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愛を叫ぶ

「ただ今より、『マンドレイキャロットの隣で愛を叫ぶ会』を開催します!」


 領主様の開会宣言と同時にパラパラと拍手が起こる。青空にイベントの開催を知らせる花火が上がり、人参畑の周りには露店が並ぶ。巨大マンドレイキャロットを囲んで、お祭りの始まりである!


 2日前、マンドレイキャロットの好みが純愛物語だと判明し、ジェイドの話に聴き入っている隙にマンドレイキャロットを収穫しようとしたのだが。


「ここで収穫してしまうと、ヘリオスが勇者だとの風評被害に晒されかねません」


 アステールさんからストップが掛かった。オレも、ああ有りそう……と思ったし、他の面々も同意した。そのため、マンドレイキャロットの収穫は、大勢の人の目の前で行うことになったのだ。


 そこで急遽、人を集めるためにイベントを開催することが決まった。どうせなら「マンドレイキャロットが好きなのはお色気話じゃなくて、純愛物語だよ!」ってのも周知しようって事になり、愛を叫ぶ人を募集することに。領主様の虎の子の大金貨を優勝賞金にしたので、短期間にも関わらずかなりの人数が集まった。飛び入り参加も可能である。


「それでは、エントリーナンバー1番、ジェイド君!」


「はいっ!」


 ジェイドがマンドレイキャロットの近くに設置されたお立ち台に上がり、マイクを渡される。一番手のジェイドは、話す内容の目安となるよう参加をお願いした。イベントの主旨を理解していない人がいたら、ジェイドの話を聞いて軌道修正してもらいたい。お子様連れも多い中、領主様主催で下ネタ暴露大会はやらないって普通なら解るだろうけどさ。賞金に目が眩んで理解出来てない人が居るかもしれないからね。


「ボクの大切なセイちゃんは、世界一可愛くて優しいです! 昨日一緒にクッキーを作ったら、一番上手に焼けたのをボクにくれました。ボクも、一番きれいな形に出来たのを、セイちゃんにあげました。セイちゃんが、ありがとうって言ってくれたので、ボクはとっても嬉しくて幸せでした。これからも、ずっとずっとセイちゃんだけが大好きです!」


 堂々と発表し終わり、ペコリと一礼するジェイド。大勢に注目されて緊張しただろうに、はっきりハキハキ発表出来てた。壇上から降りるジェイドに、オレは惜しみない拍手を送る。気分は参観日の父兄さんだ。

 周囲の人達も、ニコニコしながら拍手してくれている。そして肝心のマンドレイキャロットも、葉っぱからキラキラエフェクトを出している。これで後続の参加者達も、「あ、こんな感じで良いんだ」と解ってくれたことだろう。


「ありがとうございました、ジェイド君。参加賞のキャロットケーキを貰ってね。続いては、エントリーナンバー2番──」


 司会進行役の人が次の参加者をお立ち台に上がらせる。ニ番手は領主様の家の執事さん。この人は愛犬への愛を叫んでいる。そういうのも有りか、キラキラエフェクト出てるしね。これで参加ハードルがぐっと下がったようで、飛び入り参加の列が伸びている。ジェイドが参加賞のキャロットケーキを、セイナと半分こして食べてるのを見て、列に並ぶ子どもも居るようだ。キャロットケーキ、足りるかな……。


 本日のオレは運営スタッフとして、キャロットケーキ係を担当している。セイナも一緒に、叫び終わった人にケーキを渡す係だ。ジェイドが合流したので、ちょっとだけ持ち場を離れて審査員席へ。審査員長の領主様を始め、町の有力者が並ぶ中、末席に座る鶏仮面のアステールさんが異彩を放っている。


「アステールさん、ケーキが足りなくなりそうなんで、席を外します。セイちゃん達をお願い出来ますか」


「わかりました、代わります。そのままユウ君が特別審査員をしませんか?」


「お断りします」


 特別審査員、ヘリオスさんが頼まれたのに逃げたんだよね。今回は裏方に徹するからって、ヘリオスさんは馬達と共にマンドレイキャロットを引っこ抜く係をしているのだ。

 朝から参加者や見物客からは見えない、マンドレイキャロットの後側でスタンバイしているヘリオスさん。領主様の合図で、マンドレイキャロットに結んだロープを引っ張る予定だ。力仕事だからヘリオスさんがうってつけではあるけれど、全力で勇者の二つ名から逃れようとしてるよね。


 そして、ヘリオスさんからスライドして特別審査員になったアステールさんも、気乗りしない様子。だけどオレにはキャロットケーキの追加を作るお仕事があるから。という理由を盾に、審査員席から逃げるオレ。領主様のお屋敷の厨房をお借りして、追加のキャロットケーキを作りまくった。


 出来たてのキャロットケーキをアイテムボックスに収納し、イベント会場に戻って来ると、何やら異様な緊張感が漂っていた。お立ち台の上には若い男性。その前に、友人らしき人達に背中を押され、1人の女性が連れて来られる。先日会った、馬の言葉が分かる女性だ。今日も乗馬服を着こなして格好良い。


「ホリー」


 女性を壇上に引っ張り上げ、若い男性が呼び掛ける。乗馬服の女性はホリーさんという名前らしい。男性がホリーさんの前に跪く。これはアレだよね、絶対にそうだよね。


「ホリー、好きだ。子どもの頃からずっと好きだった。おれと、結婚してくれ!」


 オオー! 会場がどよめく。勇者だ。本物の勇者がここに居る! 

 会場中が固唾を呑んで見守る中、ホリーさんは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯く。そして、ゆっくりと膝をつき、目の前の男性にキュッと抱きついた。

 これは、これはイエスってことだよね?


 うおおおおおおおーっ!


 会場からは大きな歓声と拍手喝采。照れる2人を祝福するように、マンドレイキャロットからキラキラエフェクトが降り注ぐ。


「今です!」


 スポーン!


 キャアアアアアアアアァァァァァ……


 黄色い悲鳴を上げながら、桃色のマンドレイキャロットが宙を舞う。根っこの中ほどにあるマンドレイキャロットの顔は、友達の恋バナを聞いた乙女そのもの、赤く頬を染めていたのだった。



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