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武器より防具派

 ピンク米の試食をしているうちに、王都近郊に到着していた。川沿いから市街地までは少し距離があるが、馬車で半刻も掛からないという。しかし、緊急時以外、日没後に王城には入れないらしいので、今日の移動はここまで。謁見申請のために使いだけ出して、登城は明日以降になるそうだ。


 川沿いにも集落があり宿屋もあったが、領主様達はオレ達の船で過ごしていた。守りが堅いからね、オレ達の船もテントも。特に甲板に置いたテント内だと、二重の防壁に守られているようなものだ。だから、領主様が今夜はテントで過ごすと言い出しても、反対意見は出なかった。


「それにしても、小型とはいえ簡易結界とは豪勢な」


 カンテラの灯りに寄って来ようとして弾かれた虫を見て、騎士さんがしみじみと言う。オレのスキルについては内緒なので、『関係者以外立入禁止』機能は魔道具の簡易結界だと説明してある。結界発生装置が家の中にあって、必要時のみオンにしているという設定だ。

 オレから夕食のホットサンドを受け取りながら、ヘリオスさんが返す。


「ウチは子ども達が居るからな。安全第一なんだ。俺自身も武器より防具派だし。あんたは?」


「おれも武器より防具に金をかける。いざとなれば、この身を盾にして領主様を守らなければならないからな。だが、同僚の中には防具より武器派が多くてな、よく口論になる」


 わかる。オレもロールプレイングゲームで、武器と防具のどちらを優先して買うか、よく悩んだものだ。懐かしく思い出しながら、騎士さんに飲み物を渡す。


「永遠のテーマだな。余所のパーティも、よく揉めてる。でも現状俺達のパーティで一番金が掛かっているのは食費だ。さあ、遠慮なく食ってくれ」


「そう言われると、食べ難いんだが」


 ヘリオスさんと騎士さんは、今日1日でだいぶ気安くなったようだ。軽口を叩く2人は、これから夜通し寝ずの番をしてくれるので、夜食やオツマミも多めに渡した。

 しかしテント内のアステールさんと領主様には、夕食のみしか渡していない。余計な事はせず、早めに寝てもらいたいからね。こちらの2人は夜中のテンションで、再びやらかしかねないので。安全のために、成長促進剤と特殊な肥料とやらは領主様から取り上げ、いや、お預かりしてるけど、不安だ……。


 どうか何事も起きませんように、と願いながら就寝したオレは、しかし夜更けに、不審な物音で目が覚めた。


 ──ポヨン──ポニョン──ボヨンッ!


「……んー……スーちゃん?」


 始めはスーちゃんが飛び跳ねてるのかと思ったオレ。船を岸に上げたので、スーちゃんが手のひらサイズで家に居たからね。でも、スーちゃん用の小さな水樽を覗いてみると、スーちゃんは水底でお休みしていた。まぶたが無いので目が開いたままだけど、動かないのでたぶん寝てる。魚方式だ。


 スーちゃんじゃ無いなら何処から音がするのかと耳を澄ませると、どうやら天井近くの通気口からのようだ。オレ達の寝室は家の奥、甲板とは反対側にある。通気口の向こうは家の裏手で何も無いんだけど、スーちゃんのお友達でも遊びに来たのかな?


「たぶん違うよな。ええと、ヘリオスさーん」


 すやすや眠るセイナとジェイドが居るので、オレは小声でヘリオスさんを呼んでみた。ヘリオスさんの耳になら届くだろう。思った通り、直ぐにヘリオスさんが来てくれた。


「どうした、ユウ」


「さっき、裏から変な音がしてて」


 言ってるそばからボヨンと音がする。


「ああ、今のか。見てくるからユウはここに居ろ」


 寝室から出て行ったヘリオスさんは、暫くして笑いながら戻って来た。


「男女の2人組が侵入しようとしてた。だけど、ことごとく跳ね返されて地団駄踏んでたぞ」


 おお、オレ達の船に力づくで侵入しようとすると、あんな間抜けな音がするのか。覚えとこう。


「泥棒、マンドレイキャロット狙いですよね」


「タイミングからして、そうだろうな」


「捕まえないんですか?」


「まだ何もしてないからな。侵入すら出来てないんだ、捕まえたところでシラを切られる。気になるなら追い払うが」


 うーむ、追い払っても、きっとまた来るよね。放置で良いかな。だけど、音が気になって眠れそうにない。


「放っときましょう。そのうち疲れて諦めるかもしれないし。だけど煩いんでリビングで寝ます。ジェイドを運んでもらえますか?」


「おう、ってこれ、セイちゃんと塊になってるぞ」


 ジェイド、寝てるのにガッチリセイナを抱え込んで離さない。セイナも身動き取れないだろうに、安心しきった顔で受け入れている。これを引き離したら恨まれそうだと、ヘリオスさんが2人を一緒に運んでくれた。


「ジェイドは最近、ますますセイちゃんにベッタリだな」


 ヘリオスさんが、微笑ましげに子ども達の寝顔を見ながら言う。


「そうですか? ジェイドはヘリオスさんと行動する事が多い気がしますけど」


「鍛錬の時はな。あと、ユウがセイちゃんと一緒の時は、安心して離れられるみたいだ。だけど、ユウが崖の上に泊まってた時は、文字通り片時も離れなかったぞ」


「そうだったんですか?」


「ああ。あの時はトイレに行くのに離れるのも嫌がって、腹痛になってたな。セイちゃんに心配されて反省してたが」


 そんな事があったとは。ジェイドと出会って、まだ2ヶ月も経っていない。それなのにこの執着ぶりは、獣人としては正常なんだろうか。ここから年月を経てマイルドになっていくなら問題ないが、どちらかというとマイルドヤンデレになっていく気がする。


「ヘリオスさん。前に、ジェイドがマズイ方向に行きだしたら矯正してくれるって、言ってましたよね。今がその時では?」


「まだ大丈夫だ。それに、子どもの頃からベッタリなら、それが当たり前になるから」


 それは洗脳の類では?


「まったく羨ましい。俺ももっと早くにアズをツガイに決めてれば……」


 独り言めいたヘリオスさんのぼやきに、オレは空恐ろしくなる。獣人の大丈夫は人間にとっては大丈夫じゃない可能性に気付いてしまった。となると、ヘリオスさんから見てもマズイ方向にジェイドが行きだしたら、それはもう手遅れなのでは?


 泥棒の立てる音が聞こえなくなっても、別の心配で眠れそうにない。結局オレは、眠れぬ夜を過ごしたのだった。


 


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