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苦労を掛けると思うので

 作業は順調に進み、崖の上のお屋敷はほんの数日で完成した。常時稼働型結界で安全性を担保し、全館自動空調システム完備、1階と2階の2ヶ所にバスルーム、トイレは浄化式水洗トイレと王宮並みの設備に加え、栞ちゃんの部屋は完全防音、冷凍冷蔵庫設置、隣室は図書室といたれりつくせり。オレの実家よりも快適な空間になっている。これで文句があるならお手上げだ。


「ユウ、自分家でもないのに、ここまでやるか?」


 このセリフ、何度言われたか分からない。途中までは数えてたんだけど、アステールさんやジェイド、大工さんに東レヌス商会の商人さん達にも会う度に言われたからね、数えるのは止めた。


 いや自分でも、ちょーっと調子に乗り過ぎたかなとは思ったんだけどさ。インテリアとかにもこだわってると、だんだん楽しくなっちゃって。それに、中途半端な家にして、あれこれと文句をつけられる毎に改装するよりは、初めから最高のものを作って「これ以上は無理だから文句があるなら自分でなんとかしろ」と叩き付けるほうが楽かなと。

 そんなオレの思惑に、仲間達は深く頷いて、全面的に同意してくれた。


「確かに事あるごとに呼ばれて手を取られるのは面倒だな」


「呼ばれても無視すれば良いのでは?」


「無視しても、執拗く絡んでくる人も居ます」


「石竜の聖女と同様の魔法契約が結べれば良いのですが。応じないでしょうね」


 岩長さんは、特効のおにぎりさえ与えれば良かったから、楽だったよね。おにぎりは食べれば無くなるし。だけど、栞ちゃんにとっての特効である本は、読んでも無くならないし、与えれば栞ちゃんの力になる。例え同様の魔法契約が結べたとしても、栞ちゃんが本を手にした途端、「魔法契約解除」とか「マジックキャンセル」とか荒業使って無しにされそう。つくづく面倒な相手に目を付けられたよね。

 

 だけどそれも、もう少しの間の辛抱だ。

 リヒトさんの協力のお陰で、人間に対応した転移魔法陣の記載された本も手に入ったし、栞ちゃんの就職先も見つかった。小説から学術書、絵本、図鑑など、幅広く扱っている出版社である。

 そして、特に注文を付けられてはいないけど、栞ちゃんの身の回りのお世話をする人も手配済み。栞ちゃん、自分で炊事洗濯掃除する気、無さそうだから。やる気があったとしても、ここには電子レンジとか全自動洗濯乾燥機とかロボット掃除機なんて無いから、家事は重労働なのだ。浄化魔法が使えるなら洗濯と掃除は解決だけど、ご飯はね。人が作るしかないからね。お母さんが一緒に来れば、料理してくれるのかもしれないけど、栞ちゃん、たぶん1人で城から逃げるつもりだと思う。自分の事しか言ってなかったし。


 栞ちゃんの理想は、自分は好きな本に囲まれてダラダラゴロゴロ、家事とか面倒臭い事は全部人任せって生活なのだろう。そして面倒臭い事を丸投げする相手に選ばれたのがオレ。一応仕事するとは言ってるけど、それだって、ちょっと怒られたり嫌な事があったら直ぐに辞めそう。だから、栞ちゃんを紹介する出版社には、前もって「こんな仕事をさせて欲しい」って話をつけてある。出版社の迷惑にならないように気を遣った。


 それ以上に気を遣ったのが、栞ちゃんのお世話をお願いする人の人選だ。栞ちゃん、我儘そうだから。特に食事は毎日のことだから、料理が得意で、かつ栞ちゃんがイチャモンつけてきても気にしない、喧嘩しない、おおらかな人を探してもらった。肝っ玉母ちゃんタイプと柳に風タイプ、どちらにしようか迷ったが、肝っ玉母ちゃんは栞ちゃんとは相性が悪そうだったので、柳に風なお姉さんに決定。お手伝いとして近隣の孤児院から、男女の双子をスカウトした。この3人は住み込みで、栞ちゃんとの共同生活になる。


 家政全般をお任せする3人には、既に屋敷で生活してもらっている。台所とか洗濯場とか、実際に使ってみないと使い勝手が分からないからね。使いづらい物や不便だなと感じる事、こういった物が欲しい等の要望を出してもらい、都度対応して快適度を上げている。栞ちゃんが引っ越してきたら、苦労を掛けると思うので。


「そうかなー? ここでの生活、天国みたいだけど!」


 双子の片割れの女の子が言えば。双子のもう一人、男の子も同調する。


「そうだよー! ここでの生活、天国みたいだよね!」


 ネーッ! と笑顔で頷き合う双子ちゃん、10歳の有翼人だ。見た目が天使そのものな子達が天国とか言ってると、確かにそうだなと思えてくる。なにせ空に浮かんでるような場所なので。

 

「だけど、明日からここに来る子は、何というか」


「分かってるわ! たまに夢と現実の区別がつかなくなる、可哀想な子なのよね!」


「可哀想だよね! でも現実は厳しいから、夢に逃げたくなっても仕方ないよね!」


 隣国から逃げてくる聖女だとは言えないので、栞ちゃんの身元は適当に誤魔化していたんだけど。何故かこの子達にとって、栞ちゃんは「高貴な生まれだけど心が病気になったので療養中の子。空想の世界に触れると症状が悪化するので本を与えてはいけない」という事になっていた。アステールさん辺りが情報操作したのかも。都合が良いので誤解はそのままにしている。


「心配なさらなくても、上手くやっていきますわ。お嬢様のお好みだというお料理も、ずいぶん覚えましたし」


 ほんわか笑うお姉さんには、米を使わない日本食を色々作れるようになってもらった。おにぎりは秘密にしている。栞ちゃんとの関わりを断てなくなるのは困るから。岩長さんとは仲悪そうだから、伝わってないと良いなー。


 明日は月末最終日、魔法陣が載った本を探すように言われた期日だ。あの日から本の形をしたものには極力近寄らず、セイナの絵本もアステールさんの魔導書も封印したまま、栞ちゃんには連絡を取っていない。だけど、何処かから本がバビュンと飛んで来て文句を言い出したりもしなかったので、栞ちゃんは本自体を遠隔操作は出来ないのだろう。それでも書店の店先の本や、冒険者ギルドの棚に並んだ魔物図鑑を通して見張られているのかもしれないが。


 いよいよ明日だ。栞ちゃん、オレの大切な仲間達を脅迫のネタにした事、きっちり落とし前つけてもらうからな!

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