99話 ハートブレイクに私、ぼっち(SIDE YUZUHA)
「かなと……?」
混雑した更衣室での着替えを済ませて、2人が待つ海の家にやってきたのはいいけど……
私の目の前で、奏翔がアリアさんの豊満な胸を堪能をしている最中だった。
私から悍ましい光景を目の当たりにした私はショックで力が抜けてしまい、持っていたバッグを無造作に落としてしまう。
「ゆ、ゆずは……!?」
ドサというバッグが床に落ちた音で気づいたのか奏翔はこちらを見ていた。
その顔は、よほど柔らかい感触を堪能したのか、気持ち良さで呆けているように見える。
いや、そんなことはどうでもいい!
何で奏翔がアリアさんの胸を堪能しているの!?
しかも私がいない時に……
「あ、ユズっちおかえりー」
倒れ込む奏翔の隣からアリアさんの姿……。
ちょっとまって、2人とも近くで座り込んでるってどういうこと……?
なんか、アリアさんも若干顔が赤い感じがしてるのも気のせい……?
しかも彼女のパーカーしたのキャミソールの肩紐が落ちてるし……
その時、私の脳によからぬ疑惑が巡り始める。
よくよく考えてみたら、奏翔とアリアさんって結構仲が良かった気がするし……
それにテスト休みから奏翔が外出するとアリアさんとよく会っていたと話していたし。
はは……っ
そっか…
そうだよね……
女の私からみても、アリアさんは顔もスタイルもいいし。奏翔は言わずもがなカッコいいし……。
この2人ならバランスもとれてるし……
少なくともこんな中学、下手したら小学校高学年から体系が変わらない私なんかより……
「……どうした、柚羽?」
奏翔はゆっくりと立ち上がってこちらにくると手を伸ばしてきた。
けど、私は……
「わ、私……邪魔みたいだから適当にぶらついてるから! 終わったらLIMEで呼んで!」
奏翔の手をバシッと振り払うと、震えた声で2人に必要なことを伝えると、踵を返して海岸の方へと走り出した。
「柚羽ッ……!」
後ろから奏翔の叫び声が聞こえたが、足を止めることなくそのまま走り続けた。
頬に熱い雫を感じながら……
「うぅ……ぐず…………うわあああああん!!」
とにかく2人から逃げたくて無我夢中で走った。
どれくらい走ったのかわからない……
こんな自分、誰にもみられたくなかった。
——そんな気持ちが強かったのか、無意識のうちに人気のない岩陰の中で座り込んだ。
できることなら奏翔と2人で入って一夏の思い出作りに興じたいところだったけど……
落ち着くと壊れた蛇口の様に目から大量の涙が流れだしていた。
大切な奏翔が好きな人を見つけたのであれば、お祝いの言葉をかけてあげるのがいいんだけど……
悲しい気持ちが押し寄せてきて、お祝いの言葉なんて口に出すことなんかできなかった。
——その相手が自分ではないことに苛立ちや悲しみ……いろんな感情が混じり合って
泣くことしかできなかった。
「やだよ……傍にいたいよ……かなとぉ」
そして私は子供の様に大声をあげて泣き出していた。
「……こんなところにいたか」
ふと、声がした方へと顔を向ける。
そこには呆れた顔の奏翔が立っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「柚羽ッ……!」
手を伸ばすが、俺の腕を振り払った柚羽はそのまま海の家を飛び出していった。
すぐに追いかけたかったが、直前にみた柚羽の顔を見て俺はその場に立ち尽くしてしまう。
——柚羽が振り払った時にぶつかった右手の甲を左手で抑えながら。
「追いかけないの?」
戸惑っている俺に対してその後ろでアリアが平然とした顔で俺を見ていた。
「……あんなことしといてよくそんなことが言えるな」
俺はハーフ女の顔を睨みつけながら答える。
「むしろ感謝してほしいんだけどなあ」
アリアは両手をすくめながらため息混じりに答える。
その動きや言葉は外画ドラマの登場人物を彷彿とさせる。
「……どこに感謝する理由が——」
