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異世界で米作りプロジェクト

 アステールさんの予想は正しかった。朝一番で岩長さんがいる独立国へ発つというリヒトさんに、おにぎりを届けに行くと、寝不足でクマができた顔で頼まれた。


「昨日のおにぎり、なかなかの美味だった。石竜の聖女への定期納品時で良いので、僕にもおにぎりを納品してもらえぬだろうか」


 オレは快く引き受けた。1ヶ月に10個で良いらしいからね。その程度、リヒトさんがしてくれてる事への手間賃にもならない。念の為にと作っておいたおにぎりの包みを追加で渡し、天馬に乗って空を駆けるリヒトさんを見送った。お気をつけてー。オレのおにぎり、独立国との外交の一助になれば良いんだけど。


 それから東レヌス商会の支店に立ち寄って、大量の食料品を購入。殻付きの大麦も買ってみた。今回はリヒトさんに直接渡せたので、石鹸の納品は無かった。その代わり、崖の上の屋敷で作った組紐を売ったのだが、やはり組紐だけでは買い取り価格がそれなりだ、残念。


 家に帰ると、甲板でアステールさんが待ち構えていた。


「如何でした?」


「美味しかったそうです。米作り、試しましょう」


 リヒトさんへの納品数、控えめだったけど、今後増えないとも限らないからね。それに、ただでさえ多忙なリヒトさんに、長期に渡っておにぎり定期便窓口をお願いするのは申し訳ない。

 オレの返答に、アステールさんが破顔した。眩しっ!


「そう言ってくれると思ってました! 今すぐ取り掛かりましょう!」


 珍しくテンション高めなアステールさんが見守る中、オレは『種籾』を『ごっこ遊び』に設定した。あっさり設定出来、まずは第一関門突破。セイナにお客さんになってもらい、買ったばかりの大麦を種籾に変化させる。これも成功。だが問題はここからだ。

 オレは昨夜記憶の底から引っ張りだした、米作りについての知識を披露する。


「ええと……まずは、この種籾を、水と塩水に浸けて選別します」


 軽くて水に浮く種籾は、芽が出ないやつなのだ。それから病気のやつも浮いてくるはずなんだけど。オレのスキルで錬成したものだからか、全く浮いてこない。

 

「じいちゃん家でやった時は、けっこう浮いてきたんだけどなぁ」


「ユウ君のお祖父様ですか?」


「はい。オレの実家はおにぎり屋だったんですけど、祖父母が作った米を使ってたんです。家が近所だったんで、オレも農繁期には、よく駆り出されてました」


 米作りは大変だから、農家の親戚の子は、猫の手として借りられるのだ。拒否権はない。ちなみに農家の子になると、猫の手ではなく立派な働き手だ。


 水を捨て、塩水に浸けてみても浮いてくる種籾は無かったので、水洗いして次の工程へ。次は種籾の消毒だ。日本では薬剤でやっていたけど、


「セイちゃーん、これに『きれいきれーい』してー」


「はーい!」


 ピカッと光って、はい終了。セイナがスタンプ帳を持ってくるので、ポンッと判子を押してやる。ありがとー!


「あとは、これを乾かしてから、また水に浸けます」


「一度乾かすのは何故ですか?」


「すみません、理由は知らないです」


「また水に浸ける理由は?」


「確か……水分を吸収させて、細胞分裂を促すんだったかな」


「サイボウブンレツとは何ですか?」


 アステールさんが沢山質問してくるけど、オレも聞きかじりのうろ覚え知識なんでね、知りません、解りませんが多くなる。しかも、オレの知識は祖父のやり方についてだけなので、他のやり方があるかもしれないし。正直言って、頼りにならない。

 それでもアステールさんは楽しそうだ。話しながら片手でメモを取り、片手で風魔法を種籾に吹きかけ、乾燥を助けている。マルチタスク凄い。


「ユウ君、この種を幾つかのグループに分けて、違う条件で育ててみても良いですか?」


「好きにしてください。省けるところや魔法が利用出来るところがあれば、栽培が楽になりますし」


 お米を作るの、本当に大変だからね。虫とか病気とか鳥とかと戦い、水を管理して、天気を気にして、やっと稔って収穫しても、そのままでは食べられなくて。滅茶苦茶手間が掛かる作物だよね。

 

 アステールさんは種籾を数グループに分けて、メモを付けている。そしてジェイドを手招き。ジェイドの水魔法で種籾に吸水させるグループを作るようだ。


「アステールさん、これ、かなり難しいです」


「頑張りなさいジェイド、貴方はやれば出来る子です」


 アステールさんに無茶振りされたジェイドが、情けない顔で助けを求めてくるけれど、オレもジェイドはやれば出来る子だと信じてる。お昼ご飯に焼鮭のおにぎり出すから頑張れジェイド!


 こうして始まった、異世界で米作りプロジェクト。オレが唯一の有識者だから、責任重大だ。でも、細かいとこはアステールさんが引き受けてくれるから、安心して見ていられる。これで秋には新米が、って、


「あ!」


「如何しました、ユウ君?」


「いや実は、お米って春に種撒いて秋に収穫する作物で」


 今は冬前、米作りする季節じゃなかったよ。


「では、春まで待たなければいけないと?」


「……外では作れません。だけど、テントを使えば……いけるか?」


 以前、ハウス栽培で2月に収穫する米のニュースを見た気がする。オレのテントの設定温度を上げて、バケツ稲スタイルで栽培すれば、冬でも稲作出来るんじゃないか? オレのテントなら虫も鳥も入れないし。テントの出し入れが出来なくなるから、陸路を取れなくなるけど。この先も川を下る予定だから、テントで稲作、有りじゃないか?


「セイちゃん、ヘリオスさん、会議ー!」


「何だ何だ?」


 オレの提出した、「特殊テント内での稲作実現の可能性と試験運用について」議案は、全会一致で可決された。早速甲板に出したテントに、小分けにした種籾を運び込むアステールさん。テントが落ちたりしないよう、船にロープで固定しながらヘリオスさんが呟いた。


「アズ、随分と楽しそうだが、テントに篭って出て来なくならないよな……」


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