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護衛依頼

 ハプニングはあったものの、「マンドレイキャロットの隣で愛を叫ぶ会」は恙無く終了した。優勝者は満場一致で、ホリーさんにプロポーズした男性。泥棒からイチャモン付けられたホリーさんを庇ったのもポイントが高かった。優勝賞金は、2人の結婚資金にするそうだ。お幸せに!

 審査員特別賞は、自作の「人参讃歌」を熱唱してくれた女の子に決定。賞品は特大のキャロットケーキと、領主様の畑で人参採り放題だ。キャロットケーキはオレと領主様のお屋敷のシェフさんの共作。ウサギの形のクッキーで飾って可愛くしたので、とても喜んでくれていた。


 表彰式が済んで、参加者や見物客が三三五五解散してゆく。そんな中、オレ達のパーティは領主様と共に、巨大マンドレイキャロットの解体作業に取り掛かった。泥棒も諦めるデカさだからね。せめて馬車に載せられる大きさにしないと、屋敷に運べない。いや、オレのアイテムボックスになら、ひょっとしたら入るかもしれないけど。そのままだと倉庫にも入れられないし。


「で、どう斬り分ければ良いんだ?」


 ヘリオスさんが領主様に尋ねる。マンドレイキャロットの根っこは、小さい子が描く頭足人に似ている。普通の人参の先端が脚のように二股になっていて、顔のある中央付近から両側に突起のような手が生えている感じだ。


「顔のある部分は一塊で、手足は付け根で斬ってください。あとは適当な大きさで」


「顔の部分は上下を輪切りか?」


「はい。顔の部分は薬効が高いので、他とは別にしたいのです」


 マンドレイキャロットは滋養強壮剤の材料になるらしく、薬師や錬金術師に高く売れるそうだ。既に東レヌス商会から商談が来ていて、右手部分はこの後すぐに商会の倉庫へ搬送されるとか。さすが数カ国に跨る大商会、動きが早い。


 ヘリオスさんは領主様の指示のもと、スパスパとマンドレイキャロットを斬り分ける。腕が良いので斬り口がとっても綺麗だ。


「よし、こんなもんか。で、本当に俺達が、左手まるごと貰っても良いのか?」


 剣を鞘に収めながら、ヘリオスさんが領主様に確認した。ロキが食べたがってるのを知って、領主様がマンドレイキャロットの一部を譲ってくれると言うのだ。しかも両手部分は、顔の次に薬効成分が多いらしい。正直ロキにはもったいない。

 だけど領主様は、もちろんです、と笑顔で頷いた。


「貴方達のお陰で、こうしてマンドレイキャロットを収穫出来たんですから。遠慮なくどうぞ。ただ、代わりに指名依頼を受けて貰いたいのです」


 オレは、マンドレイキャロットの左手に噛り付こうとしていたロキを止めた。これは所謂前金というやつでは? 噛ったら指名依頼を断れなくなるんじゃ。

 ロキをマンドレイキャロットから引き離そうと奮闘するオレ。両手を広げて通せんぼしながら、ヘリオスさんに目で合図する。早く依頼内容聞いてくださいっ、オレがロキを止められているうちに!


「あー、指名依頼の内容は?」


「護衛です。このマンドレイキャロットの顔を、国王陛下に献上しようと思いまして。ただ、先程のような泥棒に狙われないかと心配で。ですので王都まで守ってください」


「領主様とマンドレイキャロット、両方が守る対象か?」


「はい。あとは騎士を1人連れて行きますから、出来れば彼も」


「分かった。相談するから少し待ってくれ」


 一旦話を中断し、ヘリオスさんがこちらに戻る。


「どう思う? 俺は受けても良いと思うんだが」


 アステールさんが首肯する。そして、小声でオレ達に補足説明してくれた。


「アサド国の王都へは、川を1日下れば着きます。行きだけならば、引き受けても良いかと」


「マンドレイキャロットはオレのアイテムボックスで運ぶんですか? 馬車だとヘリオスさんかアステールさんが別行動?」


「そうか、今は家をアイテムボックスに入れられないんだったな。別行動は避けたい。俺達の船に乗って移動だな。交渉してくる」


 ヘリオスさんが離れ、再び領主様と話し合う。結果、マンドレイキャロットはオレのアイテムボックスに入れ、領主様と騎士も船に同乗して、オレ達の船で川を下ることになった。王都まで片道の護衛依頼だ。


「ありがとうございます! では早速、冒険者ギルドで手続きを、いえ、その前にこちらを収納してください」


 さあどうぞと、マンドレイキャロットの顔を指し示す領主様。信用されてるのは有り難いけど、ちょっと心配になる。出会って数日の赤の他人に、貴重品預けて大丈夫?


「あの、オレ達が持ち逃げするとか思わないんですか?」


「思いませんねえ、全く」


 そうですか。オレ達は勿論、人様の物を持って逃げたりはしないけどさ。警戒心ゼロは、領主としては問題じゃないかな。悪い人に騙されるよ?

 オレは念のため、お屋敷の執事さんにも目で問うた。この人は領主様の側近ぽくて、世故長けてそうだから。でも執事さんにも、微笑んで促されたんだよね。仕方ない、巨大マンドレイキャロットの顔、お預かりします。


 オレは渋々アイテムボックスに、マンドレイキャロットを収納した。他人の物を預かるだけでも気が重いのに、それが高価な物だと更にプレッシャーだ。気分は歩く金庫。狙われる!


「安心しろ、ユウ。俺達が必ず守る」


「セイも、お兄ちゃんを守ってあげる!」


「ボクも、セイちゃんと師匠をお守りします!」


「大丈夫です。ユウ君が死んだらマンドレイキャロットを取り出せませんから、殺される事はありません」


「アステールさん……わざと不安を煽らないでください……」


 オレ達の遣り取りを聞いて、周りの人達が笑う。オレにとっては笑い事じゃ無いんですけどね!

 

 溜息をつくオレの横で、ロキがマンドレイキャロットの左手に噛りつく。ポリポリと音を立てて咀嚼するロキ。わざとだな? もう断れないよって笑ってるな?

 我も我もとマンドレイキャロットを噛る馬達に、オレはもう一度、大きく溜息をついたのだった。


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