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トラウマになりそうな出来だった

 一夜明け、皆で揃って朝食を食べていると、外からボヨンと聞き覚えのある音がした。ヘリオスさんと騎士さんが席を立つのに続き、玄関口から外を見ると、何故か船が兵士達に囲まれている。全員が揃いの甲冑に身を包む中、ひとり深緑のマントを着ける女性が船に乗り込もうとしては、ボヨンボヨンと弾かれる。その姿にオレは思わず笑ってしまった。


「レイク子爵であるか!」


 ヘリオスさん達の姿を認め、女性兵士が姿勢を正して誰何する。違うと答え、こちらを振り返ったヘリオスさんが領主様を手で示す。兵士達が注目するなか、領主様が甲板へと歩を進めた。オレの腕を掴んで道連れにしながら。離してくださいってば。


「わたしがレイク子爵家の当主を拝命しております、マルコ・レイクでございます」


 領主様が前に出るのに合わせ、ヘリオスさんが後ろに下がりながら、さり気なくオレを回収してくれた。だけど家の中までは入らず、領主様の後方に控える。

 女性兵士は領主様を一瞥すると、船に乗るのは諦めたのか、その場で口上を述べた。


「我々は城の方から参った。献上品の輸送を一任されている、マンドレイクを引き渡してもらおう」


 領主様が困惑気味に返答する。


「あの、わたしとしては直接国王陛下に献上したいのですが」


「陛下はお忙しいのだ、そんな些事に関わる時間はない」


「しかし」


「さっさと渡せと言っている、わざわざ出向いてやっているのだ、早くしろ!」


 女性兵士が領主様に迫ろうとして、また弾かれる。ポヨン。


「くそっ、何なんだこれは! 我々は城の方から来ているのだ、反抗するなら反逆罪と見做すぞ!」


 女性兵士が地団駄踏んで声を荒らげる。その姿にオレは違和感を覚えた。ヘリオスさんの服をチョイチョイと引っ張ると、ヘリオスさんは微かに頷いて、馬達の方へ視線を流す。ああ、なるほど了解です。


 オレはテントの陰に移動して、アイテムボックスに手を突っ込んだ。その間にヘリオスさんが領主様の横に立ち、渡せ、いやでも、との押し問答に口を挟む。


「領主様、お渡ししましょう。昨夜も襲撃があったのです、我らだけでは貴重な品を城まで無事に運べぬかもしれません」


「いや、ですが献上するのと引き換えに、陛下に奏上したいこともあって」


「それは謁見許可が出てからで良いではないですか。また襲撃されて、領主様に何かあっては一大事です。輸送はこちらの方々にお任せしましょう」


「……分かりました。貴方がそう言うのでしたら」


 そろそろタイムリミットだ。オレは急いで仕上げにかかる。受け取りに来たヘリオスさんが、ブフッと吹きかけて、慌てて口を手で覆っている。時間が無かったんだから、しょうがないでしょ。

 肩を震わせながら、ヘリオスさんはマンドレイキャロットを受け取った。


 オレから受け取ったマンドレイキャロットを、ヘリオスさんが甲板ギリギリに立って女性兵士に渡す。ヘリオスさん自身は「関係者以外立入禁止」の境界から出ないよう、慎重にマンドレイキャロットだけを境界線の外に押し出している。ヘリオスさんが1人で運んだマンドレイキャロットを、相手方は5人掛かりで抱えて運んでいった。満足そうに見送る女性兵士に、ヘリオスさんが問う。


「そういえば、貴殿の名と所属を聞いていなかったな。どちらのどなただ?」


「ふん、貴様に名乗る筋合いはない!」


 いや、それは可怪しいでしょ。国王陛下への献上品を預かるんだよ? 最低でも名乗って、書類を交わしたりしなきゃ駄目でしょ。杜撰だなー。

 ヘリオスさんも呆れて物も言えないらしく、失礼する! と去って行く集団を黙って見送った。


 兵士達の姿が見えなくなると、終始不安げだった領主様が言う。


「マンドレイキャロットを渡してしまって、良かったんでしょうか」


「良くはないな。アイツ等どう見ても城の正規兵じゃなかったし」


 ヘリオスさんの言葉に、領主様と騎士さんがギョッと目を剥く。オレは、やっぱりねーと頷いた。だってさ、「()()()から来た」って、詐欺師の手口じゃん。役所の方から来ましたってのと一緒じゃん。


「ええっ! それではさっきの人達は」


「昨夜侵入しようとした奴と、その仲間だ」


「何故分かるのですか?」


「臭いで。俺は人より鼻が利くんでな。大丈夫、献上品のマンドレイキャロットは渡していない。アイツ等に渡したのは、フハッ、俺達が貰ったやつだ」


 思い出し笑いしているヘリオスさんを、軽く睨む。確かに自分でも、これはちょっと……って出来だったけどさ、短時間で辛うじて顔に見えるようにしたんだから、それだけでも御の字でしょ!


 先程ヘリオスさんとアイコンタクトで「コイツら怪しい」「馬達が噛ったほう渡しとけ」との会話をし、オレは急いでマンドレイキャロットを加工した。馬達が噛った跡を、カービングナイフで顔に見えるように彫刻したのだ。ただ、急いでたのと、下絵が無くてオレの絵心がダイレクトに影響したのとで、その顔面は控えめに言っても化け物。インパクト大。ヘリオスさんは笑ってるけど、子どもが見たらトラウマになりそうな出来だった。セイナとジェイドに見られなくて良かった。


 ひとしきり笑ったヘリオスさんが、話を続ける。


「あの程度の人数なら蹴散らすことも出来たんだが、甲冑を揃えてたのが気になってな。盗賊なら問題ないが、他家の私兵だった場合を考えて、穏便に済ませることにした。ただ、この手はもう使えないから、すぐにでも城へ行って献上品を渡しちまった方が良い」


「分かりました。謁見申請の返答がまだですが、出発しましょう」


 オレ達はお互いに頷き合い、即座に出発に向けて動き出した。


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