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洋館と対峙する

 冒険者ギルドでリヒトさんに連絡を入れ、「書物の聖女逃亡幇助作戦」について報告。協力を求めると、「良いとも!」と二つ返事で引き受けてもらえた。

 リヒトさんの情報によれば、栞ちゃんの嫁ぎ先候補は聖王国の「南の辺境伯家」らしい。国境を隔ててサウスモアと隣接する領地を有しており、ここに諜報に適した能力を持つ栞ちゃんが嫁ぐのは、サウスモアとしては警戒すべきことだとか。だからオレ達がやらかすのは大歓迎だけど、積極的に手助けすると内政干渉になってバレた時に拙い。裏から手を回すから頑張れ! と激励された。


 オレとしては、あまり政治的な事に関わりたくはないんだが。まあ、聖女召喚自体が思い切り政治絡みだから、そこに巻き込まれた時点で諦めるしかない。そしてリヒトさんの返答が、冒険者ギルドマスターというよりも、国の重鎮っぽいのも気のせいだと思いたい。だけどリヒトさん、伯爵様を顎で使える人だからな……。


 リヒトさんからの情報は他にもあって、先日、聖王国の「東の辺境伯家」が独立を宣言したそうだ。そして、東の辺境伯から独立国国王になった青年の隣には、聖王都から出奔した「石竜の聖女」の姿があり、聖王都と独立国を繋ぐ街道にはロックドラゴンが居座っているという。


 岩長さん、やりたい放題だな。そしてロックは未だ岩長さんから解放されてないんだな。もうこれ岩長さんがロックを操ってるの確定だろ。ドラゴンは石竜(トカゲ)扱いなのか? それとも石竜(ロックドラゴン)が特殊なのか?


 どちらにしろロックドラゴンの存在は脅威なので、サウスモアは早々に、独立国と協定を結ぶことに決定したそうだ。東西に長いサウスモアを四半刻で横断できる機動力、敵に回したくないよね。

 あとは北の方もきな臭いとかで、聖王国は近々瓦解するんじゃないかとリヒトさんが言っていた。あの国は、国としては平和で豊かだったから、王朝が変わるくらいで落ち着いて欲しいところだ。戦争とかは勘弁してもらいたい。栞ちゃんが急いで城から逃げたいのも、そこら辺の緊迫した空気を肌で感じているって理由もあるのかも。


 そんな頭痛がするような情報は頭の隅に置いといて、今日は新しく買った家に来ている。栞ちゃんのお引っ越し先である。


「お兄ちゃん、ここに住むの?」


 セイナが不満げだが、オレ達が同居する予定は無い。


「違うよ。オレ達にはエーコさんに貰った家があるからね。これは他の人のお家」


 ホッとした顔のセイナ、だけど今度は心配そうに言った。


「でもこのお家、ボロボロだよ?」


 そうなのだ。この家、何十年と人が住んでおらず、とてもボロい。そのため格安だったのだ。2階建ての洋館で、昔はさぞかし立派で瀟洒な建物だったろうと窺えるので、蜘蛛の巣だらけの今はかえって不気味。お化け出そう。ひと目見た時からジェイドがオレにピタッとくっついて離れない。ジェイドは勇敢な子だけど、幽霊とか呪いとかは苦手みたいなんだよね。


 そして、この家が格安だったもう一つの理由が、立地である。なにせ不便な場所にあるのだ。人嫌いな魔法使いが暮らすために建てた家だとかで、誰とも関わりたくねえ! って思いだけで立地を選んだのだろう。垂直にそびえる岩の天辺に家がある。細長いロウソク岩に、ポツンと灯る赤レンガの灯火の家といった趣き。メテオラとかカツヒピラーとかを思い浮かべてもらったら、近いと思う。


「もしかして、お化け屋敷なの?」


 思いついたセイナがワクワクしている。うちの妹は心臓が強いよね。


「違うよ」


「えー、お化けに会いたかったのにー」


 セイナの心臓はオリハルコン製かな? ちっとも怖がっていないセイナに触発されたのか、ジェイドがオレから離れ、洋館と対峙する。尻尾が足の間に挟まっている。怖いけどセイナの前だから、勇気を振り絞ってるんだね!

 そんなジェイドとセイナの後ろに立ち、オレは2人の肩に手を置いた。ジェイドがビクッとする。ごめん。


「あー、セイちゃん、このお家に住めるように『きれいきれーい』して欲しいんだけど、頑張れるかな」


「うん、がんばる!」


「アステールさんに付いていってもらってね。ジェイドも一緒に行ける?」


「は、はいっ!」


「無理しなくて良いからね。足元気をつけてー」


 セイナの『きれいきれーい』には若干のリペア作用もあるから、細かい傷とか破損とかは無くなるはずだ。壊れたままだった部分は、後で大工さんを呼んで修理を頼むことになっている。セイナが早速『きれいきれーい』を使ったようで、中から光が溢れてくる。この光量は、かなり張り切ってやってくれているようだ。


「じゃ、ヘリオスさんは外周りをお願いします」


「おう。ひとまず二重にロープで囲む感じで良いか?」


「はい。柵は後で、子ども達が落ちないように囲むの優先で」


「了解だ」


 ここから落ちたら死ぬからね。オレはここに来るまでの道筋を思い出し、ブルリと身震いした。細長い岩の外周をぐるぐると登る螺旋階段が、この場に至る唯一の道。岩肌に穿たれた階段の幅は1メートルもなく、手すりも無い。情けなくも途中で足が竦んだオレは、セイナと一緒にヘリオスさんに運んでもらったよ。


「お兄ちゃーん!」


 2階の窓から身を乗り出して、セイナが手を振っている。手を振り返しつつ、落っこちやしないかとヒヤヒヤ。


「セイちゃん、危ないから!」


「大丈夫ー! 見てー! きれいになったよー!」


 確かにお化け屋敷擬きだった洋館は、見違えるほどの美しい外観になっていた。セイナの浄化魔法凄いな。

 玄関から中に入ると、ちょうどセイナ達が正面の階段を降りてきたところだった。最後の2段目からセイナがぴょんと飛び降り、勢い余って転けそうになるのを受け止める。オレの腹に埋まった顔を上げ、セイナが「褒めて!」と目で訴えてきた。もちろん褒め倒しますとも。


「スゴイぞセイちゃん、頑張ったな! ありがとう!」


 エッヘンと胸を反らすセイナに代わり、今度はオレの番だ。残っていた家具を整理し、魔道具を設置して快適な家に整える。目指すは現代日本の生活水準である。


「ユウ君。さすがにこれはやり過ぎでは。王宮並みですよ」


「さすがアステールさん、全部王宮で使ってた魔道具らしいですよ!」


 リヒトさんが東レヌス商会経由で送ってくれたんだよね。王宮に伝手があるリヒトさん、深く考えるのは止めとこう。

 ともあれアステールさんの言う通り、王宮並みの設備を整えた家なのだ。栞ちゃんに文句は言わせないぜ!

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