっ、ソフトクリームを食べる気満々だったセイナが泣きそうだ。

 握った折り紙ソフトクリームが潰れそうだったので、引き取って、代わりにアイテムボックスから出したキャンディを握らせておく。ジェイドが不思議そうな顔で、でも遠慮がちに質問する。


「あの、それは食べ物ですか?」


「うん、あ、ジェイドも食べるか?」


 キャンディをもう1つ取り出したが、ジェイドが指差したのは折り紙ソフトクリームの方だった。


「あれ、ソフトクリーム知らない? こっちには無いのかな。あのね、この持つ所がお菓子で出来てて、上の白いのが冷たいクリームなんだ。甘くて美味しいよ、はいアーン、なんて」


 ピカッ!


「え……」


 光に気を取られ、食べさせる振りの手元が狂ってしまった。寸止めするはずだったソフトクリームがジェイドの唇を掠め、クリームがベタリとジェイドの頬につく。


「あ! ソフトクリーム! セイも食べる!」


「待って、ちょっと待って」


 仄かに牛乳の匂いがするソフトクリームをジェイドに持たせ、大急ぎでもう1つ、ソフトクリームを折る。ええと、さっきオレは何をした? セイナの口元に折り紙ソフトクリームをもって行き。


「ソフトクリームは持つ部分がお菓子で出来てて、上のクリームが冷たくて、甘くて美味しいから、はい、アーン」


 ピカッ!


 無事に本物に変化したソフトクリームを、セイナが笑顔で舐めはじめた。よ、良かった……。


「あのぅ、これはどうしたら良いですか」


 尋ねるジェイドは、まだソフトクリームに口を付けていなかった。頬に付いたクリームが溶けて、顎から垂れそうだ。それをハンカチで拭いてやりながら、急いで食べるように促す。


「早く食べないと溶けちゃうからね。あ、でも猫ってソフトクリーム食べちゃダメだったかな。とゆーか、元は折り紙だけど、食べても大丈夫だったかな……」


 セイナは既に半分以上食べてしまっているが、今更心配になってきた。時間経過で折り紙に戻るとかだったら如何しよう。紙だから毒にはならなくとも、お腹痛くなったりするかも。


「ええと、ジェイド。不安ならオレが食べるけど」


「いいえ、大丈夫です。ボクは普通の猫とは違いますから」


「でも原材料が紙だよ?」


「平気です。紙なら食べた事があります」


 それも如何なんだ。


 オレとジェイドが話している間に、セイナはペロリとソフトクリームを平らげてしまっている。そして足りなかったのか、ジェイドのソフトクリームに視線が絡みつく。2つは多いよ、いくら小さなソフトクリームだからってね、寝る前だし。


「ジェイド、平気なら食べちゃって」


 若干不安は残るものの、なんだかジェイドが食べたそうなので勧めておく。獣人といっても猫耳と尻尾があるだけで、ジェイドは人間に近いので。体質的にも人間と近いんじゃないかなー、と希望的観測をたてる。お腹痛くなってもセイナの『痛いの痛いの飛んでけー』があるし、何とかなるだろ。


 ジェイドは恐る恐る、舌でソフトクリームを舐め、目を見開いて固まった。あ、フレーメン反応。違うか。

 一瞬のフリーズから復活し、夢中でソフトクリームを舐めるジェイドを見守りつつ、考える。


 この物質変化、セイナじゃなくてオレの能力か? だとしたら工作Lv5辺りが関係してそうだが、折り紙ソフトクリームを完成させただけじゃ変化しなかった。他にも何か条件があるんだろうが、何が発動条件なんだ?


 考え込むオレの服の袖を、セイナがクイクイと引っ張った。


「お兄ちゃん、セイ、ケーキも食べたい」


 食いしんぼさんめ。

 お願いお兄ちゃん! と可愛くおねだりしてくるセイナから顔をそらし、ポシェット作りを再開する。セイナを直視するとね、初孫に甘いお祖父ちゃん状態になるからね。


「ダメダメ、今日はもうお終い。歯磨き──は無いから『きれいきれーい』して寝なさい」


「はーい」


 能力の検証は2人を寝かしつけてからにしよう。1人で美味しい物食べようとか、そんな事はちっとも思ってないからな。

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