「——自分の気持ちをユズっちに伝えるチャンスを作ったことにだよ」
いつもならヘラヘラと接してくるアリアだが、今回ばかりはそんな素振りなど微塵もない。
「……まだ気持ちの整理が——」
「もう1ヶ月以上同じこと言ってるけど、いつになったら気持ちの整理つくの? はっきり言うと、そう言って逃げてるだけにしかみえないよ?」
この女は俺の心を読めるのか、それとも自分が知らないだけで心の声が駄々漏れてるのかと思えるぐらいのド正論を受けて何も言えなくなっていた。
「こうでもしないとカナトっち動かないでしょ? それともこんな状況になっても『整理がつかない』って言い訳してユズっちを放置する? それなら私が行くけどそれでいいの?」
アリアはそれだけ告げると、立ち上がった。
「ちなみに私が言ったら、ユズっちのこともらっちゃうよ?」
そう告げながら俺の目の前を通り過ぎようとするアリアの腕を掴む。
「……俺が行くから、荷物見ててくれ」
淡々とした口調でアリアに伝えると、柚羽を探すために海岸へと向かって走り出した。
「よかった……友達の大切な人奪うようなことしなくて済んだ」
後ろでうっすらとアリアの声が聞こえた気もするが、波音にかき消されて俺の耳に届くことはなかった。
もうじき太陽が海岸線に沈もうとしているなか、1人ですっと海岸を走り続けていた。
——そう言えば昔、何が原因で忘れたが柚羽とケンカして家を飛び出したアイツを探したことがあった。
たしか、その時に柚羽を見つけたのは……
過去のことを思い出しながら走っていくうちに、俺の目の前には人気のない岩場が映っていた。
「……そういやあの時も、こんな人気のない場所で泣いてたな」
過去のことを思い返しながら岩場へと近づいていく。
あの時は近くにあった公園に置かれた遊具の中で座り込んで泣いていたんだっけか……。
「やだよぅ……傍にいたいよ……かなとぉ」
岩陰から誰よりも聞き覚えのある声が聞こえてきた。
岩場の影に行くと、あの時と同じ様に体育座りで体育座りで下を向いたまま泣いている柚羽の姿があった。
「……こんなところにいたか」
声をかけると、柚羽は顔をあげてこちらを見ていた。
ずっと泣いていたのか、顔がクシャクシャになっている。
「……アリアさん放置しちゃっていいの?」
今にもかき消されそうな声で柚羽は話していた。
「私のことは気にしなくていいから、思う存分にアリアさんのお胸堪能してきなよ……」
不満なのか、柚羽は唇を尖らせていた。
「……何で俺、巨乳好きみたいなことになっているんだよ」
「…………だって、男の人って大きい方が好きなんでしょ?」
「俺に同意を求めるな……」
大きくため息をつきながら、柚羽の隣に座る。
ふと顔を上げると、日が完全に沈んだのか、あたりはすっかり宵闇に包まれていた。
「でも、さっきはすごく嬉しそうな顔で顔を埋めてたじゃん……」
「あれは不可抗力だし、それにな……」
俺の言葉に柚羽はゆっくりとこちらへと向いていた。
「俺は大きい小さいとかそんなのは興味なんてないからな……」
俺の言葉に柚羽は小さく「ふーん」と呟いていた。
「……俺は柚羽のがいいんだよ」
「えっ……?」
柚羽の方から驚きの声が聞こえてきた。
自分でもとてつもなく変なことを言ってるのは承知だ。
おかしすぎてまともに柚羽の顔を見ることができず、反対側を向いていた。
「ご、ごめん……よく聞こえなかったけど」
いや、この声色は絶対に聞こえていた。
多分、にやけた顔でこっちを見ているにちがいない。
まだ、柚羽の方を見ることができないが……。
「……もう一度だけだからな、これ以上は言うつもりないからな」
そう言って俺は何度も深呼吸を繰り返す。
そして覚悟を決めて俺はもう一度柚羽の顔を見てはっきりと告げた。
——俺は
——柚羽以外には興味はない。
と。
……ったく日が沈んだっていうのに、暑すぎだろ今日。
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