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この世界にない植物

 夕食のおかずは、半熟目玉焼き乗せハンバーグになった。セイナのリクエストだ。半日でスタンプ10個を集めたセイナ、頑張り屋さんである。

 オレとしては、週一くらいのリクエスト頻度になると思ってたんだけど。皆セイナ相手だと、判定が甘くなるんだよ。特にジェイド。オレより甘くて、セイナがおやつの後で歯磨きしただけで、ポンッと判子を押していた。

 セイナがまた、頑張ったよアピールが上手なんだよね。「今から〇〇を頑張ります!」と宣言して、終わったら、「セイ、頑張ったよね?」とキラキラの笑顔で見上げてくるんだもん。喜んで判子を押しちゃう。初日だし、そのうちスタンプ熱も治まってくるだろうからと、ポンポン判子を押していたら、あっという間にスタンプ帳がニャンコで埋まっていった。


 こうして一番乗りでメニューリクエスト権を手にしたセイナ。リクエストしたのがただのハンバーグではなく、目玉焼き乗せ、という所がちゃっかりしている。しかも半熟目玉焼きという拘りぶり。食に対するセイナの姿勢が如実に現れている。しかも、作るのを手伝って、更なるスタンプ獲得を目指す上昇志向。将来有望だね。

 対してジェイドは、セイナと同じ事をしているのに、全く頑張ったよアピールしないせいで、スタンプがいまいち貯まっていない。オレ達はセイナとジェイド、同じように判子を押してたんだけど、ジェイドがセイナに押したぶんが無いからね。まだスタンプ5つなのだ。


「ジェイドもセイちゃんみたいに、ボク頑張ったよって主張して良いんだよ?」


 挽肉をコネコネしているジェイドに言うと、手を止めて、はにかみながら答えてくれる。


「いいえ、ボクは好き嫌いないし、師匠のご飯は何でも美味しいので。自分のリクエストよりも、セイちゃんが好きな物を食べてるのを見たいんです。だから、いっぱい判子押しちゃいました」


 おお、ジェイド、オレの素人料理を褒めてくれてありがとう。しかも自分よりもセイナの幸せ優先か? 大人だな。速攻で町に日記帳買いに行ったヘリオスさん、見習って。


 ヘリオスさん、如何してもおやつのリクエストがしたかったらしく、トールを走らせ日記帳を買ってきた。3冊。ヘリオスさん、アステールさん、そしてオレのぶんだ。

 オレは自分が食べたい物は優先して作るから、スタンプ帳は要らないと言ったんだけどね。オレがスタンプ集めたら、ヘリオスさんとアステールさんとで、オレの食べたい物を作ってくれるらしい。


「といっても、俺もアズも料理は得意じゃないからな。その辺を考慮してリクエストしてくれ」


 その気持ちだけで嬉しいよね。ということで、オレもスタンプ集めに参加することになった。スタンプ20個集まったら、何頼もうかなー。


「師匠、卵、大丈夫ですか?」


「あ、しまった焼き過ぎた」


 火が通り過ぎた目玉焼きはオレのにして、半熟目玉焼きを作り直した。


 夕食時。食べながら、岩長さんからのおにぎり追加注文の話題が出たので、ついでに今日一日考えていたことを相談してみた。


「実は、お米の生産普及が出来ないかなと思ってるんですが。この世界にない植物を持ち込むのって、有りですかね」


 可能なら、米作普及を岩長さんに託せないかなと。自分で米を作れれば、オレにおにぎり注文する必要も無くなるからね。だけど、自然環境的にOKなのか、判断がつかなくて。地球でも、外来種による環境破壊とか、あったから。


 アステールさんが、半熟目玉焼きにナイフを入れるのを止めて、しばし考えてくれている様子だ。半熟玉子は食べられるようになったアステールさん。親子丼とかオムライスの、トロッとした玉子も気に入ってくれたのだ。生卵はまだ挑戦してくれないけど。


「たぶん大丈夫だと思います。昔、花の種を持ち込んだ聖女がいて、聖王国の国花として育てられていますから。ただ、その花は色が変わったとか……お米も性質が変化する可能性はあります」


 前例があるなら米作り、試しても良いかな。だけど、色が変わるくらいならともかく、味が変わってしまうと米を作る意味が無くなる。


「ですがユウ君、お米の種は如何するのですか?」


「あ、種籾、ええと、お米の種を種籾っていうんですけど、その種籾は作れると思うので」


 『ごっこ遊び』のMP(まねっこパターン)、まだ空きがあるからね。『種』だと範囲が広くて設定出来ないかもしれないが、『種籾』なら可能だろう。MP10個のうちの2個を米関係に使うのは、もったいない気もするが、このままずっと岩長さんにおにぎり献上するのもね。オレの『ごっこ遊び』は子どもが協力してくれないと発動しないから、セイナ達が大人になったら如何するんだって問題もあるし。


「ただ、オレが出した種籾、発芽しないかもしれなくて。オレの能力の制限の、生き物不可に引っ掛かりそうで」

 

「確か、生き物は変化できないし、生き物に変化もできない、でしたか。植物も含まれる場合があるのでしたね」


「よく覚えてますね、アステールさん」


 オレの『ごっこ遊び』に制限があることは、初めてアステールさんのご尊顔を拝した日に話した覚えがあるけど。記憶力抜群だな、アステールさん。顔が良くて頭も良くて魔法も凄くて、天はアステールさんに色々と与え過ぎでしょ。その上ヘリオスさんという最高の伴侶まで居るし。苦労してるの知ってるから、羨ましくはないけどね。


「ふむ。つまり、ユウ君が作り出す種籾は生きていない、よって芽が出ないと。ですが、摘み取った花は素材に使えていましたから、生き物に含まれない。生き物には含まれない切り花も、水に浸けていれば花が咲くこともありますし……生きてはいないが、死んでもいない……植物の種が仮死状態だと考えれば、発芽の可能性も……」


 1人で思考の海に沈もうとするアステールさんを、ヘリオスさんが太ももを叩いて引き戻す。


「アズ、実験したいんだろ」


「勿論です。ですが、私の研究心を満たしたいだけではありませんよ。リヒト様がおにぎりに興味をお持ちのようでしたから。そちらからも注文が入るかもしれません」


「あー、そうなると、また大量注文か?」


「そうです。ますますユウ君の負担が増えます。更に、リヒト様から他の方々にまで広がると……」


 皆が一斉に、オレに注目する。いや、セイナだけはもきゅもきゅと、一心にハンバーグを食べている。癒やし。

 オレは膨らんだセイナのほっぺたを見ることで、他の皆から目を背けた。だって、皆の目が……このままじゃ過労死まっしぐらお気の毒様って言ってる……。


「ですから、ね? 実験しましょう!」


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